第三十一話 逃亡
どこまで駆けていっただろうか。
気がつけば見たこともない地域に足を踏み入れていた。
傾斜の厳しい道にゴロゴロと大きな岩が転がる山岳地帯。未開の地の東区か西区か、どちらかだろう。
ジリジリと照りつける日が眩しい。
ここまでくればしばらくは追っ手がこないだろうと、日陰になる岩の下で腰を下ろした。
逃げてきたはいいものの、これからどうしようか。
もう勇者として活動はできない。ラキアやオリビア、バルトになにも言わずに出てきてしまった。
俺が勇者として活動したいかも今となっては疑問だ。あんな人間たちのために死ぬ思いで2年間戦ってきたわけじゃない。
小石を拾って山道に投げ捨てる。小石同士が当たってパラパラと砕け散った。
俺は再度マーズの言葉を思い出す。
――裏切り者。
俺は……誰なんだ?
「貴様はカイト・ダーヴィンではない」
突如、日陰であったはずの場所が照らされる。いや、照らされるどころではない。明るすぎて目が開けられないほど眩しい。
こんな辺境の地に誰がいるというのか……?
「常に貴様とは対話していたはずだが、父の顔を忘れるとは嘆かわしいことだな」
発光が抑えられて目が開けられるようになった。
目の前に立っていた人物は、見たことないはずなのに懐かしい感覚に襲われる人物だった。
黄金の甲冑に身を包み、背中には甲冑と遜色ないほどの明るさを持った翼が生えていた。体つきは翼以外人間となんら変わらないものの、頭部は鳥という不思議な造り。
だが、知っている。
知らないはずなのに知っている。
俺は、この、男を。
敵か味方か分からない状況。本来なら戦闘態勢を取らなければならないが、体が言うことを聞いてくれない。
ただ、男の言葉を待っていた。
「ふむ、見たところ事態が飲み込めていないようだな。我が息子とは思えぬ醜態だが……それでも因子を1番色濃く受け継いだ子だ。優しく接してやることもまた一興か」
息子……俺はこの男の子供だというのか。
「我の名はサン。貴様ら人間が魔王と呼ぶ存在だ」
頭の中のスイッチが切り替わる。
魔王――
人間の宿敵。
ラキアを悲しませた魔獣の王――!
「重力操作・下転!」
重力場を精製してサンを押し潰す。が、まるで意に介していない。
悠々と俺の眼前まで歩いてきた。
「親に対して攻撃を加えるとは……手痛い仕置きが必要だな」
俺と同じように掌をかざすサン。
掌同士がピタリとくっつく。
「仄日は天地を灰と化す」
スキルの発動――!
気づいたときには遅かった。
全身、どころではない。一帯が灰になってしまうのではないかと思うほどの煉獄。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺にこの火力を防ぐ手立てがない。
燃えて……散って……消えて……いく…………。
「安心しろ、大事な我が子だ。殺しはしない。貴様には教育をしていなかったからな。これから教えていく」
「カッ……!」
業火はなおも火力を上げていく。
俺の意識は、そこで途切れた。




