(21)
拳を引いてから、亜夢に殴りかかる。
ドンっと大きな音がした。
バイクの女の拳を手のひらで受けた亜夢は、コンビニの駐車場の端まで飛ばされた。
「どういうこと?」
「そういうこと」
軽く地面をけって跳躍する。高圧線の架線あたりまで軽く上昇すると、亜夢をめがけて降りてくる。
「いくらなんでも高く上がり過ぎだよ。簡単に避けられ……」
バイクの女は亜夢の言葉を聞いてもそのまままっすぐ降りてくる。
亜夢は視野の隅に入ったものを確かめた。
「まさか」
亜夢はもう一度さっきの場所に戻って腰を落とし、腕を十字に合わせた。
バンっと、派手に大きな音がした。
バイクの女と、亜夢が作り出した、空気の鉾と盾がぶつかり合ったのだ。
亜夢は自分の腕が顔にあたり、頬が赤くなっている。
「!」
亜夢は慌てて後ろを振り返る。
見上げるおさげ髪の女の子。『くぅ~ん』となく子犬。
「おねぇちゃん、今の音、何?」
「大丈夫だよ。だから、しばらくそこを動かないでね」
亜夢はバイクの女の方を睨みつける。
「卑怯者」
「……」
亜夢はバイク女の方へ進んでいく。なるべく女の子と子犬から離れたいからだ。
バイク女は進み出てくる亜夢に拳をぶつける。
右、左、右、左……
繰り出す拳が亜夢と重なるたび、 さっきの蹴りと同じ空気の炸裂音がする。
連続攻撃に耐え切れず、亜夢は一歩、また一歩、と後ろに下がってしまう。蹴りの着地で何歩か前に出た分が、どんどん削られてしまう。
「なんでこんにパワーが上がったの……」
独り言を言うと、コンビニから出てきたアキナが亜夢を見つけた。
「なにしてるの!」
バイク女はアキナを振り返った。
そして手の平をかざすように両腕を伸ばしてから、横に振った。
「えっ?」
アキナは、バイク女が振った方向に飛ばされた。駐車していた車に当たる寸前、アキナは大きく上に跳ね上がった。
その間に、亜夢がバイク女の背後に近づいていた。
「!」
亜夢の拳がバイク女の背中にぶつかると思った瞬間、女もアキナと同じように跳ね上がった。
亜夢は当たったと思った拳が空を切り、前によろけた。
そこを上からバイク女がとびかかる。亜夢の首を取って締めに掛かる。
「ぐはっ!」
腕を引っ張って抵抗する亜夢。
「何っ?」
跳ね上がっていたアキナが、バイク女の背後に降りてきた。
「ぐはっ……」
アキナはバイク女の首を腕で絞りはじめる。
「亜夢を放せ……」
その時、バン、と銃声がした。
アキナが一瞬ひるんだすきに、バイク女はアキナに肘打ちをいれる。
もつれていた三人が、一瞬でバラバラになると、女はすばやくバイクに戻ってエンジンをかける。
咳をしながら、亜夢とアキナが立ち上がる。
フェイスマスクを少しずらし、女は言う。
「次は必ず殺ってやる」
フェイスマスクを戻すと、爆音を立ててバイクは大通りに滑り出す。
清川がバイクのナンバーを確認してから、二人のそばにやってくる。
「大丈夫だった?」
「ありがとうございます」
「なんなのあいつ!」
アキナは腰に手を当てて怒っている。
「わからないけど、この前の事件の時にもいた」
亜夢が清川の方を向く。視線を向けられた清川はバツが悪そうに視線をそらし、逃げて行った方向を見つめる。
「まだ、あの娘が誰だっていうのが調べがついていないのよね。誰なのか、が分からないと、令状とれないから捕まえる方法がなくて」
「さっきだった捕まえていいんでしょ? 例えばスピード違反とかでも」
「たとえば、さっきの状況なら捕まえれば、傷害未遂の現行犯だから。捕まえて話聞くぐらいはできる」
「亜夢。そしたら今度はやりあうんじゃなくて、捕まえるようにしないと」
「……そうだね」
一人で抑え込むことが出来るだろうか。前回会った時よりパワーアップしている。亜夢はバイク女を捕まえるのは簡単ではない、と思った。
パワーアップしているのに、この強い干渉波の影響を受けないのだろうか…… 亜夢はパトカーに戻った。
「中谷さん、このキャンセラーを作れるとしたら、中谷さん以外に誰がいるの?」
「えっ? 急にどうしたんだい?」
何かノートパソコンに書き込んでいる途中のようだった。
「この前の新製品発表会があったホテルにはキャンセラーが付けられていた。今さっき、バイク女は強力な非科学的潜在力を使えたけど、この干渉波の影響がないみたいだった。力が強くなれば、干渉波の影響も強くなるはずなのに」
中谷はノートパソコンを閉じた。
「理論上は、ネットで調べれば誰でもつくれるよ。けど、誰にでも部品が手に入るか、というとそうではない。基本的には干渉波を作っているメーカーならキャンセラーも作れるよ。構成している部品は同じだからね」
「そのメーカーを調査できませんか? 美優を連れ去った連中はきっとキャンセラーをどこかに作らせている。そこと取引している人物、団体をあたれば…… 非科学的潜在力を使う集団にたどりつけるはずです」
中谷はまたノートパソコンを開いた。
そして画面に向き直り、キーボードで何か打ち込みを始めた。
「亜夢ちゃん。残念だけど、それは調べてみたんだ。パーツの行先は全部極秘。基本的には政府機関に納品され、そこから半完成品で戻ってくる。それを政府機関で組み立て直しているようなんだ」
「じゃあ、あの連中も政府機関の手先……」
中谷の目はノートパソコンの方を向いていて、顔が少しだけ亜夢の方に向いた。
「政府機関の手先のわけないだろう。そうすると政府機関の中に自らの国の安定を脅かす集団と関係していることになる。自分で自分の首を絞めるようなものさ。何のメリットもない」
「本当でしょうか? そうだ。この前の製品発表会をする企業。あそこにこの干渉波のパーツが流れていたりしませんか? あそこなら小型のものから大掛かりなものまでつくれそうじゃないですか」
中谷はノートパソコンを見つめながら首を振った。
「基本的には納品先は極秘。それも納品された同数が政府機関に戻ってくることになっている」
「帳簿をごまかしているのかも」
「……疑いたいのはわかるが、今はそれ以上深追いできない」
亜夢が歯を食いしばり、口元が歪んだ。
アキナも清川もパトカーに戻ってくる。
「乱橋さん、早く車に乗って。森さんも」
「……」
「どうしたんですか?」
アキナが尋ねると、清川が言った。
「連絡が来たの。AKKと名乗る非科学的潜在力の集団が、ドームスタジアムを占拠したって。中にいる2万人近い人が人質になったのよ」
「えっ!」
全員が乗り込むと、清川が車を走らせる。
アキナが質問する。
「AKKってなに?」




