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155話:「アリシア絶体絶命!」


 とある無機質な土壁が四方を覆った部屋がある。

 広さは二十五メートルプール一つ半ほどで部屋というには些か手広い。

 等間隔に作られた大人三人が手を繋いだくらいの太さの柱がそびえ立ち

天井近くに備え付けれれている松明が部屋を照らし出す。

 調度品は何もなく何の目的で作られたのかその意図が全く分からない何もない部屋。

 適切な言葉があるとすればそこはさながら秘密基地のような場所。

 あるのはただ腰を下ろすために作られたであろう女性の膝ほどの高さの段差が複数あり

そこに腰かける二つの人物。


 一人は全身毛むくじゃらの頭部が狼のような顔をし、差し詰め狼男のような様相を呈す男。

 下半身は自身の体毛が故なのか何も身に着けてはいない。

 その代わりと言っては何だが申し訳程度に上半身に緑色のベストを着ているだけだ。

 この服装を全身毛むくじゃらでない者がやったらそれこそ変質者扱いは避けられないだろう。

 右の膝に肘を掛け握った拳を頬に当て顔を支える姿勢のままその男があるものに視線を向けながら口を開く。


 「こいつが例の“皇帝様”ってやつか? まだガキじゃねえか」


 「聞いた話だと頭がいいからって理由で早めに皇帝に即位させたらしいですわよ。

 全く、人間というのは生き急ぐ種族ですわねガルブ様」


 「だからこそ、我々魔人が付け入ることができるというものよ……」


 「うふふ、ガルブ様今物凄く悪い顔になっていますわよ」


 ガルブの発した言葉に反応するこの女性は先のガルヴァスの王城に賊として侵入し

警備の網を掻い潜って皇帝であるアリシアを誘拐した魔人であった。

 彼女の名はサーヒルン・マシャー、魔神メルウェムによって生み出され、目の前にいるガルブの部下として

付き従っている女だ。

 紫を基調とした中東風の表面積の少ない踊り子のような衣装に身を包んだ妙齢の女性で

褐色の肌と紫色に塗られた唇は妖艶の一言に尽きる。

 服の色と同じ艶毛を含んだ腰まで伸びた髪をしなやかな指でかき上げる様は

同性すらも魅了してしまうほどだ。

 ガルブの口の端が吊り上がるのを桃色寄りの紫の目で捉えた後、床に敷いてある絨毯じゅうたんに横たわる人物に向けると

意外そうな口調で話し始めた。


 「それにしてもこんな小娘があの大国ドライゴン帝国の皇帝だなんて信じられませんわね。

 本当に人間のすることは理解できませんわ」


 「んっんん……」


 サーヒルンが悪態を付いていると魔法の効果が切れたのか、アリシアが目を覚ました。

 自分がいる場所に心当たりがないため戸惑いを隠せない様子でぽつりとつぶやく。


 「ここは一体どこじゃ!?」


 「目が覚めたようですわねえ~」


 「ふんっ」


 「おっお主らは一体何者じゃ!? 妾が誰か分かっておるのか!!」


 「はあうるせえガキだな全く、俺はこういう裏でこそこそするのは性に合わねんだがな」


 「駄目ですわよガルブ様、これも全てメルウェム様のためです」


 「そうであったな、先の言葉は失言だった」


 ここが一体どこなのかはわからないが、自分が連れ去られたことは何となく理解したアリシアだったが

二人の雰囲気からただならぬ物を感じ取った彼女は周囲を確認しながら何とか逃げる隙を窺う。


 「サーヒルン、このガキに例の物を」


 「承知しましたすぐに……」


 ガルブの指示に従いサーヒルンが部屋の隅に控えていた配下に指示を出すと

配下の手には赤黒い首輪が握られている。


 「そっそれは一体なんじゃ!!」


 「教えてあげるわんお嬢ちゃん。 これはね服従の首輪と言ってこの首輪をはめられた者は

首輪をはめた者に絶対の服従を強いられるものなのよ。 しかも一度首輪を付けると二度と外すことはできない代物で

無理に外そうとすれば爆発するようになってるの」


 「なっなんじゃと!」


 「今から貴様は我ら魔族のために操り人形になるのだ光栄に思え」


 「ふっふざけるでない!! 誰がお主らなぞに従うものか!!」


 「ふふふ、この首輪をはめればすぐに従順になるわよ。 さっ首輪をはめて頂戴」


 首輪を手に持った黒装束の男がアリシアの首に嵌めようと首輪を近づけてくる。

 それに抗うように首を捻って抵抗するアリシア。

 だがそんな抵抗などささやかなものにすぎず、首輪がどんどんと首へと近づく。


 「やっ、ヤマト殿……」


 目の端に涙を溜め、口をついて出た好いた男の名前。

 彼女にとって彼は生まれて初めて惚れた男であり自分の危機を救ってくれたヒーロー。

 そんな彼女がこの状況で彼の名を口に出すのはごく自然な事だった。


 「いい加減観念してあたしら魔人の操り人形になりなさい」


 「ヤマト殿ーーーーー!!」

 

 すがる思いできゅっと目を閉じ、彼の名を叫ぶアリシア。

 もうだめかと思ったその刹那突如として部屋に響き渡る扉が開かれる轟音と共に

アリシアの眼前に迫っていた首輪が黒装束の男の手からこぼれ落ちると塵と化す。

 

 「誰だ?」


 「そのくらいにしてもらおうか」

  

 アリシアの閉じていた目を開ける。


 (嗚呼……ヤマト殿がわたしを助けに来てくれた……)


 そう思って部屋に入ってきた者の姿を見てアリシアは驚愕する。

 そこに立っていた人物に向かってアリシアは思わず叫んだ。


 「誰じゃーーー!?」


 「おう娘よ助けに来たぞ、このガリウス・ブラウンがな」


 そこに現れたのはアリシアの期待していた大和ではなく、ボロボロの服を着た中年オヤジだった。

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