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第三十話 迫害

「まだ……固まったままだな」


 バルトは寝室で窓から外を見ているラキアに聞こえないように話した。

 ラキアの意識は戻ったものの、心ここに在らずといったように瞳に生気が宿らない。


「あんまりにもショッキングなことだったんだ。しばらくは休ませよう」


 オリビアは壁に背を預けながら口を開いた。


 俺にとってもあの映像は2度と思い出したくない。

 魔獣が人を食らう。人間の常識が通用しない。

 だからといって俺たちは歩みを止めるわけにはいかない。魔獣を滅ぼさなければ。


「未開の地の開拓はしばらく俺1人で行う。オリビアとバルトはラキアを看ててくれ」

「あぁ? お前1人で行かせられねぇだろ!」

「ラキアがいない今致命傷を負えば死ぬかもしれない。それにいつ魔獣が人間をさらいにくるかも分からないから、お前たちにはここに残って欲しいんだ」

「って言ってもよぉ……」


 バルトが口をモゴモゴとさせているとき、玄関の扉が勢いよく蹴破られた。

 ゾロゾロと騎士団の男たちが5人ほど土足で部屋に入ってくる。


「随分と乱暴な開け方だな。なんの用だ?」

「カイト・ダーヴィンだな? 王より捕縛の命令が出ている。大人しくついてこい」


 騎士団の男たちは俺を囲み始めた。

 

「おいおい、一体なんなんだよ!」

「バルト・ルドルフだな。邪魔をするなら貴様は牢屋に入れるぞ」


 バルトの問いかけに高圧的な態度で返す騎士団の男。


「事情の説明くらいはして欲しいものだな」


 オリビアは俺の前に立ち口を開く。


「カイト・ダーヴィンは反逆の罪で問われている。目撃者の情報もあった」


 騎士団の男は表情を変えないまま返答した。


「意味分かんねぇ! こちとら国のために尽力してるだろうが!」

「バルト、やめろ。とりあえず話を聞いてくるよ」


 バルトを制し前に出る。


「おとなしくついていくから手荒な真似はしないでくれ」

「ふん……その化けの皮がいつまでもつかな……?」


 騎士団の男は嫌味なセリフを吐いて俺を玉座の間へと連行した。

 


 ◇


 

 昨日ぶりに玉座の間へと赴いた。いや、連行されたといったほうが正しいか。なんせ腕を後ろにして縄で縛られているのだから。

 正面の玉座には王様が、そしてその隣にはガイアが立っていた。


「よくぞここまでノコノコとやってきたな」


 王様はいつもの頼りない雰囲気ではなく、鋭いまなざしで俺を敵視していた。

 連れてきたのはそっちだろうに。


「どうしたんですか王様。勇者に対してこんなことをするなんて」

「黙れ! この反逆者が!」

 

 王様は一喝して場の空気を凍らせた。

 ガイアはニヤニヤと俺を見ている。


「お前……ほかの勇者たちに危害を加えたそうじゃないか」

「先に仕掛けてきたのは相手のほう……」

「反論は許さん! しかもなにより昨日の孤児院襲撃の件、お前がかかわっているという話じゃないか」


 どういうことだ?

 俺やオリビア、バルトは必死に魔獣の侵攻を止めていた。暴言を吐かれるいわれはないはずだ。


「正規の北地区の勇者、ガイアが会話を聞いていたという証言がある」


 正規……ね。ゴリラントごときに敗走する勇者が真の勇者では先が思いやられるな。

 俺はため息をついた。

 会話を聞けるほど近くにいたのなら1匹でも多くの魔獣を倒してほしいものだ。


 ガイアは一歩前に出て王様のほうに振り向き仰々しく語り始めた。


「このカイトという偽の勇者は、あろうことか魔獣から裏切り者、と呼ばれておりました。魔獣となんらかのかかわりがあることは明白です。なぜ今は人間サイドに身を潜めているのかは謎ですが、処分は早いほうがいいでしょう」

「そういうことだ。まさか勇者同士が足の引っ張り合いをするわけもあるまい。ガイアの言葉は真であろう。思えばお前のスキルは異質だった。私もそのときに気が付いていればよかったな」


 王様は咳払いをして締めくくった。


 バカなことを言うな。

 あいつらは、人間は自分の利益のためなら勇者だって蹴落とすぞ。

 しかしもう信じられまい。どんなに反論したところで俺の言葉は届かない。


 ――――クソ人間ども


 ――――そうだろう。殺せ。

 

 ――――俺が人間だろうが魔獣だろうが関係ない。俺は人間の浅ましさが心底嫌いだ。


 ――――ならば、殺せ。


 ――――お前が誰かは知らないが、今は言うとオリニ……!



 吠えた。

 音圧だけで玉座の間がきしむほどに。

 ガイアは王様を庇うようにしていた。


 その姿が目に入ったとき、俺は俺を取り戻した。


 だめだ。

 人間を殺すことはあってはならない。

 同じ……仲間だろう……!


 俺は縄をちぎり外へと駆け出した。

 後ろのほうから王様の怒号が聞こえたが関係ない。

 ただひたすら、逃げ出した。 

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