第二十二話 バルトの過去
「ストップだ! カイト君!」
オリビアの叫びで俺は動きを止めた。
見ればバルトは片腕があらぬ方向に曲がっていて、顔面も凹んでいた。気絶しているのか、ピクリとも動かない。
俺が……俺がやったのか?
人間を相手に……?
立ち止まっている内にラキアとオリビアが駆け寄ってくる。
ラキアはすぐにスキル《万物介抱》でバルトに治癒を施す。ラキアの手から青白い光が放出されると共に傷が癒えていく。
「…………やり過ぎです、カイトさん。どうしたんですか……?」
治癒を行っているラキアは聖女のように美しい。だが、今はその風貌が苦しい。
「ごめん」
「謝るのは私じゃなくてバルトさんにです」
「そう……だな」
俺は下を向くことしかできなかった。
俺は――どうなってしまったんだ?
◇
数十分後、バルトは目を覚ました。
ラキアの治癒能力はかなり高い。俺も何度もお世話になったから知っているが、重い傷でも10分もあれば完治できる。
周りをキョロキョロと見回すバルト。俺と目が合うと、ため息をついて項垂れた。
「あー、オレ負けたのか……」
バルトは悔しさを滲ませた表情をしながら口を開いた。
「バルト……悪かった」
「いや、いいよ。お前がいる限り王国に手出しできねぇってことがよく分かったよ」
バルトはオリビアを見上げた。
「オリビア、お前の条件を呑んでやるよ」
「…………それは、もう王国に対する敵対心はないということか?」
オリビアの問いにバルトは拳を床に叩き付けた。
「んなわけねーだろーが! そうやすやすとこの気持ちは変わらねぇよ……!」
バルトの怒りの根源がいまいち見えてこない。勇者の刻印を手にして、尚かつハイリスクハイリターンのスキル。実力としても申し分ない。何がバルトをかき立てるのか。
「もしよければ聞かせてくれないか? どうしてお前がそこまでして王国を憎むのか」
オリビアも関心があるのか、黙って腕組みをしている。
バルトは目を閉じた。やがて、考えがまとまったのか、ゆっくりと目を開けて話し始めた。
「……先代の王のとき、今程充実した暮らしはできていなかった。王に統治する能力が欠けていたからな! そのせいでオレの家族は常に貧乏な暮らしを強いられた。そして、最終的に親はオレを残して死んじまった。そっからは一時期孤児院に居たが、数年で出て1人で恨みを溜めていたさ」
孤児院、というワードを聞いて、ラキアがハッとした。
「やっぱり……見たことあると思ったんです。暗くて鋭い目が印象的で……」
「そりゃどうも。なら分かるだろ。今だって飢えに苦しむ子供は多くいる。王は見て見ぬふりしているだろう」
バルトは立ち上がり高らかに宣言する。
「だからオレが王になってこの国を変えるんだ!」
演習場一帯にバルトの声が響き渡る。
確かな思い。むやみやたらにクーデターを起こしたわけではないということか。
なら――やるべきことは1つだ。
「バルト、俺についてこい」
「最初からそのつもりだよ」
「そうじゃない。勇者として俺についてきて責務を果たせという意味だ。勇者になって、この国を変えろ」
「んなことできるわけ……」
「確かに今のままでは王様になることはできない。けど勇者として功績を挙げれば王様に進言することも可能だろう」
俺は一歩、バルトへ歩み寄る。
「クーデターを起こしたその手で、子供たちの未来を作るつもりか?」
バルトの瞳孔が開く。糸が切れた操り人形のようにドサリと尻もちをついて、それ以上もうバルトは何も話すことはなかった。




