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第二十八話 消失

「あー、あー、なーんか思い出したわ、お前、ネプチューンぶっ殺したやつか」


 もう情報が入っているのか。

 男はフードを目深(まぶか)に被っているため表情が読み取れない。

 話しながらもなお次元の裂け目に子供を入れることをやめない。


「重力操作・下転!!!」


 問答無用で重力場を精製する。

 男は軽やかステップを踏んで重力場を避けて、孤児院の瓦礫から降りた。


「へー、それがお前のスキルかー。本当に俺らの魔力と似通ってんねー」


 手から離れた子供たちは燃える炎の中散り散りになって逃げていく。


「オリビア! バルト! 子供たちの避難を最優先させろ!」


 2人に指示を出して、魔獣と子供たちを任せる。

 俺は目の前の男を見据える。


 赤いロングマントやフードに隠れて全身が見えないが、服のだぶつきから見てかなりの痩躯(そうく)に違いない。


 加えて人を小馬鹿にしたような言動。

 今すぐにでも殺さなければならないが……。


「なにそんな目で見てんの? あー、だる」


 男は軽い口調で話す。


「当たり前だろ、お前なにして……」

「お前じゃねーよ。後ろの女だよ」


 言われて振り向くとへたりこんでいたラキアがいつの間にか立ち上がって男を睨みつけていた。


「あなたが……孤児院を……」

「あー、なに、お前ここ出身? ま、べつにどーでもいーけど。俺がやったよ」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ラキアは杖を取り出して単身特攻した。

 今までにないほどのスピードで駆けていく。


「ま、待てラキア!」


 静止するも止まらない。

 クソッ……許せラキア!


「重力操作・下転」


 俺はラキアの周りに重力場を精製して動きを止めた。


「ッ! ……カイトさん!」

「闇雲に突っ込んでもダメだ! あいつから……とんでもない魔力を感じる……!」


 ジタバタもがくラキアを見て男は笑みをこぼした。


「あー、なに? お前ら知らないのか。俺ら魔獣がなんで人間ごときを相手にするのか」


 やれやれといったように首を左右に動かして呆れる男。


幻の焔に戸惑って死ね(ヒッツェシュライアー)


 スキルを発動した……!

 俺はどこから攻撃が来てもいいように身構えた。

 

「おーい、俺はこっちだ」


 遥か先、逃げ遅れた少年の首を掴んで男が立っていた。

 しかし目の前にも男の姿がある。

 双子か?

 思案しているうちに今度は目の前の男が泣き叫ぶ少年を持っていた。


「お前らの相手をする理由はぁ」


 突如男が大きく口を開ける。舌を伸ばしたかと思うと――――

 そのまま少年の頭蓋骨を嚙み砕いた。

 ゴリゴリと骨を咀嚼(そしゃく)する音が聞こえる。

 喉が破れんばかりの骨を飲み込んで男は舌なめずりをした。


「こういうこと」


 ぴゅーぴゅーと血を噴き出してぐったりと動かなくなった少年。

 血管が沸騰する。

 蒸気でも出るんじゃないかと思うほど体が熱い。


「――――――――」


 言葉が出ない。

 あいつは今……()()()()()

 ラキアは――――


「――――――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 慟哭して、壊れたロボットのように動きを止めた。


「あー? なに驚いてんの。前らが牛や豚食ってんのとなにが違うんだよ。俺らの食料は人間なんだよ」


 考えるより早く駆け出していた。

 こいつは――殺す。


 男はチロチロと舌で息絶えた少年を舐めながらフードを外した。


「そう()くなよ。俺らもお前らが全員死んだら困るんだしよ。ギブアンドテイクといこうぜ」

 

 真紅の瞳で男は俺を見つめる。


「子作りして生きながらえれば価値あるんだからよ。あー、そうだった、お前は死んでもいいか。なんせ裏切り者だもんなー」

「重力操作・骨下転!」


 有無を言わさず拳を脳天に振り下ろす。だが、拳は空を切る。

 見上げればすでに半身を次元の裂け目に入れていた男がいた。


「冗談だよ。今はそっち側なんだろ? おいしく育てよカイト君」

「お前……逃げる気か……!」

「あー? 食糧確保が終わったから帰るだけだ。それに俺はお前じゃない。マーズ。魔王の4番めの子供だ。足りない脳みそで覚えておけよー」


 最後の最後まで軽い口調のままマーズは消えていった。

 燃え盛っていた炎は嘘のように消え去っていった。


 孤児院と子供と騎士、そして――――――


 ラキアの心とともに。

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