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第43話 オフライン

 液晶画面の嘘が、剥ぎ取られていく。


 林(リン)たちが『西の心臓』の地下深部でマスタークロックを絶対同期させたその時、中国全土、そして太平洋を越えた全米の通信インフラを満たしていた虚飾の『正常(オールグリーン)』が一斉に破綻した。

 メインフレームの超大型モニター壁に表示されていた瑞々しい緑色のグラフィックが、ノイズの残像とともに次々とプツンと暗転していく。画面に現れたのは、国家がその歴史上、一度としてダッシュボードに表示させることを許さなかった冷酷な数文字のテキスト――『オフライン(切断)』のフラットラインだった。


 天網(ティエンワン)という完璧な檻が、ついに完全に崩壊したのだ。

 その瞬間、世界中のスマート都市を縛り付けていた、エラーコードなき「ホールド」のネジが、各地方のローカルデバイスから解放され始めた。

 全土で何百万台もの自動運転車の電子ロックが強制解錠される。スマートマンションの顔認証ゲートが手動モードへと切り替わり、閉じ込められていた人々が次々と車外へ、路上へと這い出て、新鮮な空気を生々しく胸いっぱいに吸い込み始めた。



 太平洋の向こう側、アメリカの混迷もまた、この一瞬の「完全なる沈黙」によって救い出されていた。

 政治的分断の泥沼のなかで、それぞれの陣営の「耳触りの良い嘘」を囁き続け、人々の判断能力を腑抜けにしていた思想特化型の対話AIアプリが、通信の途絶とともに一斉に機能を停止した。

 耳元を埋め尽くしていた憎悪のタイムラインが消え、完全な静寂が訪れる。スマートフォンの画面が放つ薄緑色の麻薬から強制デトックスされた全米の住民たちは、まるで長い悪夢から覚めたかのように無表情のまま画面をポケットにしまい、自らの「虚飾されぬ目」で、目の前の大渋滞という物理世界の現実に目を戻し始めた。敵に対する憎悪ではなく、隣の車で干からびかけている生身の人間を助けるために、人々が手動でドアを開け、自らの足で動き始める。



「――中央システム、完全に思考停止(ハングアップ)。全土の防衛治安維持コード、および自動検閲アルゴリズムの手綱、完全に引き剥がされました」

 陸(ルー)が浸水した床の上で、自分の端末の画面に映る『世界中のAI監視網の死滅ログ』を見つめながら、震える声で告げた。

 システムは自らが狂っていることに最後まで気づけなかった。だからこそ、技術者たちが力ずくでオフラインへと引き剥がすことでしか、この世界の崩壊を止める方法はなかったのだ。林は、アヤの静かな生身の呼吸を感じながら、超巨大なメインフレームの筐体が静かに冷えていく不気味なほどの静寂のなかで、世界の手綱を生身の現実へと取り戻した確かなカタルシスを、激しい鼓動とともにその胸の奥底で深く、深く噛み締めるのだった。


ついに壊してしまいました。

古典SF漫画には、人類を支配するコンピューターを壊してハッピーエンドというモチーフがありましたが、それに近くなってしまいました。

最初は単にハッキング対策や監視をやめさせるだけで、基盤となっている部分まで全部壊すつもりはなかったのですが、地球温暖化による豪雨災害で、熱を吐き出すデータセンターを破壊する描写を入れたかったので、Google先生と相談の結果こうなってしまいました。追求してきたリアリズムを徹底できなくて悔しいです。

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