P-048 プールス男爵一家の周章狼狽 2
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
※更新頻度は緩やかです。
▼episode 048 - BGM
①城門より(城塞都市ガレイニュスの名残)
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②馬車寄せ〜王城(ヴェリタの高揚と不安)
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夕暮れの藤紫色を淡く映した城壁の中央では、解放された大正門が招待客達を優雅に待ち受けていた。城門上部の形状は楔形に切り出した白大理石を円弧状に噛み合わせた迫持型、正面に黄金で象られたパルクトゥード王家の紋章が輝く。荘厳な城門の両脇には同じく最高級の白大理石で建造された円錐屋根の尖塔が並び立つ。其れはまるで城門を見下ろす様に配されているのだが——実は此の表現は比喩のみで語られるものではない。
そもそも円筒形の造りは多角の尖塔に比べて死角が少ない。仮に有事とも成れば、左右の塔に設置された無数の狭間から門を通過する敵を見下ろし弓矢で挟撃出来る構造と成っている。内部は強度のある花崗岩、加えて自重に強く耐火性にも優れた白大理石を材質としていた。此の二つの尖塔を従えた城門の見た目は優美で華麗、其の物である。
門扉に限らず——キャスメルディウス・アルドゥース(白鷺城)は城塞都市ガレイニュスの面影を色濃く遺した建造物で在り乍ら、安寧の歳月と共に其の意味合いは忘れ去られ、華麗なる王城として周知される様に成ったのだ。
次々と城門を潜る馬車の総列に終わりは見えない。王城を中心に八方へと広がる主要道路から、参加者達が各々大挙して押し寄せれば大渋滞は免れない。従者や侍女を伴うものも含めれば其の総数は数千台にもなる。無秩序に殺到した馬車同士が混乱を極めれば諍いが起きるのは必定。貴族同士の揉め事には家門の威信が絡むのだ。泥沼化すれば互いに遺恨を生み、禍根を残しかねない。
其処で大々的な規模の祝宴や祭典では、予め参加者に入場から退場までの手順や規約が配布された。当主は同意書に署名を行い、「記載内容を厳守する」と誓約せねば参加自体が無効となる。
各馬車は、王城入口へ一直線に繋がる主要道路から城門を抜け、馬車寄せで主人達を降ろした後に馬車置き場や厩舎へと誘導される。此処までの順路は厳格に規制されており、彼等は完全なる一方通行で管理された。各所に配された騎馬兵や衛兵、従僕達の数だけでも凡そ三千名は下らない。規律正しい高度な運営と進行はこの日に向けて何度も訓練されたものであり、其の正確さに至っては寸分の狂いもない。
***
連なる総列は一時も滞る事なく、流れる様に馬車寄せへと吸い込まれていく。下位貴族であるプールス男爵一行の馬車も遂に城門を潜り抜けた。
車窓から流れる様に見えていた景色が徐々に輪郭を取り戻して行く。緩やかになった蹄の調子と反比例して速度を上げるのは四人の心拍数。順路に従い粛々と進む車内は——賑やかさから一転、緊迫感が張り詰めていた。
「し、心臓が止まってしまいそう……」
緊張の所為で顔面蒼白と成ったヴェリタが声を震わせて母の手を掴んだ。
「深呼吸なさいヴェリタ、背筋を伸ばして。扇は持ったわね? 大丈夫、堂々としていればいいの」
落ち着かせようと握り返したコルディアの手袋もまた汗ばんでいる。女性陣の動揺を悟り、どうにか緩和してあげなければ——と奮起した当主レクトルが、軽い咳払いと共に口を開いた。
「二人共、肩の力を抜きなひゃい」
「——ひゃい、って……お父様……」
「——父上は此処ぞ、と言う場に成ると必ず残念さを発揮されますね。或る意味、御見事です」
「ざ、残念……」
嫡男フィデルトが表情を消して溜息混じりに発した二度目の「残念発言」が功を奏したのか、車内の張り詰めた空気は僅か乍ら緩んだ。
車外から漏れ聞こえる幾つもの声は、どうやら王宮の従僕達が発する号令らしい。プールス男爵一家の緊張が頂点に達した瞬間、馬のいななきと共に馬車が停車した。
窓の外で御者に誰何する声が響く。扉を叩く音に続いて其れが開いた。
視界に飛び込んで来たのはキャスメルディウス・アルドゥース(白鷺城)の圧倒的な存在感。
男爵一家全員は唖然とし完全に硬直したが、王宮の従僕達は彼等に取り繕う間を与えてはくれなかった。
一人の従僕が無駄のない動きで階段を設置した。別の従僕が流れる様な所作でコルディアの手を取ると下車を促す。夫人が地面に降り立つと数歩先へと誘導された。直ぐに女性使用人が現れて衣装を手早く整える。其の間にもヴェリタへと従僕が手を差し伸べ馬車から降ろしている。従僕達の一糸乱れぬ連携に促され、気が付けば四人はあっという間に馬車から降り立っていた。
扉を閉めた従僕が「前へ!」と号令を掛ける。御者は主人達に会釈をする間もなく誘導され、並木に沿った順路の奥へと消えて行った。
「——止まれ!」
呆気に取られていたヴェリタ達は従僕の声に振り返る。我が家の馬車が停まっていた場に後続の馬車が停車し、先程の自分達と同じ光景が目の前で繰り広げられていた。
驚くべき速さで降車した後続の貴族一家とプールス一家の目が合った。戸惑う様子に彼方も自分達と同様に動揺しているのだ、と気付いた。互いに張り付けた笑顔で会釈を交わしていると背後から声が掛かる。
「ようこそ御出で下さいました。御入城口はあちらで御座います」
柔和な表情で丁寧に腰を折り、城へと促す従僕の目は笑っていない。
プールス男爵一家は従僕の「邪魔だから早く進め」という心の声に押される様に歩を進めた。そうこうしている間にも背後では馬車の降車が次々と行われている。
(まるで戦場の様だな)
フィデルトは片眉を上げつつも心中で息を吐いた。とは言え、彼に戦の経験など無い。隣で腕を組んだヴェリタの表情も固い。兄は妹の手を二度、軽く叩いて口角を上げる。見上げたヴェリタは兄の気遣いに応えて口端を上げた。残念乍ら両眉端は完全に下降しているが。
薄紫から濃紺へと色を変える空の下、白鷺城が天に向かって眼前に聳え立つ。
飲まれる様な神々しさに身慄いを隠せず、顔面が引き攣ったままの男爵一家は——煌々と輝く王城の入口に飲み込まれて行った。
設定厨です、申し訳ありません(笑)
書きたいことが多すぎて削るのが大変……。
次はなるべくサクサクと進める所存にて。
(予定は未定であって決定ではありません)
陳謝。




