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106話:「決断」


 サマエルと大和の戦いが集結したその頃、メフィスト陣営に動きがあった。


 「なっなんだと、サマエルが敗北しただと!?」


 とある邸宅の一室に作戦本部を設けサマエルの戦いを監視していた部下たちの報告を聞いて

一人の男がテーブルに拳を叩きつける。

 彼が驚愕しているとその場にいた二人の魔族が彼を宥めるように口を開く。


 「ルシファー、落ち着きなさいよ」

 「彼が勝てないのは僕としては想定の範囲内だから安心しなよ」


 彼らの落ち着きを見てルシファーは少し落ち着きを取り戻したが

自分と同格の魔族が敗北したという事実は変わらず焦りの色を隠し切れなかった。

 そんな彼をよそにメフィストは冷静に状況を整理していた。


 〈流石はヤマトだ。 我々の中で最も肉弾戦に長けたサマエルをこうも簡単に退けるとは・・・・・・〉


 彼が次の作戦を思案しているともう一人の魔族タローマティが誰に聞くともなしに呟いた。


 「それで、サマエルは死んだのかしらね?」

 「部下の報告によれば生きてはいるみたいだね」


 彼女の問いに律義に答えるメフィストそしてサマエルの敗北を彼女は嘲り笑う。


 「全く私たちの前であれだけ啖呵たんかを切っておきながら結局負けるなんて

彼も所詮はその程度の男だったということかしらね」 


 「よさないかタローマティ、サマエルとて好き好んで敗北したわけではないだろう。

 実際戦ってもいないのに結果だけ見て判断するのはいかがなものかと私は思うぞ」


 彼女のサマエルに対する言い草に不快な思いを抱きながら彼女の言をいさめるルシファー。

 先ほどは焦りを見せていた彼も今は完全に冷静さを取り戻していたが状況は何も変わってはいない。

 魔族の大幹部の一角を担っていた男が敗北し、残された三人で対処しなければならない。

 しかも今回集めた兵は精鋭部隊ですらない僅か千人程度の軍とも呼べない兵力だ。

 ルシファーは今後どう動くのかこの戦いの指揮を執っている男の意見を聞くことにした。


 「それでメフィスト、サマエルが敗北した以上勇者の実力は我らと同等以上

下手をすれば我らを凌ぐ力を有している。 今後どう動くのだ、意見を聞きたい」


 場にしばしの静寂が訪れる。 この後取るべき最善の手を頭の中で模索するメフィスト。

 単純に選択肢は2つあった。

 一つはこのまま千の兵力を玉砕覚悟で大和にぶつけるというものだ。

 だがサマエルが負けた以上ただの烏合の衆にしかならない兵力をぶつけたところで

犬死するのは目に見えていた。

 そしてもう一つの選択肢、それはこのまま戦わずに一度兵を引き精鋭部隊をもって

勇者と全面戦争をするというものだ。

 これならばいくら勇者である大和の力が圧倒的とはいえ無傷というわけにはいかないだろう。

 犬死か撤退して兵を再編成するか決断の時が迫られていた。


 「・・・・・・・・・・・・」


 沈黙を貫く彼に対し、答えを促さず彼の言葉を待つ二人。

 どれだけの時間が流れたのかそれほど長い沈黙が続いたがようやく彼が口を開く。


 「選択肢は2つに1つだ。 全滅覚悟でこのまま戦うか一度撤退して魔族全兵力で迎え撃つか

僕としてはそのどちらかしかないと考えてるんだけど、二人はどう思う?」


 4人の中で最も頭の切れるメフィストの答えにルシファーとタローマティが顔を見合わせる。

 そして、各々それぞれの考えを口にした。


 「私は撤退すべきだと思うわ。 サマエルが負けたのだから

勇者の実力はフィスの言っていた通り私たちより遥かに上だということ。

 だったら戦ってもただ殺されるだけですもの」


 タローマティは決して短絡的な性格ではなく、状況を冷静に見極め

攻め時と引き際を判断できる魔族だった。

 その彼女が今回は戦うべきではないと判断したことで三人の今後の方針は決定された。


 「私も今の兵力で戦うのは不安が残る。 ここは一旦撤退し、来るべき戦いに備え

最大戦力をもって勇者と対峙すべきだと考える」


 ルシファーもタローマティ同様今勇者と対立すべきでないと判断したようだ。

 これで今の勇者と戦うべきでない意見が二票投じられたことでメフィストも決心する。


 「では我らは一度兵を引き来るべき勇者との決戦に向け力を蓄えることとする。

 それと魔王様には僕が報告しておくから。

 もしかすると今回魔王様直々に勇者と対峙してもらわなければならなくなるかもね」


 彼の言葉を否定する者はいなかった。

 それだけ今回この世界に召喚された勇者の実力が圧倒的すぎたのだ。

 

 その後メフィスト達は仮拠点としていた邸宅を引き払い各々が支配する領地へと帰還していく。

 戦わずして撤退しなければならないという屈辱に身を震わせながら三人は再び決戦の地でまみえることを約束したのだった。

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