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第十三話 別区画の勇者

「今回は私のおごりだ! 好きなだけ飲み食いしていいぞ」


 夜、王国内の中でも最大級の酒場で、オリビアからごちそうされた。


 結果的にオリビアは王様から許された。

 白い顎髭をさすりながらどうしたものかと悩んでいた王様に、俺とラキアからもお願いをして何とか不問としてもらうことができた。しばらくは副団長に引継ぎをしたりと、城とギルドを行ったりきたりすることにはなるが、とりあえず一安心だ。


 そんなこんなでオリビアは感謝の印として俺とラキアにご飯をおごると言い始めたのだ。


「こんないいところでご飯をごちそうになるなんて何だか申し訳ないです」

  

 ラキアは純白のローブの裾をギュッと握って委縮しっぱなしだ。俺もここまで大きな酒場に来たのは初めてだから若干の不安はあったが、自分は勇者だと思えばそこまで緊張することもない。


 丸テーブルに並べられたローストチキンやポテトを食べながら、ふと視線に気付く。オリビアも感じているのか、しきりに俺と目を合わせた。

 敵意……ではないが、疑惑の念が込められたような魔力を突き付けられている。しかも1人ではなく複数人だ。


「カイト君……」

「分かってる。全く、何だっていうんだ」


 狙われるようなことをした覚えはない。気を張りながら食事を続けていると、丸テーブルの座席が引かれる音がした。

 くるか――――――?

 身構えていたが、念を込めた張本人たちは真っ向から歩いてきた。


「じっと見るような真似をしてすまない。私は南区の勇者パーティのリーダー、ハウメアだ」

 

 赤い具足や防具を身に纏った細身の男が話しかけてきた。

 長い前髪が鬱陶(うっとう)しそうだ。


「俺は西区の勇者パーティのリーダー、ケレスだ」

 

 半裸の大柄な坊主男が合わせてきた。


「あたしは東区の勇者パーティのリーダー、エリス! よろしくね」


 ――――――おお!

 まるで盗賊のような黒いバンダナを被っていて、胸元やおへそを出したファッションは、およそ戦闘には向かないだろうが男を(たぶら)かすには十分だ。

 

「…………なんかきもいんだけど」


 おっと、鼻の下が伸びていることがばれてしまったか。恐らくラキアであろう怒りの魔力が俺にぶつけられている。仕方ない、シャキッとするか。


「そんなお三方が一体なんの用ですか?」


 俺は3人に向かって発言した。

 勇者パーティの中でもまとめ役なのか、ハウメアが前に立ち話を始めた。


「最近、北区の勇者パーティが分裂したと聞いてね。何事かと思ったんだが、刻印が刻まれた君を発見したんだ。私が見たことない勇者だったから北区の人間だろうと思って話しかけたというわけだ」


 勇者パーティが区で分けられていることは知っていたが、これまで直接的なかかわりはほとんどなかった。全員が別々の未開の地に赴いているということもあるが、何よりライバル意識が強すぎたのだろう。見たところ北区以外はそこそこ親交はあるようだが。本当にくだらない連中だ。


「なぜ分裂してしまったんだい? 我々は王国のために未開の地を開拓する同士だというのに」

「そう言われても……ただ追放されただけですよ」

「では勇者としてはもう動いていないと?」

「いえ、俺たちは俺たちで勇者として動いています」


 俺が話すとエリスは嫌な笑顔でクスリとした。


「追放されたってことはそこまでの実力だったってことでしょ? それでも勇者を続けるなんてバカみたい」


 エリスにつられてハウメアとケレスも隠そうともせずに笑い始めた。


「まあそう言ってやるなエリス。分裂した片側のパーティは名誉の負傷を負ってきたそうじゃないか。それだけ北区は勇者としては力不足ということだ。あまりいじめてやるな」


 ケレスはエリスの背中を叩きながら、もう抑えきれないといったようにバカ笑いしている。

 なるほど。こいつらは俺たちをバカにするために近付いてきただけか。よくもまあ無駄な時間を過ごせるものだ。何が未開の地を開拓する同士だ。どいつもこいつも足の引っ張り合いだ。


「諸君、これ以上食事の邪魔をしないで頂きたいな」


 俺が呆れている間にオリビアが割って入ってきた。既にレイピアに手が添えられている。


「おっと、これは騎士団長のオリビア氏ではないですか。どうしてこんなところに?」

 

 ハウメアは今気付いたのか、オリビアに体を向けた。


「私はカイト君のパーティ……分裂した北区の勇者パーティの片割れに入ったのだ。これ以上侮辱するようなら、私が相手になるが?」

「おいおいマジかよ。あの騎士団長が勇者パーティに……? しかもこんな小便臭いガキのパーティにはいるなんて……」


 ケレスは一歩後ろへと引いた。オリビアの名前は王国中に広まっている。確かにあの腕前は俺以外を相手にすれば大抵の相手は倒せるだろう。


「まあまあ、矛を収めてくださいオリビア氏。これからは同じ勇者パーティとして仲良くしていきましょう」


 ハウメアはそう言って踵を返した。他の2人もハウメアについて行く。


「全く、あんなのが勇者とはな」

 

 鼻息を荒くしたオリビアは落ち着く様にため息を吐く。俺も同意見だ。


「なんであんな酷いこと言うんでしょうね」


 ラキアは自身の太ももを見る様に項垂れていた。


 せっかくのごちそうだというのに、嫌な連中のせいで美味しく感じることができなかった。

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