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153話:「アリシアは何処(いずこ)に?」


 重苦しい雰囲気から一転して、静寂に包まれた部屋を打ち破った五人の驚愕の咆哮が部屋に響く。

 そのあまりの大音声に俺は肩をビクッと震わせる。

 俺が生きていたことに対する驚きと嬉しさで言葉を忘れて呆然とする仲間に向かって冗談めかしたセリフを吐く。


 「ふん、俺が死んだと思ったのか? 馬鹿め。

 俺を殺したいのならマキシム級魔法を三十連発くらいしないと死なねえぜ!」


 そう言って得意げに宣言する俺に向かってまるでラグビーのタックルのように

仲間全員が俺に飛びついてくる。


 「やまどざまぁ~いぎででよがっだでず」


 「うわあリナっ、顔をくっつけるな! 鼻水、鼻水垂れてるから!!」


 「ご主人様、我――わたしも心配しました」


 「こんなの冗談はもう二度としないでくださいっ」


 「心配したですのんっ」


 「旦那様、本当に心配しました」


 それぞれが口々に俺が生きていたことに安堵の言葉を漏らす。

 リナは涙と鼻水と涎が入り混じって混沌の様相を呈し、他の仲間も

目の端に涙を溜め俺にしがみ付いてくる。

 彼女たちに心配を掛けさせたことに罪悪感を覚えたせいだろうか

しばらく彼女たちのされるがままになっていた。


 いくばくかの時間の経過が訪れた頃合いを見計らって、フレイヤがゆっくりと口を開く。


 「主、この死体は一体?」


 その質問にフレイヤを見やると、物言わぬ人形と化した俺の死体に目を向け

その後俺に視線を向けてくる。


 「ああ、それは偽物の俺だよ」


 そう言い放つと俺は手を打ち鳴らす。

 するとフレイヤが抱えていた俺の死体はまるで何千年の時が一瞬で経過したように

朽ち果て、砂となって影も形も消失してしまった。

 その光景にその場にいた全員が目を見開き驚愕しているがそれにも構わず俺は口を開く。


 「今回みんなには心配をかけたみたいで悪かった。 許せ。

 それよりも今すぐ早急に確認しなければならないことがある。 全員俺に付いてこい!」


 そう言って部屋に踵を返すと片手でドアを力いっぱい押し開くとバタンという大きな音と共に勢いよくドアが開かれる。

 そのまま早足ぎみの歩調で俺はいや俺たちはある部屋目指していた。


 「ずずー、ヤマド様? 一体どごに向かっでいるんでずか?」


 ようやく啼泣ていきゅうから復帰したリナが俺の向かっている目的地を聞いてくる。

 俺は視線をリナに合わせず進行方向を見つめながら彼女の問いに答える。


 「アリシアちゃんの部屋だ」


 「あの小娘の部屋ですか? 一体どういう目的で?」


 俺は問い詰めてくるフレイヤに掻い摘かいつまんで今の状況を説明する。

 現在この王城にぞくが侵入し、俺が襲われた。

 だが敵の目的は俺を殺すことではなく何か別の目的があって、それのついでに

勇者である俺を襲った可能性が高い。

 根拠としては本当に俺の抹殺が主なる目的であるのなら町にいた時の方が

成功率が高くわざわざ警備が厚い王城で襲う必要性がない。

 俺を襲った理由としてはもののついでだろうがそれは俺が“王城”にいたという理由が一番強い理由だろう。

 仮に俺の抹殺が目的でないのなら賊の目的は幾つかあるが王城襲撃で関わってくるキーパーソンは一人だ。


 「つまり、この城を襲撃した賊はアリシア陛下を狙ったものだという事ですのん?」


 「そう、相手の狙いが暗殺なのか誘拐なのかは分からない、だからすぐに彼女の安否の確認が必要なんだ」


 「そのためにアリシア陛下の部屋に向かっているということですか?」


 エルノアの問いかけに俺は首肯しゅこうする。

 そしてそれを受けて他の者が俺の目的を理解してゆく顔を浮かべる。

 そのまましばらく早足で進んでいると見知った人物が進行方向から来るのが見えた。

 夜会が終わったため先ほどのドレスからいつもの服に着替えていた彼女は

トレードマークとも言うべき眼鏡を押し上げながら歩を進める。

 うなじに掛かるか掛からないか程度しかない薄青色のショートヘアーにその色を濃くした様相の瞳を持った妙齢の女性で、アリシアには及ばないものの整った顔立ちと彼女にはない精錬された清らかさを兼ね備えた女性の色香を漂わせる人物だ。

 身体つきも平均的で胸自体も決して小さくはない。

 一見すれば生真面目クラス委員長というのが俺の彼女に対する印象だ。

 こちらの姿を視認すると一礼したあと口を開いた。


 「これは勇者殿、こんな夜更けにいかがされ――ってぇ!?」


 説明している時間が惜しかったため俺は彼女に接近すると横に回り込んでそのまま抱きかかえながら

歩を進んでいく。 とどのつまり彼女をお姫様抱っこしたのだ。

 俺の予想外の行動に眼鏡がずり落ちそうになるのをマリースの細く綺麗な手で押し止める。

 そして、戸惑いながらも俺に問いかけてくる。


 「ゆ、勇者殿一体何をなさっているのですか?」


 「見てわからないですか?」


 「わからないから聞いているのですが――ってゆゆゆ勇者殿、どこを触っておられるのですかっ!!」


 「うん?」


 すると俺は彼女のお姫様抱っこしている右手を見るとものの見事に彼女の双丘の片方を鷲掴んでいた。

 アリシアの時もそうだったがどうやら俺は女の子をお姫様抱っこすると胸を掴む癖があるようだ。

 ただ保身のために言っておくが、決してよこしまな考えあってのことではない……多分。

 そんな自分の新たな悪癖あくへきが判明したところで軽いパニックになっているマリースに伝えなければならないことがあった。


 「そんなことよりもマリースさん、アリシアちゃんの部屋に案内してもらえますか?」


 「そんなことって人の胸を触っておいてその言い草――」


 「いいから教えてください!! 後でほっぺにチューしてあげますから!!」


 「なっなにを馬鹿なことを言っておられるのですか!!」


 俺は掻い摘んでだが先ほどリナたちにした説明をした。

 後ろからくる羨望せんぼうやマリースに対する嫉妬の視線を無視して彼女に現状を伝える。

 賊が侵入し襲撃を受けたこと、それに対し皇帝であるアリシアの安否を確認するために

彼女の部屋に向かっていることを説明すると先ほどの狼狽えた表情が一転し怪訝な表情で問いかけてくる。


 「勇者殿が襲われたのであればなぜ衛兵たちが騒いでいないのですか?

 ここは皇帝陛下お膝元の王城ですよ? 蟻の子一匹だって侵入できませんよ」


 「もしこの王城の警備がそうであるなら侵入してきた賊はそれほどの手練れという事になります。

 アリシアちゃん、ホントに無事なんだろうな……」


 マリースの返答に対して吐き捨てるように呟く俺を見てようやく事の重大さに気付いた彼女が道案内をし始める。

 ややあって扉と言っても差し支えないほどの大きさのドアにたどり着く。


 「こちらになります」


 俺はその言葉を受けて抱えていた彼女を降ろすとドアを叩いた。


 「アリシアちゃん、夜遅くにすまない、出てきてくれないだろうか?」


 「……」


 叩かれたドアの先に問いかけた言葉に反応する者はいない。

 その後もう一度叩くが反応がなかったため一言中に入ると声をかけてからドアを開けた。

 部屋に入って周囲を確認するが荒らされた形跡はなく肝心のアリシアはどこにも見当たらない。

 マリースに確認したが、この時間にはベッドで寝ているはずだという事なので

誰にも言わずにどこか用向きで出かけたとは考えにくい。

 嫌な予想というものは大概当たるようで、どうやら城に侵入した賊の目的はアリシアを誘拐することだったようだ。

 皇帝が誘拐されたという事実に俺の説明を受けても半信半疑だったマリースが慌てだす。


 「そ、そんな陛下が、アリシア様が誘拐されるなんて……」


 「おっと」


 あまりのショックに床にへたり込むマリースの体を支えながら次の行動に出ることにした。

 その前にマリースに指示しなければならないことがあるので彼女に話しかける。


 「マリースさん、あなたはこれから城の衛兵を召集して厳戒態勢を敷いてください。

 アリシアちゃんは俺が助け出します」


 「で、ですが勇者殿、陛下がどこに連れ去られたのかわからない状況で捜索するには

時間が掛かりすぎます。 こうしている間にも陛下は……」


 マリースの言っていることも最もだが幸いまだ連れ去られてそう時間は経っていない。

 だからこそ俺は彼女を落ち着かせながら言い放つ。


 「安心してください。 アリシアちゃんが今どこにいるか居場所はわかりませんが

俺には彼女を見つける策があります」


 こうして、誘拐された賊の手からアリシアを救い出す【アリシアちゃん救出作戦】が幕を開けるのだった。

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