第十八話 人型魔獣ジュピター
濁りきった瞳。
言葉を扱う魔獣は初めてだ。
言霊1つ1つに魔力が乗っていて圧倒的圧力を生み出している。
「おーい、人間ごときが無視すんなよ」
男は髪をかきながら呆れた様子だ。
――俺と同レベルか?
まずはラキアとオリビアを逃がさないと。
「ラキ……」
「へぇ、いい魔力してるねお前」
声を発する瞬間、男は既に眼前に立っていた。
今までの魔獣とはスピードが違いすぎる。俺は2人を背にして庇う様に立つ。
「お前……魔王の手下……か?」
「手下なんて言い方はよくないな。俺たちは家族だ。お前たちが魔王と呼んでいる存在が父ってわけ」
男は橙色と白色が混じった瞳を指さして話す。
「俺はプラネットシリーズ、5番目の子供ジュピターだ」
5番目……。少なくともジュピターと同じレベルが他に4人はいるってことか。
ジリジリと後退する。ラキアとオリビアも空気を感じ取っているのか、俺よりも早く後ろに退いている。
とにかく時間を稼ごう。
「この集落には人間が居たはずだけど、どうしたんだ」
「それ聞く? 殺したに決まってるでしょ」
ジュピターはあざ笑うように口角を上げた。
「テンション低いなー。俺が名前を名乗るなんて滅多にないんだけど。久々に骨のある人間に出会えてウキウキしてるってのに」
途端、ヘドロのように粘着質な魔力が集落全体に広がっていく。
吐き気がする程凶悪だ。
「ただ狩るっていうのも飽きてきたからな……少しは楽しませてくれよ!」
話し終わるや否や、ジュピターの拳が飛んでくる。
ギリギリ屈んで避けて足払いを放つが、バク転で躱された。
「重力操作・下転!」
ジュピターのいる位置に重力場を精製して圧し潰す――!
「ウゴッ……! なんだこのスキルはッ……!」
完全に重力場の中心にいるが、皮膚が硬すぎるのか潰れるまでにはいたらない。
体を震わせて耐えきられている。
「氷獄紋・六華!」
後方に位置していたオリビアが支援するためにスキルを発動した。6枚の氷の花弁が重力も相まって猛スピードでジュピター目掛けて飛んでいく。
しかしジュピターに当たると花弁は容易く砕け散ってしまった。
「……ッラァ!」
ジュピターは飛び上がり自力で重力場から逃れる。
バカな……! 潰されないだけでもおかしいのに、重力場から脱出しただと?
見たところ多少の裂傷があるものの、致命傷とは程遠い。
「本当に驚いた。俺に傷を負わせるなんて……お前本当に人間か?」
ジュピターは失礼な言葉を並べながら腕についた血をペロリと舐めとっていた。
「こっちもビックリしてるよ。俺といい勝負できる相手がいるとは思ってなかったからな」
まだジュピターは本気を出していない。おそらく人間でいうスキルを持っているはずだ。
チラリと後ろを見る。オリビアに守られるようにラキアがいた。
「オリビア、ラキアを連れてもっと遠くに行け」
「それはダメです! あんな危険な相手にカイトさん1人置いていくわけには……!」
ラキアは残ろうと駄々をこねる。
違うんだ。俺が本気を出したら巻き込んでしまう可能性がある。
「なーるほどね……」
ジュピターは俺が話している間ずっと俺を凝視していた。何か思うところがあったのか、1つ、2つと頷いて放出していた魔力を消した。
「気が変わった。ここは退かせてもらおう」
「……させると思っているのか?」
俺は掌をジュピターに向ける。
「逃げる俺を捕まえられるならやってみな」
ジュピターが話し終えると、現れたときと同じ次元の裂け目が生まれて飲み込まれていく。
「また会おうぜ、カイト君」
そう言ってジュピターは消えていった。
集落は元の静寂へと戻った。




