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第24話 備蓄燃料

 軍用トラックのエンジンが、回転数を落として低く身震いした。

 ゴト、と車体が大きく一度バウンドし、タイヤが舗装路から湿った泥を踏みしめる鈍い物理音が荷台の鉄板を震わせる。高(ガオ)は白(バイ)のナビゲートに従って天網(ティエンワン)の監視網の穴を突き、トラックを山あいに佇む古い国営農業倉庫の敷地へと滑り込ませた。昌平セクターを離れてから最初の燃料補給だった。


「陸(ルー)さん、林(リン)、着いたぞ、準備をしてくれ」

 運転席と荷台を繋ぐ小さなスライド窓から、高の低く無骨な声が響いた。

 林とアヤ、そして陸の三人は、アタッシュケース型のデバイスを抱えてトラックから冷たい夜気の中へと降り立った。周囲は、スマート都市のクリーンな夜景とは無縁の、鬱蒼とした杉の木々に囲まれた前時代のコンクリート廃墟だった。


 キャビンから降りてきた白が、暗闇のなかで素早く仕事を済ませていた。「周囲の環境測定カメラは、私のツールで三十分前の正常ログをループさせて今の映像が記録されないようにしてある。給油機の検閲アラームもすべて電気的にホールドした。……でも、急いで。ここの燃料が生きている保証はないし、今の処置が気づかれない保証はない。」

 白の指示で倉庫の錆びついた鉄扉を手動で抉じ開けると、暗がりのなかに無造作に置かれた数本の重厚なスチール製のドラム缶が姿を現した。長老派閥の組織が、システム上は『エラー廃棄品』として処理し、現体制の目の届かない場所に水面下で隠匿していた非常用自家発電機用の備蓄燃料だった。


「高さん、燃料は生きている」

 陸がドラム缶のキャップを外し、ハンディの検証端末を差し込んで液質をチェックした。

「多少の結露水と不純物が混ざっているけれど、このトラックのエンジンなら問題なく燃焼できる。林くん、ポンプを」

 林は高と共に、トラックのキャビン裏から太い手動のサイフォンポンプとプラスチック製の携行缶を引き出してきた。

 ガソリンスタンドのスマート給油機のように、顔認証一つで自動的に燃料が注がれる便利なシステムなど、ここには存在しない。林はドラム缶の口にホースを突っ込み、力作業で軽油を汲み上げ始めた。

 ピストンを動かすたび、シュコ、シュコと鈍い金属音が響き、携行缶に濁った軽油が溜まっていく。重い缶を交互に運び、トラックの燃料タンクへと注ぎ込む。液晶画面の数字を追うだけの仕事からは想像もつかない、腕の筋肉がきしむような労苦。しかし、毒が抜けてクリアになった林の耳には、その燃料がタンクを満たしていく音や、倉庫のトタン屋根を夜風が叩く周期的なきしみが、不気味なほど明確な世界の事実として届いていた。


 給油の最中、林は南の空を見上げた。

 この山脈の遙か先にある保定(バオディン)セクターの方向からは、何のアラームも吐き出さない、完全な「沈黙」のパルスが微かに大気を伝わってくるような気がした。中央を騙したまま機能不全に陥っている世界のきしみ。

「よし、現状復帰だ。痕跡を残すな」

 高の指示で、林は手早くポンプを片付け、ドラム缶のキャップを締め直した。白が無線ツールの接続を終了させ、すべてを元の静寂へと戻す。

 再びトラックの荷台へと滑り込み、高がクラッチを繋ぐ。軍用トラックは白煙を吹き出しながら、次の目的地へと向かって、深い暗闇を再び走り始めるのだった。


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