154話:「ガリウス・ブラウン、女の子を救出に向かう」
ドライゴン帝国王都ガルヴァスから北西数十キロ地点の場所、辺りは草木が疎らに茂る荒野があり
そこを彼は一歩一歩ゆっくりとした足取りで歩いていた。
彼の名はガリウス・ブラウン、この世界では【剣の賢者】として名が通っている人物だ。
大和と同じ黒髪黒目の短髪の冴えない風体をした三十代後半の男だがこの世界では
大和と同じように美形として認識される部類の顔をしている。
「うっ……うん? もう空か……」
革袋に入った水を煽るように飲もうとするが少量しか出なかった。
その僅かな水分を逃すまいと最後の一滴まで体に取り込んだ彼は己が背負っている背嚢から
カビが所々に侵食した黒パンの欠片を取り出すとそれを齧り出す。
侵食されていない部分は僅かしかなく、二口ほど齧った黒パンを口惜しそうな顔を浮かべながら
「ちっ」という舌打ちと共に投げ捨てる。
なぜ彼がこのような荒野のど真ん中を歩いているのかと言えば勇者を探し出すためであった。
彼がこの世界にやって来たのは今から二十年前で最初は元の世界に戻るために旅をし
その道中で気の合う仲間とも出会ったが、彼等とも別れて今は疎遠になっていた。
今は元の世界に帰還することは諦め、とある人物から予言された言葉に従い人を探していた。
ガリウスが受けた予言の言葉はこうだった。
『世界が闇に包まれる時、異なる世界から勇者が来たる。 汝、この勇者と共に闇を打ち払う者なり』と――。
彼はその言葉に従い、異なる世界からきた勇者を探すべく各大陸を放浪して十有余年、未だに目的の人物は
現れてはいない。
(今回もどうせあらぬ噂なのだろうが、万が一という事もあるからな……)
その万が一というもののために彼が費やした時間は測り知れなかったが彼は不屈の精神で
未だに諦めずに勇者を探し求めていた。
そんな彼だが元は自分の流派を持つほどの大剣豪で名を宮本武蔵という。
今は各国を放浪する身ではあるが一時期は冒険者として名を馳せていた時期もあった。
彼が王都ガルヴァスを目指し歩を進めていると右手に小高い丘のようなものがあり
そこには直径で四メートルほどの大きさの洞窟の入り口がありどうやらそれは地下へと続いているようだった。
それを見つけた彼が訝しげな表情でそれを見ていると、突然入り口手前の空間が歪み気付けばそこに二人の人影があった。
一人は黒装束に身を包んだ暗殺者風の男で顔は隠れて見えないが身のこなしから只者でないことは肌で感じ取れた。
もう一人は男が肩に担いでいる十代の少女で男から逃れようと足をバタバタさせている。
(あれは、一体?)
丁度側に手ごろな大きさの岩があったので二人に気付かれぬようその岩陰から様子を窺う。
すると男から逃れようと少女が必死に抵抗していた。
「ちょっと話すのじゃ、妾を一体誰と思うておるのじゃ!!」
「……」
男は彼女の言葉を完全に無視しながら洞窟に向かって歩き出す。
彼女も最後の悪あがきとばかりに足をバタつかせ抵抗するものの男が彼女の顔の横で手を翳すと
糸の切れた人形のように気絶してしまった。
そして、まるで地獄の入り口の様相を呈す洞窟に入って行く。
「とりあえず助けに行くとしようかの……」
その様子をしばらく観察したガリウスはそのまま捨て置くこともできないと判断し
彼女を救出するため自らも洞窟内に侵入することを決意する。
洞窟内は自然にできた者ではなく、四メートル四方に人工的に繰り抜かれて作られているかのように
一定の広さの通路が続いている。 それはまるで迷宮を思わせる。
その場所が自然で出来たものでないという何よりの証拠が等間隔に灯された松明があり
モンスターの気配も一切しないということだ。
完全に気配を断ち、慎重に警戒しながら歩を進めていくと十字路にぶつかった。
気配を探るとちらほらと気配を感じるが正面から気配を強く感じたので真っすぐ進んでいく。
そのまま進んで行くと突き当りに扉が見えてきた。
警戒を強めたガリウスは扉の前まで近づくと耳をそばだて中の様子を窺った。




