107話「ガリウス・ブラウン、酒場に行く」
大和たち一行が魔族たちと相対している時
彼は命からがらとある町までたどり着くことに成功していた。
辺りは太陽が完全に沈み、夜の帳が下りる。 町には街灯が等間隔で設置されてはいるが
昼間のように全て見通すには足りない明るさだ。
「腹が・・・・・・減った」
もうまともな食事に何日もありついておらず
お腹と背中が本当にくっつきそうな程彼は極度の空腹状態にあった。
餓死寸前という表現が適切だ。 とにかく飯を食わねば死んでしまうと
彼の中にある本能がそう囁いてくる。
彼は町に付くとすぐに宿屋に向かった。 それにはちゃんとした理由がある。
通常宿屋は寝泊まりをする場所ではあるが同時に食事をする場所も併設されていることが多く
昼間は食堂、夜は酒場といったような営業形態を取る宿屋がこの世界ではスタンダードだ。
そのため、ガリウスは他の建物には目もくれず一直線に宿屋を目指した。
西部劇に出てくるような両開きのスイングドアに手を掛け勢いよく入った。
夜の営業ということもあり、宿屋の食堂は酒場と化し酒を愉しむ人で賑わう。
強面の髪の毛を剃り込んだ中年の男性や痩せ型でほっそりした体形の獣耳を持つ獣人の女性
果ては一仕事終えた後の一杯を堪能する少し小柄ではあるが、がっちりとした体形を持った髭もじゃのドワーフ等々
多種多様な種族と職業の客層が見て取れる。 彼らはガリウスを一瞥すると値踏みするように
頭からつま先まで視線を動かすがすぐに興味を無くし仲間たちと宴に興じる。
ガリウスは一先ず開いている隅のテーブルに腰を下ろすと鞭を打って歩いてきた身体を休ませる。
しばらくしてウェイトレス姿の可愛い女の子が彼に近寄ってきた。
「いらっしゃいませ! ご注文は何になさいますか?」
「とりあえず腹が減ってるんで適当に持ってきてくれ。 あとは酒をジョッキで」
そう短く伝えると女の子は「かしこまりました」と言いながら
活発な笑顔を顔に張り付けながらその場を去っていった。
(可愛い子だったな、この店の看板娘といったところか・・・・・・)
久しぶりに異性と話をしたことを少しはにかみながら彼は椅子の背もたれに体を預けゆっくりと目を閉じる。
ガリウスの頭に浮かんだのはつい半月前に感じたあの感覚だ。 今もなおその感覚は鮮明に彼の中で
印象強く残っていた。 その正体は己が掛けた魔法が何者かの手によって破られたときに起こる消失感だ。
半年ほど前にとある場所で強大な力を持った魔族と遭遇した際、倒すことができないと判断した彼が
永続効果のある魔法【ファントム・ミスト】で封印してきたのだ。
(あれを解除できる者など、もしかして最近現れたという勇者では?)
もともとガリウス・ブラウンは【剣の賢者】と呼ばれるだけあって拘束系や補助系の魔法を得意としていた。
その中でも特に足止め系統に属する魔法やスキルに絶対の自信を持っていた。
彼が魔族を封印するのに使った魔法も彼の得意とするものでありその中でも高位に位置付けされていた。
その魔法を解除できるほどの相手ともなれば数が限られてくる。
さまざまな憶測を頭の中で思案した結果最も可能性の高い答えに行きつく。
ご神託の勇者が解除したというのであれば彼も納得のいく答えではあるが
今となってはそれを確かめる術がないためいまさら考えたところで意味がなかった。
そうこうしているうちに注文を受けたウエイトレスがテーブルに次々と料理を運んでくる。
彼女のお任せで頼んだ料理は肉料理や魚料理とバラエティーに富んでおり
色合いもカラフルで目で見ていても楽しいものだった。
「ごゆっくりどうぞ」
料理をテーブルに並べ終えた彼女はニコリと笑いながら戻っていった。
久しぶりのまともな食事に感極まりいざ料理を口に運ぼうとした刹那。
「なんだとてめぇ!!」
酒場の賑わいを一蹴するような鋭い怒号が響き渡った。
その大音量の叫び声にその場にいた客が何事かと視線を向ける。




