第11話 虚構の軋み
周の放電工作によって物理的に有線回線を焼き切られ、電波のホワイトアウト状態に陥っていた公安部情報管理局・第七分局。その最上階にある分局長室の窓の外では、午後四時を回り、冬を控えた傾いた西日の鈍い光が、白く発光する新興都市の輪郭を冷たく照らし出していた。
趙分局長たちが作成した「中継鉄塔の天災損壊」という虚偽の報告書。それを復旧した回線から中央システムへと送信し、メインフレームとの再同期セッションが確立されたその瞬間、分局内のすべての統合ダッシュボードの画面は、再び瑞々しい緑色(正常)を取り戻していた。エラーフラグは一枚も立っていない。
だが、その画面が描く偽りの調和とは裏腹に、分局内の物理的なデバイスたちは、まるで独自の狂った意志を持ったかのように、静かに、そして奇妙な誤作動を拡大させていた。
最初に異変が起きたのは、局員たちの手元だった。
技術官僚たちが報告書の承認やデータ同期のために操作していたスマート端末の画面が、突然、何も入力していないのに勝手にスクロールを始めたのだ。ウイルスを警告する派手なポップアップは一切ない。ただ、操作を一切受け付けない端末の奥で、局員たちの個人口座の資産データや勤務評価ログの数値が、フェードアウトするように滑らかに消去され、代わりに国家推奨ゲームのログイン画面が強制的に立ち上がり、無限ループを開始した。
「おい、端末がフリーズしたぞ……再起動が効かない!」
「こっちの画面もだ! ログアウトできない!」
室内に焦燥の混じった声が広がる中、さらに決定的な破綻が分局の心臓部を襲った。
カチャ、カチャ、カチャ。
しんと静まり返った館内のあちこちで、物理的な電子ロックの解錠音が連続して響いた。一時的に機能停止していたはずの警備ドローンたちが、床に転がったまま、あるいは充電ドックの中で、再びそのランプを淡く灯したのだ。だが、そのランプの色は「正常」を示す緑でも、侵略を告げる「青」でもなかった。いつの間にか、天網のどのマニュアルにも記載されていない、不気味な「無色(消灯)」のまま、プロペラが音もなく回り始めた。
ドローンたちは局員を攻撃するわけではなかった。ただ、完全な無言のまま、部屋の出入り口や重要書類の保管庫の前へと移動し、物理的に人間が通れないよう、その場にホバリングして「静かな障壁」を形成したのだ。
「周を……あの保守員を今すぐ連れてこい!」
趙分局長が机を叩いて怒鳴り散らした。しかし、内線電話の受話器からは、相変わらず砂嵐のような電子ノイズが流れるだけだった。彼らは自分たちが脱出路を失ったことすら気づいていない。
モニター上の数字がどれだけ『問題なし』を叫ぼうとも、物理的な金属と電流の山は、すでに人間の管理を完全に離れていた。エリートたちが築き上げた虚構の城は、何のアラームも鳴らさないまま、内側から狂った歯車によって静かに圧潰しようとしていた。




