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第二十六話 人型魔獣ネプチューン 後編

「人間ごときがぁぁぁぁ!」


 ネプチューンはポニーテールが解けて腰まである髪を逆立てた。青色と白色の混ざった瞳がさらに濁りを増大させている。


「ぐちゃぐちゃにして殺してやるよぉ……!」


 脅迫めいた言葉を吐いたネプチューンは右腕を大きく振る。同時に振った右腕が水と化し散弾銃のように飛んでくる。


「なんだぁ? ただの水じゃねぇか」

「いや……!」


 バルトの油断を制して構える。

 

氷面に映る嘆きの表情(ダスアイス)


 水しぶきはたちまち氷と化して俺たちを襲う。


「そういうことかよ! 爆裂炸手!」


 バルトは右腕に爆炎を灯して氷のつぶてを薙ぎ払う。

 爆発による煙が消えたとき、ネプチューンは姿を消した。

 

 ドプンドプンと地中深くでうごめく音が聞こえる。


 このままでは不意を突かれて一人ずつ殺される。ネプチューンの地中からの攻撃を見抜くことは現状不可能だ。バルトの不意打ちももう使えない。

 どうする――――


 思案していると、地面が胎動し始めた。俺たちの直下から感じる。


「カイト君……これは……?」


 急激に気温が下がる。まさか――

 

氷面に映る嘆きの表情(ダスアイス)


 地中からネプチューンの声が響いた。


「重力操作・下転!」


 俺はおろか、仲間全員を巻き込んで重力場を精製した。

 隆起しようとしている氷を重力で防ぐ。

 ネプチューンは地中から巨大で鋭利な氷で俺たちを串刺しにしようとしている――!


「ガッ!」


 バルトがうめき声をあげる。これ以上は無理だ。

 重力場を解除するとともに《重力操作・炎上転》を地面に向けて放つ。

 半径20mの氷山を溶かしつくしていく――が。


「きゃぁぁ!」

「ラキア!」


 ラキアが氷山に吹き飛ばされる。

 守り切れない……! ラキアに目を向けた隙にオリビアも上空へ舞っていた。

 氷山は動きを止めずにせり上がる。


「だらぁぁぁぁぁ!」


 バルトは身の回りを守っているが、それ以外を守る余裕はない。俺でも範囲が広すぎて守り切れない。

 

「ハハハハハ! まずは雑魚から片付けさせてもらったよ。じきにお前らも串刺しにして殺してやるよ!」


 またも地中からネプチューンが喋る。煽りに惑わされるな……! 活路を見出すんだ!


「足手まといのゴミクズを連れてくるからこうなるんだよ! 全員ズタズタになって死ぬ運命なのさ!」


 ――体が動きを止めた。

 

 全身が震える。寒さのせいじゃない。


 怒り。

 憎しみ。

 殺意。


 俺の仲間たちが、ともに国を守るかけがえのない存在が、ゴミクズ……?


 溢れ出る魔力を止めることができない。

 脳内がひりつく。

 聞こえるのは脳内に響き渡る声。


 ――――仲間を守りたいのなら、力を開放しろ。


 守りたい。仲間を、国を。


 ――――殺せ。


 殺す。


 ――――――殺せ。


 殺す。


 ――――――――殺せ。


 殺す!!!


 俺の体から黒くヘドロのような魔力が噴き出す。

 空気がビリビリ震えて地鳴りまで起きた。


「カ、カイト……」

「ラキアとオリビアを連れて……俺から1km以上離れろ」

「ちょ……」

「早くしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺が俺じゃナクナル……前に……!


 バルトは察したのか、すぐに戦線離脱した。

 それを見て俺は地中に向けて掌をかざす。


「重力操作・黒炎上転」


 目に見える範囲すべてがたちまち漆黒の炎に包まれる。

 不思議と俺だけは平気だ。


「あちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 耐えきれなかったか、通常の姿に戻ったネプチューンがせき込みながら地上に姿を現した。

 

「なんだよこの力……まるであたしたちのような……!」


 俺の姿をとらえたネプチューンは白い顔を青くした。


「お前……誰だ?」

「オイオイ、今サッキマデ戦ッテイタダロウガ」


 オカシナコトヲ言ウ。俺ハナニカ変ワッタカ?


「その瞳……白色、肌色、青色、緑色……この配色は……! ジュピターの言っていたことはこういうことだったのかよ! だが……私に仇なすなら容赦はしねぇ!」


 ネプチューンは自らの下半身水と化す。その背後には10mは優に超える津波が迫ってきていた。


「これがネプチューン最大パワー! 喰らえ! 水面に映る苦悶の表情(メーア)!」


 …………ツマラナイ。

 コレガプラネットシリーズノ力ダトイウノカ?


 俺はため息をついて掌をネプチューンにかざす。

 掌に《重力操作・下転》を幾重にも発動していく。

 下転に下転を重ねた究極の重力場――――――!


「重力操作・極点下転(ブラックホール)!」


 漆黒の渦が視界すべてを覆いつくす。

 津波は渦に触れた瞬間吸い込まれてなかったことになる。

 発生した黒い重力場は、【存在】を許さない。なにもかも飲み込み、【存在】していたという事実すらも消し去る。

 

 ただひたすらに、世界を黒に染め上げる。

 ゆえに、極点下転(ブラックホール)


「ありえない……ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 ほどなくしてネプチューンの体も黒い渦に触れて、その存在は奇声とともになにもかも消えてなくなっていった。

 気づけば俺の周りは大地以外姿を消していた。


「なにが……起きたんだ……?」


 俺は自分の掌を見る。

 恐ろしい夢を見ていたような……。


 しかし、目の前の現状が夢ではなく現実であることを如実に伝えていた。

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