第9話 遮断された叫び
山あいのハイウェイの死角で静かな制圧が行われていたその時刻、昌平セクターにある高層マンション群の一室では、一人の母親がスマートフォンの受話口に向かって何度も声を張り上げていた。「もしもし? 聞こえてるの?」
数分前まで、仕事帰りに自動運転の電気自動車で移動中だった子との通話は、極めて不自然な形で切断された。電波状態が悪いときのノイズや音声の途切れは一切なく、相手の声の途中で、まるで刃物で回路を断ち切られたかのように、完全に無音に切り替わったのだ。何度もかけ直しても、画面には『接続中』の文字が空しく回り続けるだけで、呼び出し音すら鳴らない。
不安に駆られた母親は、すぐに国内最大の通信アプリ『微信』を開いた。近隣住民たちの地域コミュニティのタイムラインには、すでにいくつかの不可解な障害が書き込まれ始めていた。
『第七分局管轄のハイウェイの一角で、自動運転車が何台も緊急停止している。外に出られないようだ。』
『ドローンが飛んきて、窓を叩いている人を連行していった。何が起きているんだ?』
それらの投稿には、暗闇の中でハザードランプすら点滅させずに明滅する、座礁した車両の不気味な動画が添付されていた。母親は心臓が早鐘を打つのを感じながら、自身のタイムラインに状況を求める書き込みを行い、送信ボタンを押した。
しかし、その叫びがネット空間に滞在できたのは、わずか数ミリ秒の間だけだった。
第七分局の趙分局長が放った「第十四中継鉄塔の物理損壊」というダミーの報告書。それを受信した天網の検閲アルゴリズムは、すでに自動で稼働していた。システムは、この新興都市の評判(信用スコア)を傷つけ、社会不安を煽る可能性のあるすべての非公式キーワードを、人間が目視するより遥かに速い速度で検疫し始めていたのだ。
「第七分局」「自動運転」「ドローン」「出られない」――これらの単語を含む投稿は、タイムラインに表示される直前で、AIによって瞬時に「非公開」として一括消去された。
母親が画面をリロードしたときには、先ほどまで見えていた他人の目撃証言の動画も、自身の悲痛な問いかけも、すべて跡形もなく消え去っていた。代わりに画面に表示されたのは、いつも通り、政府公認のインフルエンサーが垂れ流す華やかなスマートモールの紹介動画と、国家推奨ゲームの広告だけだった。
画面が与えてくれる偽りの達成感と安心感。完璧な管理システムは、見ず知らずの被害者家族たちの安否確認の手段すら「ノイズの是正」として冷酷に潰し、ネット空間を完璧な静寂で満たしていた。
高層マンションの窓から外を見下ろしても、夜の街は何事もないかのようにクリーンに輝いていた。




