第十五話 浅ましき人間
城を出ると、待ち伏せしていたのか、ハウメアからいきなり胸ぐらを掴まれた。必死の形相をしている。ケレスやエリスも直接的に俺に危害を加えてはこないものの、眼差しには憎しみがこもっていた。
「君ぃ、王様に何ごますってんだよ。追放された人間は大人しくしてろよ」
「なっ……」
オリビアとラキアが声を上げようとしていたが俺は手で制した。
こういう奴らは少し分からせないとダメみたいだ。
「ごますってなんかないよ。ただ俺の力を認めてくれているだけだ」
「でもおかしいよねー、王様が追放された人間を真っ先に挙げるなんてさ」
エリスは両手を頭の後ろで組んで舐めた口調でハウメアに同調する。その後ろでケレスが指の骨を鳴らしていた。
「こいつにはちょっと仕置きが必要みたいだな」
「おいおい」
そりゃ俺のセリフだろうに。
「ここだと目につく。ちょっと離れた場所に行こうか」
ハウメアは長い前髪を手で払いながら先導していった。
浅ましい人間たちだ。
俺はオリビアとラキアに手を振って1人でついて行った。
◇
未開の地、南3地区。
北区とは違い、木々はほとんどなく岩や砂場で形成された荒野となっていた。時折風が吹き砂埃が体に当たる。
「よくもまぁ1人でついてきたな。かっこつけてるつもりか?」
ケレスはやる気満々といった感じか、腕をグルグルと回しながら俺の前に立った。
俺の身長を遥かに超える巨躯だが、魔力量はガイアとそう大差ない。
「ケレスー、殺さない程度にしてねー」
エリスは大きな岩の上に座っていて高みの見物だ。ハウメアもその隣で座っていて、歪な笑顔で俺を見ている。
「分かってるよ、骨の1、2本折って勘弁してやるぜ!」
魔力を込めた拳で殴りかかるケレス。
骨の1、2本ね。
「重力操作・下転」
殴りかかってきた右腕に重力場を発生させて腕を折る。
「グアァァァァァァ!」
ゴキャッと耳障りな音と共にケレスは叫びながら転げ回った。
「まだまだ、もう1本も折らないと割りに合わないだろ」
ゆったりとケレスに近付こうとすると、空中からハウメアとエリスが飛んできた。ハウメアは双剣、エリスは短剣を手にしている。共にスピードタイプか。
「よくもやりやがったなぁぁぁ!」
ハウメアは双剣に炎を纏って、回転しながら突っ込んできた。まるでハウメア自身が炎と化したかのように。
「喰らえ! ボルケーノサイクロン!」
俺は掌をハウメアに向ける。こいつはどうしてやろうか……。
考えている内に、背後から殺気を感じた。エリスが気配を消して近づいていたか。
まるで問題ない。
「重力操作・流転」
自分を中心に半径3mの重力場を精製する。このフィールドはいわば下転と上転の合わせ技。俺の気が済むまで対象をバウンドし続ける。
「な、なんだこりゃあ!」
ハウメアは回転を維持したまま地面に叩きつけられ、また上空へと上がり再度叩きつけられる。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
エリスも同様に、なす術なく地面と何度もキスをする。
荒野の中で骨が砕ける音が木霊する。
最初は「ぎゃあ」だの「ぐわっ」だの声をだしていたが、次第にその声は聞こえなくなってきた。
「充分か」
指を鳴らして重力場を解除する。ドシャリと地面に伏したハウメアとエリスは完全に気絶していた。
と、尻もちをついて失禁していたケレスが足をバタバタと動かしながら逃げようとしていた。
「おい」
「ひ、ひいぃぃぃ!」
先程までの威勢のよさはもう消えてなくなり、怯えきった表情のケレス。
追撃は必要ないだろうが、伝えることがあるな。
「お前たちが足の引っ張り合いをすることは結構だけど、俺たちの邪魔だけはするな。俺たちは本当に国を守るために活動しているんだ。メンツを気にするなら他所に行けよ」
「は……はいぃぃぃぃぃ!!!」
震えながら立ち去ろうとする。
「ああ、それと、俺の仲間に手を出したりしたら、こんなものでは済まさないぞ」
そう言って俺はハウメアとエリスが座っていた巨大な岩に向かって《重力操作・下転》を発動する。
ズンッと音を立てて崩れていった。それを横目に見ていたケレスの顔はみるみる内に青ざめていった。
「わ、分かりましたぁぁぁぁぁ!!!」
ケレスは気絶したハウメアとエリスを抱え込んであっという間に見えなくなる。
これで変な邪魔をする奴はいないだろう。
乾いた風が頬を撫でる。
――どうして、人間は浅ましいのだろうか。




