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第二十九話 「ラキア」

 ラキアは、俺が言うのもなんだけど最初は頼りなさそうな女の子だった。


 常におどおどしていて、なにかを恐れているような雰囲気を(かも)し出していた。回復スキルという希少なスキル保有者にもかかわらず怯えていた。


 あるとき俺がケガをして回復スキルをかけてもらっているときだった。


 ――死ななくてよかったです。


 ふと、ラキアはそう言った。

 俺は気になった。ケガをしたといっても命が危ないというわけではない。


 聞けば、両親はラキアを置いて出て行ってしまったようだった。両親はよくクエストを2人で受けていて、そのまま帰ってこなかったという。


 そのまま孤児院に入り、孤児院の中では年長者だったラキアはお姉さん的な立場で献身的に子供たちを支えていたみたいだ。


 ――もう、誰1人としていなくなってほしくないんです。


 ラキアは俺に目を合わせることなくそう言っていた。

 勇者として子供たちを、国を守るために戦うのだと。


 その後ラキアとともに孤児院を訪れた。

 絵本を読んでとせがむ少女。ボール遊びをしたいという少年。ラキアは孤児院で引っ張りだこだった。


 クエストで疲れているにもかかわらず1人ずつ笑顔で対応していた。子供たちもラキアの姿を見て顔をくしゃくしゃにしながら笑っている。


 そんなラキアに心惹かれて。

 そんなラキアに恋焦がれて。

 そんなラキアを守りたいと思ったんだ。



 ◇



「――――――――――――」


 ラキアは上を見て口を半開きにしたまま動かない。

 オリビアとバルトが魔獣を全滅させて戻ってきた。

 

「おい! なにがあったんだ!」


 バルトは俺に問いかける。


 俺はなにも言うことができなかった。



 ◇



「食人……か」


 ラキアを俺の宿舎に休ませてオリビアとバルトに診てもらい王様の元へと向かった。ことの顛末を話すと、王様の眉間に皺が寄った。


「魔獣が食物連鎖の上にあると、そういうことなのか」

「おそらくは。孤児院を襲ったのも家畜として半永久的に人間を産ませるためでしょう」


 未開の地に人間が誰1人いなかったことも説明がつく。人間を攫っていたのだ。そして王国に被害が少ないことも納得がいく。スキル保有者が多く戦いになれば生捕は難しい。魔獣にとっても人間の絶滅は困るから、安寧(あんねい)が保たれていただけだった。


 だが、俺は思考が安定しなかった。

 人類の敵であることは間違いない。じゃあ俺たちが食べている牛や豚からすれば俺たちが敵なのか。


 俺たちはエゴで魔獣を敵と認識しているだけじゃないのか。

 孤児院の出来事は許しがたい行為だ。ラキアを悲しませるなんて万死に値する。

 けど……。


「奴らの根城は十中八九未開の地のどこかだろう。もうお前らにすべてが懸かっている。頼むぞ!」

「は……い」

「なんだその返事は。お前らの双肩(そうけん)に懸かっているといっているのだぞ!」


 俺の返事が気に食わなかったのか、王様は怒号を発した。


「すみませんでした。必ず魔獣を殲滅します」


 俺はポツリと呟くようにして玉座の間を後にした。



 ◇



 宿舎への道中。街灯の灯りを頼りにして歩く。


 ――お前は……に相応しい。


 最近脳内の声が頻繁に聞こえる。

 

 ――お前は……だ。……ている。


 うるさい。

 うるさいうるさい。

 うるさいうるさいうるさい!


 どうしてしまったのだ俺は。

 考えるまでもないじゃないか。魔獣は人類の敵。それが真実だ。


 俺はマーズの言葉を思い出す。

 ――裏切り者

 一体俺は何者なんだ?


 手の甲に刻まれた勇者の刻印を見る。

 そうだ……俺は、勇者だ。

 この国に光をもたらす使者だ。

 

 俺は勇者の刻印を見ながら手を街灯で照らした。

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