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第三十三話 混沌

 プラネットシリーズとの会合を終えて俺はジュピターに部屋へと案内された。

 玉座の間を出るとぐるっと円状に部屋が割り当てられている。俺の部屋は長い間誰も使っていなかったようだ。


 壁につけられていた灯台(とうだい)の明かりを頼りに2人で歩いていく。

 ジュピターは頭の後ろで手を組み鼻歌混じりで俺と一緒にいることなど忘れているようだ。


「なぁ」

「うん? なんだ?」


 俺の問いかけにジュピターは鼻歌をやめて俺に顔を向けた。


「俺は一応お前らの仲間のネプチューンを殺している。それでもいいのか?」

「気にしていないわけじゃないけど、弱い奴は死ぬだけだ。人間でもそれは同じだっただろう」

「確かにそうだけど……今この場でお前を殺すかもしれないんだぞ」


 確かな殺気をジュピターにぶつける。

 ジュピターは殺気に気づいているのかいないのか、ヘラヘラとした口調で話を続けた。


「別にやってもいいけど、今のお前じゃ死ぬだけだぜ」

「……ッ!」

「それに、今魔獣相手に反抗しても意味ないだろ。お前は人間の中にも居場所なんてないんだからな」

 

 ジュピターは短く刈り上げた黒髪を撫でながら言った。


 分かっている。

 俺は魔獣で、魔獣のルールに従って生を謳歌(おうか)していくのだ。

 場所が変わっただけだ。むしろ清々しいまでに単純明快な魔獣たちと過ごしているほうが楽かもしれない。


「ほら、ここがお前の部屋だ」


 ジュピターに示された部屋は木製のドアがズタボロでお世辞にもいい部屋とは言えなかった。

 おそらく内装も破損が目立つのだろう。


「なんだこれ」

「仕方ないだろ。お前だけずっといなかったんだから」


 ごもっともな意見を返されて俺はぐうの音も出なかった。


「ま、今日はもう寝な。明日からまた王国に行くからよ」

「また行くのか」

「人はさらうに越したことないからな。それに、王様とやらに交渉をしに行くらしいぜ」

「交渉……?」

「定期的に人をよこせば無作為に襲うことはしないってな」


 そう言うとジュピターは後ろに振り向いて手を上げながら「おやすみ、兄弟」と言って消えていった。


 鼓動が早くなる。

 明日また、人をさらう。

 俺は自分の気持ちですらよく分かっていない。

 

 嬉しいのか。

 怒っているのか。

 哀しいのか。

 楽しいのか。

 

 愛しているのか。

 憎いのか。


 混沌極まる心。

 いっそのこと死んでしまったほうが楽になるかもしれないな。

 

 俺はドアノブに手をかけようとする。

 ジュピターが去っていった方向とは逆の通路から足音が聞こえた。

 黒いロングマント……マーキュリーか。


「………………」


 相変わらず喋ることなく俺の後ろを通り過ぎようとする。

 その刹那――――――


「《アース》……《カイト・ダーヴィン》……お前がこれからどちらで生きていくのか、定めておけ。お前の正義をお前の心の中に定めておかなければ、この先に待つのは地獄だけだ」


 ボソリと、低い声で告げてマーキュリーは姿を消していった。


 なんだったんだ。

 滅多なことでは口を開かないとされる男が、俺に話しかけた。

 今話したことはそれだけマーキュリーにとって重要なことだったということか? それとも俺の身を案じたうえで話したことなのか。


 俺の心は未だに人間と魔獣が入り乱れたカオスだった。

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