100話:「開戦」
アース大陸最西端にある港町【ドグロブニク】、その町から北東に10キロ進んだ先にあるのが
見渡す限り平らな地が続く平原【ドルチェ平原】だ。
平原のほぼ中央付近に3つの人影があった。
一つは魔王軍大幹部が一人赤のサマエル、もう一人がその部下であるヘル
最後にヘルの手によって連れ去られたマチルダだ。
「くっ、おのれーこの手枷を外すんだ!!」
いつもの落ち着いた雰囲気とは裏腹に声を荒げ激昂する。
現在彼女はヘルが作り出した魔力の枷を手に嵌められた状態で自由を奪われていた。
そんな彼女のことなど歯牙にもかけずにサマエルとヘルは会話を始めた。
「勇者は本当に現れるのだろうな?」
「間違いございません。 それが勇者というものなのです」
二人の言葉を鼻で笑うとマチルダはそんな二人に吐き捨てる。
「あたしのためなんかにヤマト様が動くわけがない! 残念だったな魔族ども!!」
口端を吊り上げながら二人の思惑通りに行かないことを嘲笑う彼女。
だが彼女の言葉はサマエルによって否定された。
「どうやらそうでもなかったようだぞ」
そう言いながら顎で彼女の後ろを指し示す。
するとそこに現れたのはやはりというべき人物だった。
自分のなんかのために勇者である大和が来るわけがないと考えていた彼女は
彼の姿を認めるなり大きく目を見開くと大声を上げた。
「どうして来たのですか!! わたしのことなど見捨ててくれればよかったものを・・・・」
この場に来たことを責めるように大和に叫びながら唇を噛みしめる。
だが内心彼が自分のためにここまで来てくれたことが本当に嬉しい思いを抱きつつも
それでも自分が愛した男が自分のために危険な目に会うのが許せない。
そんな複雑な思いを巡らせていると大和が口を開く。
「今回の件で君には世話になった。
だからと言うわけではないけれど君を助けたいという気持ちに嘘は付けない。
マチルダ、俺言ったよな、君には幸せになって欲しいと・・・・だから俺は君を助ける。
例えこの命に代えても!」
今自分がとてつもなく臭いセリフを吐いていることにこの場から逃げ出したい衝動に駆られながらも
正直な気持ちを彼女に伝える。
その言葉に感嘆と憧憬の眼差しを向けるリナたちに対し
敵意に満ちた視点を向けながら目を細めるサマエルたち。
両極端な反応を示す両者の間に挟まれている今回のメインヒロインの彼女はというと。
「はぅ~」
まるで力の抜けた人形のように女の子座りで地に伏していた。
自分が思いを寄せる男が命を掛けて自分を助けに来てくれる。
女の子であれば一度は考えるシュチュエーションだろう。
今彼女は幸せの絶頂を迎えまともに立つことができなくなってしまったのだった。
地に伏したマチルダ一度目をやった後、大和は鋭い視線で今回の事件を起こした張本人を睨みつける。
その視線を正面で受け止めるサマエルを確認すると少し低めの声で話し出す。
「お前がマチルダを攫った犯人だな?」
その問いかけに「そうだ」とサマエルは短く答える。
それを確認すると大和は次の質問を投げかける。
「なぜこんなくだらない真似をした!」
「知れたこと、お前をおびき出すための餌に決まっているではないか」
その問いに彼は肩を竦めながら答える。
大和はサマエルの言葉に不快感を表に出したように顔を歪め睨みつける。
そして、腰に手を当て剣を引き抜いた。
「ここに呼び出したというのなら目的は俺と戦うためなのだろう?
望み通り相手をしてやるからかかってこい!」
そう言うとサマエルは首を鳴らしながらヘルに命令を下す。
「ヘル、勇者は俺が相手をする。 お前は他の3人を相手しろ」
「かしこまりました」
そんなやり取りをよそに大和はマチルダのもとに行き未だ地に伏した状態の彼女を立たせた。
彼女の自由を奪っていた手枷を難なく解除するとその体を抱き上げリナたちのもとに歩いて行った。
そんな大和の行動に目を白黒させただただ口を開いたり閉じたりすることしかできない彼女を
リナたちのもとに連れていくと大和は3人に頼みごとをする。
「マチルダを頼んだ。 俺はサマエルと一騎打ちで戦う」
その決断に自分たちも戦うと請願したがその言葉はヘルの手によって却下される。
「残念だけどあなたたちの相手はこのあたしがするわ。
ここじゃあサマエル様の邪魔になることだし場所を変えましょう」
彼女が手をかざすと闇に包まれたのゲートが出現した。
そのゲートに入りながらリナたちに手招きをする。
それを受けてマチルダを含めた4人はゲートに向かって行く。
「ヤマト様、どうかご無事で」
「あの女を倒したらすぐに戻ってきます」
「あんな女マーリン一人で十分ですのん」
「ヤマト様・・・・」
それぞれが大和に声を掛けると彼は一言だけ「気を付けてな」と言葉を掛け4人を送り出した。
ゲートに4人が入ると跡形もなくゲートが消え去る。
それを見届けると大和はサマエルに向き直り鋭い視線を向けた。
「これで二人きりだ。 じゃあ勝負と行こうじゃないか勇者よ!!」
こうして魔王軍大幹部の一人との戦いの火蓋が切って落とされたのだった。




