EC-025 王太子と公爵令嬢の逢瀬
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大変長らくお待たせ致しました。
「昨日、今日の……殿下の御言葉やお振舞いは少々性急過ぎではありませんか?」
クラリオラは柔らかに匂い立つ花々をうっとりと見つめながら小声で隣の貴人に問いかけた。銀髪の貴公子もまた、穏やかな陽だまりの中で咲き誇る花園に目を向けて答える。
「物事を印象付けるには過剰な位が丁度良い」
パルクトゥード王城には数多の庭園が存在する。迷路を模した「王宮庭師の悪戯」が完璧なる庭園とするならば、今、眼前に広がるのは不完全を装った花園だ。理路整然と手入れされた前者とは真逆で、手入れを施すどころか放置されている様な——まるで自然に近い景観。初めて訪れた者は、名もなき花々が咲き乱れるこの光景を前にして此処が王城だという事を失念してしまうことだろう。
「殿下の御振舞いはどれもこれもが本物のように熱を帯びていらっしゃいますから……驚く程、真に迫った御姿を相手に私がどこまで対応出来ているのか……」
柔らかくも何処か責める口調になってしまうのは、クラリオラが二人の謀を周囲に悟られぬよう最大限に神経を研ぎ澄ませているからだ。
エクセルシウォルもそれを感じ取っているからこそ、軽口で言葉を返す。
「まだまだ序の口だ、レクレディ嬢。貴女にはこれから、私を手玉に取った王太子妃最有力者として尊大に振る舞ってもらわねばならないのだから」
「——善処致します」
必然、表情が強張ってしまったクラリオラの頬に“素が出ているから力を抜け”と語るように王太子がそっと触れた。その行動は想い合う男女の抑えきれない恋情を匂わせ、離れた位置で控えていた者達の空気が微かに揺れる。会話は聞こえない距離であっても王太子と公爵令嬢には幾多の視線が降り注がれている。
貴族以上の高位者である未婚の男女が二人きりになる機会を作るのは至難の業だ。独身の貴族令嬢には常に側仕えが付き従う。それは例え相手が王太子であろうとも変わらない。
今後の行動を共有しようにもこれでは連絡もままならない。何か策を講じるべきだがどうすれば……と逡巡していたクラリオラに王太子の軽口が続く。
「注目を浴びるのには慣れているが……このような色合いで見守られるとは——なんとも新鮮な心持ちだ」
「——実の所、私はどちらも慣れておりません」
「そうであったな」
頬を染めつつ視線を逸らしたクラリオラの顔を覗き込むように身をかがめたエクセルシウォルは頬を寄せると低く耳元で囁いた。
「——貴女に“黒羽”を二名付ける。私との連絡には彼女達を使ってくれ」
王族は各人が諜報や暗殺に長けた者を囲っているらしい——と長兄に聞いたことがある。当時は“そんな荒唐無稽で都合の良い話があるだろうか”と半信半疑で相槌を打ちつつ流し聞いていたのだが……まさか本当に存在していたとは。
驚いて反応しそうになったクラリオラだったが、自分達の一挙手一投足を見守る視線達を思い出した。彼等にほんの少しの違和感も与えてはならない。
強い光を放つ石灰色の瞳を見つめ、クラリオラは満面の笑みを讃えながら“愛を囁く王太子”の耳元に囁き返した。
「——畏まりました。父にはなんと?」
問われたエクセルシウォルは、物憂げな表情でクラリオラの両の手を取った。自身の両手で柔らかく包み込み、恭しく持ち上げて唇を落とす。
「レクレディ卿には……王太子妃候補付きの侍女を数名差し向ける、と伝えてある。貴女も表向きにはその認識で」
伏せられた銀の睫毛がゆっくりと開かれた。現れた双眸に輝く虹色の虹彩。目の前の彼は、何を想うのか——。
秘色と石灰色の視線が交わり、束の間、時が止まったかのようだった。
***
「——殿下、そろそろお時間で御座います」
見つめ合う二人にゆっくりと近付いた王太子付補佐官が静かに腰を折った。
絡めた視線を外すことなくエクセルシウォルは答える。
「——時が経つのを“残酷”だと感じる日が来るなど——想像もしていなかった」
瞳に宿る光を見つめたクラリオラも眩しそうに瞬き、答える。
「私も——こんなに離れ難いと想う御方と出逢えるなど——想像もしておりませんでした」
出逢ったばかりの二人が、ここまで急激に燃え上がるなど誰が想像していただろう。ましてや浮いた話など一つもなかったパルクトゥードの奇跡と公爵領の手中の花である傾国の美女の二人が、である。
離れ難そうに寄り添い、見つめ合う若き二人の姿はまるで一枚の絵画のようだ。
誰も文句の付けようがない完璧な組み合わせである。
婚約者候補者は全部で三名。
名を連ねているのを誰しもが知っている、だが——。
未だ王太子と対面を果たしていないチェスター王国のベルクトゥス伯爵令嬢を哀れに思う程に、決定的な情景が眼前に広がっている。
——これは決まりだろう。
警護に付いた近衛騎士隊の面々も、王宮侍女達も疑う余地がない。
眉根を寄せた公爵家侍女と、深く辞儀を続ける補佐官を除いて——。
表の顔と裏の顔。
こういうやりとりが好物なのです。




