第十七話 北20地区
「重力操作・下転」
「ギャアァァァァァ!」
真っ黒の皮膚をした4足歩行の魔獣、リザードを重力で押し潰す。
北11地区に足を踏み入れてから、魔獣の数が急に増えた。やはり人間が介入していない地域では魔獣が跋扈している。
「氷獄紋・氷柱雨!」
空中に氷柱を生成し、魔獣に向かって降り注ぐ。
俺との戦いでは呆気なくやられたオリビアだが、対魔獣戦では全く後れを取っていない。他の勇者たちの強さと比べても遜色ないどころか上回っている。
「2人共、凄いです!」
そんな俺たちをラキアは後ろで見ている。
ラキアは回復専門であるため、俺たちが傷を負わない限りは出番がない。俺が傷つくということはありえないから、オリビアが不覚を取ったときに活躍してもらおう。
北11地区を抜けて12地区に入る。
北区の特色は変わらず、森林の中を突き進んで行く。
「こうも木々が生い茂っていると、気が滅入るな」
オリビアは上を見上げながら言った。
確かに大木が所狭しと立ち並んでいて、葉が空を覆い隠し日が差さない。魔獣が潜んでいるのか、時折ガサガサと音がして気を抜けない。
「そうですね……お日様が恋しいですね」
ラキアがはにかみながら話す。
表現がいちいち可愛いんだよな、ラキアは。
魔獣を討伐しつつ、北20地区まで到達した。
2年かけて北9地区まで行っていたことが嘘のようだ。
20地区まで行くと、木々の本数が減っていて、先まで見通すことが可能となっていた。見れば川も流れていて、木には見たこともない果実のようなものが付いていた。
「これはまた、今までとは違う感じだな」
これまでは人が住むことなどできないような場所であったが、ここは人間が生活できるような気がする。
「私たちが王国を作って生活しているように、未開の地にも人間が生息しているかもしれないな」
オリビアは鋭い眼差しで未開の地を見ていた。ラキアも体を前にして見つめている。
「あの……なんだかお家のようなものが見えます」
ラキアが指をさした先には、丸太を繋ぎ合わせて建築物のような形をしていたものがあった。一軒家程のサイズがあり、よく見ると何軒もある。
「…………オリビアの言う通りかもしれないな。用心して行こう」
声を発さず、頷いて賛成の意思をみせるラキアとオリビア。音をたてないよう慎重に集落まで近付いていった。
一番近い丸太で作られた家まできたが人気を全く感じることができない。
「人がいないのか……? だが、近くで見れば見るほど偶発的にできたものとは思えない。確実に人の手が入っているはずだ」
俺は丸太をさする。粗削りだが、建築技術は王国外にもあるようだ。
ますます怪しい。数10人程度の集落だが、誰1人として外に出ていない。
――――――背筋が、凍った。
虫が背中を這いずり回り脳髄が痺れる感覚。
「カイト君!」
オリビアが叫ぶ。目線は集落の中心。そこに次元を割いてナニかが出てきた。
緑のマントに道着のようなズボン。短く刈り揃えられた黒髪。一見すると人間に見えるが、異質な魔力は魔獣そのものだ。
「人間の反応があったから来てみれば……生き残りがいたとはな」
俺たちが視界に入ったのか、橙色と白色がマーブル状になった瞳で男はこちらを向きニヤリと笑った。




