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8・2回目の柵

 


 一度飛行船が来て、4ユロルほどお給料が上がったのと、組合から優秀賞を頂きました。月に1度派遣先が組合に評価と実績を魔道通信で送信するのですが、それがどうも良い感じだったみたいです。優秀賞の副賞は50ユロル。そっか。割とどうでもいい。


 本の3巻目を買ったのと靴そして魔力燃料を買った以外はあんまり欲もないのでパス…できずに櫛とハサミをルビーネさんに買わされました。女性なんだから身だしなみにも気をつけなさいと。はーい。爪切りはありましたが、爪ヤスリも。尖った爪で布や皮膚を切ったらどうするのと。なるほどーよく考えてますね。


 まあ切ってもらうのは村の理容師さんなんですけどね。0.1ユロル払ってさっぱり。


「うーんすっきり。綺麗にカットするのも良いもんですね。」


「黒くて艶と光沢がある髪だから、長くても良いけどお手入れが大変だからな。」


「ですよねえ。後ろで縛るだけじゃ駄目ってルビーネさんがおっしゃってました。」


「ルビーネさんは常に爪先まで整えてるからな、あれは見本だよ。」


 さって、手持ち金は1152.68ユロル。ほっとんどお金使わないんですよねえここ。共同体みたいな感じなんで。私が代表で染料や修理材買うくらいですかねー使うとしたら。ほとんど損失なしで帰ってくるのですけれどもね。大きいお金は私が一番持っているんですよ。私が支払って、みなさんからちょっとずつ回収した方が何かと上手く回るんです。

 靴は大手メーカーのやつ買ってますけどすぐ履きつぶしちゃいます。靴はこういう所では命ですからね。




 飛行船が帰ったあたりで冬の年になりました。PDAがどうやって1年計ってるのかわかりませんけれど、大きい恒星にちょっと地軸が傾いてるとても巨大な星が2恒星をまわりつつ冬になるとしたらどれくらいになるのでしょう。答え:わかりません。

 そ、四季はあるんですけど結構曖昧で、しかもその四季が数年続くんです。大体4~5年かな。ずーーーーっとその季節です。転換期もながーく続きますからわかりますけどね。



 寒い。木もあまり育成しません。モンスターも引っ込みます。みんな巣に籠もる数年になるのです。薪を貯めておかなかったら凍死しますね。私の活躍が増すときでもあるのですが。


 私は極めて希な、エネルギー収支がプラスな人間です。エネルギー収支というのは、例えば水を出して魔素を消費します。魔素を体内に取り込むには水や栄養などのエネルギーが必要なんですが、その水を全て飲んでも生み出した水に対してはエネルギーとしてはマイナスになるんです。ほとんどの人がそうです。たとえ素晴らしい栄養のある料理を作り出しても、それを全て食べても飢えはしのげないんです。ロスが出て収支がマイナスなんです。

 しかし私はしのげるんです。エネルギー収支がプラスなんです。これを利用しない手はありますか?


 みなさまのお家に訪問して、おいしい栄養のあって滋養のあるスープを鍋に出していきます。代わりに少しばかりの食べ物を貰います。ある程度回った所で頂いた食べ物を食べ、自分でスープを作りだして補充していきます。これを繰り返せば栄養のあるスープを出せるとともに、薪を暖房目的に集中して使えるんです。無駄に薪を消費しなくて済む。凄くないですか?凄いですよね。思考が7つあるから出来る技だと思っています。みんなでロスなく割り振って生み出してますからね。


 ―わたしたち―


 ―てんさい―


 ―紙の落とし子―


 ―やだー―


 ―TRPGにはこういう魔法いくらでもあるんですけどね―


 みんなのおかげなので何も言いません。みんなのお陰なんだよー、後TRPGはちょっと来い、教育する。



 さて、冬ならやる行為があります。


 柵の拡張です。

 モンスターが巣に籠もっているので比較的やりやすいそうです。でも地面凍ってるよね。



「では、柵の拡張を行う。冬じゃし、夏前には防壁の完成はしておきたいからのう。冬なので楽だが、冬なので楽ではない。硬い木材で柵を用意すること。終わったらすぐに木材で挟んだ土壁でいいから防壁を作るぞい。今回は死を悲しむ暇はない。すぐには行わんが、しっかり準備をしておいてくれ。以上じゃ。」


「マイケルだ。特に何をというのはないが、武具の手入れはしておいてくれ。良い状態の武具じゃないとマナが上手く働かないからな。マナがないと太刀打ちできるモンスターじゃないのはわかってるよな。冬とは言え数は出てくると思う。しっかり準備してくれ。以上。」


「ルビーネです。薬草は可能な限りポーションにしておきましょう。気付け薬も用意しましょう。支援がいないと前線は安心して戦えません。可能な限り対応できるという準備をしておきましょう。魔素ポーションも長期間の戦闘では欠かせませんよ。」


 とのことです。みんな整備に躍起になりまして、スープ配達以外に鍛冶屋のふいごになるのが日課となりました。幸いここは鉄が出るんです。勿論設備がないので鋼鉄じゃないけどね。



「で、刃物が欲しいと。」


「ええ、私も前に出れますからね。精神もかなり頑丈になりましたし。」


「しかしのうリンカちゃん、その身長だと全長65cmくらいしか作れんよ。持ち手が10から15cmとすると、鍔も柄頭も考慮して刃渡りが42~5、それじゃあモンスター相手には歯が立たんよ。全てが小さすぎるんじゃよ。」


「そうですかーがっくり。」


「今は完全に手が回せませんが、終わったらチェインメイルかブリガンダインとすね当てくらいなら作れますので、防具を強化してマナ効率を上げた方が良いと思いますよ。大きいナイフも手斧もあるからそれで攻撃を弾けますしカウンターは出来ます、メイン攻撃は魔法に頼りましょう。」


「わかりましたー…」かっこいい魔法剣士計画は砂となって消えました。



 半年に一度くらいくるのかな、飛行船が来て私が代表として色々と買い込み、できる限りの準備が出来たので作戦が開始されることになりました。



「では、柵作戦を開始する。ここが取れれば駆逐にかなり近くなるし、新しい鉱山や平野が手に入る。この村の分岐点となるやもしれん。今回はみんなの命を貰うことになるだろう。すまないな。」


 カール団長の静かなそして固い決意の演説とともに人員が配置されていきました。私は前線の衛生兵です。即座に回復させて可能な限り前線に戻すのが役割。

 6思考のみんな、頼んだよ


 ―ま―


 ―か―


 ―せ―


 ―て―


 ―頼られてるじゃないですかやだー―


 ―TRPG的にも正念場ですね。―



 そろそろ作戦が始まります。私は武器としてピストルとランチャーをすぐに手にできるように準備しました。使わないだろうけど、保険ですね。どちらも極めてコンパクトなので。PDWはかなり小さいですが目立っちゃいますね。後はナイフを順手でもてるように。そして救急キットをヒップポーチから出して入れることの出来る大型ポーチの中に。ヒップポーチは中が大きい分取り出すのに時間がかかります。

 ベルトポーチの水筒ポーチに入るように作って貰った水筒には、高エネルギーのドロドロしたスープが入ってます。事前に作っておきました。完全にエネルギー収支はプラスです。いける。



「では、スタートするぞ。各員臨戦態勢!」


 始まりました。まず戦闘要員が前に出てモンスターを引きつけるようです。モンスターは…人型だったんだ。1m50くらい、私と同程度の子鬼が出てきました。魔素が溜まってるので一度だけ撃ちましょう。大丈夫大丈夫……


「魔素が溜まってるので一度撃ちます!マナ設定完了!発射2秒前!1!…いきます!!!」


 7つの矢がほとばしり、7体の子鬼の頭を貫きました。即死でしょう。ぐぐぐ、大丈夫…


「よくやった!リンカちゃんは体調を見てたまに撃ってくれ。いくぞっやろうども!!!!!」


 うおおおおおおおおおお!!!!!


 戦闘部隊がぶつかっていきます。…すごいな。私の苦悩なんて知らないかのようにバッサバッサなぎ倒していってます。殺す恐怖と嫌悪感を克服してるんでしょうね…私はそういうのが強く出る近接武器で殺す余裕は、ないです…比較的そういうのが出にくい遠距離でも厳しいのに。

 基本的に人は、殺す対象が近くて武器が短いほど殺すストレスが溜まるんです。素手が最大ストレスで、素手よりナイフ、ナイフより剣、剣より槍、槍より弓、弓よりもっと遠距離の魔法…という感じで。あの榴弾は遠距離も遠距離だったから出来たような物です。間接射撃ってやつですからね。


 そんなことを考えてる内に柵を作成するグループが前に出て柵を立てていきます。あんまり上手く刺さってないですね。手伝おうにも私は衛生兵なので…魔法使いほどじゃないけど魔法が得意な人も、大体衛生兵ですね。治癒が得意ではなくて前線や柵に混ざっている人もいます。


 開始30分、こっちとモンスターで「疲れ」の差が出てきました。ちょっと全体の動きが悪いです。まだ重傷者は出てませんけれども。カールさんは黙ったままです。私は魔素が満杯になった時点でマジックアローで処分しています。大丈夫かな。


 ついに重傷者が出ました。私に最優先で運ばれてきます。うう、首をやられてる、どうあがいてもこれは死ぬよ。うううう…

 どうしよう、救急キットの絆創膏なら説明通りになるならこれでも助かる。でも秘密がばれる。どうしよう。



 救急キットを使うことにしました。ここは私を受け入れてくれた村です。最悪売られても、売られても、文句は…ない…です。


「首を接着してください、特殊な絆創膏を使います。」


 首をつなげて貰って、絆創膏をピタ。…急速に傷が塞がれていきますね。診断の魔法を使いましたけど、内部も綺麗になってるようです。


「…これで大丈夫です。ただ、血は取り戻せないです。」


「リンカちゃん、それは…」


「特殊なキットです…」


「……………」



 それからも次々と重傷者が私の下へ来るので、治癒したり絆創膏を貼ったりしました。みんな後ろに下がりますが、元通りになれば村人として活躍できるはず。


「その柵が終わったら一度休憩にする!準備!」


 その言葉で前線組が設営中の柵の近くにあつまり、防衛戦を開始しました。モンスターはすでに2mを超える子鬼となっています。もう鬼ですね。オニとは姿も形も違いますが。


 これ、私が突っ込んで柵の部分を柔らかくすれば速くなるのでは。


「団長」


「ここで待機!!」


「…はい。」


 ここで勝手に動く人はただの蛮勇です。小説としてはおもしろいんでしょうけれどもね。学園で学びましたが、集団行動においては勝手な行動は他の人も引き連れて事故に巻き込む可能性があります。待機と言われたら原則待機なんです。勇気と勇敢と、蛮勇は違うんです。


 祈るような感じで前線をみつめます。……待機であればここで待機しますが、遠距離攻撃は出来ますね。次は休憩だし、回復する時間はあります。


「団長、遠距離で削ります、マナ併用で前線から削ります。良いですか。」


「前線はしなくていい、後続を近寄らせないでくれ。」


「わかりました。」


 みんな一気にいくよ。魔素のある限り徹底的に後ろを撃とう。マナ管理はC美でいいよね。


 ―そういうのは得意―


 ―TRPGでいう英雄行動ですねこれ―


 よし、やろう!!



 マジックアローをどんどん撃っていきます。C美はマナ管理に専念するので通常の魔法使いより飛んでいる矢の本数を増やすことが出来るんです。1人だとマナ管理と魔法の管理を自分でしないといけないから大変らしい。


 C美が根を上げたので36本を動かすことにしました。後衛というか、近づいている敵全てですね。マナによって軌道を変えられるので、ほとんど自動命中です。ここぞとばかりに撃ちまくってやりました。嫌悪感?まだ来てないです。


 前線の人もこれ幸いと柵の打ち付けに協力し始めました。あと少し、あとすこあwせdrftgyふじk、おl。;むりか


「ごめんなさい、みょうふり」意識がある内に倒れました


「リンカちゃんはやりきった!!!柵を完成させて引くぞ!!!」



 おおう!!!!


 私は重傷者の担架に運ばれて後方に下がったらしいです。



「ん…う…」


「おお、起きたかリンカちゃん。リンカちゃんのお陰で今のところ死人なしで作戦は進んでおるぞい。」


「大丈夫?混乱しそうならここでしっかり休んだ方が良いわよ。ここから負傷者が増えたって、誰も貴方を責めないわ。」


「ああ、えっと…」


 ―む―


 ―り―


 ―で―


 ―す―


 ―やりきったわよもーやだー―


「ちょっと、思考は疲弊してますね。動けなくはないですが…」


「ここで待機じゃ。休憩後でも疲弊はなおらんじゃろ。派遣の先生なのによくやってくれた。」


「そうですか、じゃあ…」


「あ、あの絆創膏は?」


「っとととと、特殊キットに入ってるやつでして。わわわわ私の重大な機密です。」


「機密も何も、治ると勝手に剥がれて塵になっちゃうわよ。特殊キットはちゃんと隠しなさい、いいわね?」


「はい、ありがとう…ござ…zzzz」


 というわけで睡眠に落ちてしまいました。訓練不足……



「んん…ここは…」


 団長の執務室でした。


「おお、目が覚めたか。作戦は成功したぞお。多少の死傷者は出たが駆逐まであと少しまでもちこんだ!」


 PDAで18時間たってる。


「そうですか。ええと私の調子は…大丈夫、かな。作戦が成功して良かったです。」


「うむ、この後キャンプファイヤーじゃ、参加してくれよ。」


 というわけでキャンプファイヤーに参加して、死者を弔ったのですが


「ねえ、ねえ!なんで私の夫は助けてくれなかったの!貴方がもう少し頑張れば助かったかもしれないのに!!ねえ!」


 うううううう、それはそうなんですよね、私がもっと頑張れていれば…


「そこまでだ、リンカちゃんは最大限の力を使ってみんなを助けたんじゃ。こればかりは、こればかりはどうしようもない。」


「ううううううううわああああああああああああいやあああああああああゴットーーーーーーーーーーン!!!」


 最大限によくやった、もっと頑張れていれば。私はどっちの言葉で私を動かせば良いのでしょうか。どうすれば…



 答えがないまま、村は拡大した土地の開墾や鉱床の開発に乗り出しはじめていました。


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