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ハズレと言われた『磁石』スキルで、俺は世界を無双する。  作者: 小兼


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35話 ゆびきりげんまん

 出発の日、村の門の前には、思っていた以上に多くの村人たちが集まっていた。

 正直にいうと、かなり驚いた。


「アオイ、道中気をつけてな」

「元気で行ってこいよ」


 次々とかけられる声に、少し照れくさくなる。

 最初はよそ者として警戒されていたはずのこの村で、今ではこんなにも多くの人に見送ってもらえる。その事実だけで、この村に来て良かったと、改めて実感する。


「アオイお兄ちゃん!」


 ミルクが真っ先に駆け寄ってきた。その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。


「泣くなよ、また戻ってくるんだから」

「本当に? 絶対戻ってくる?」

「ああ、約束する」


 小指を差し出すと、ミルク首を傾げた。


「どうしたの?」

「俺の故郷では、約束をする時には小指をこう絡めるっていう風習があるんだ」

「何それ、面白い!」


 ミルクは涙を拭いながら、その指に自分の小指を絡めた。


「約束だからね!」

「うん」


 その素直な想いに、胸が温かくなると同時に、少しだけ切なさも感じた。


...

..

.


「アオイ!」


 ブロアが、大きな包みを持って近づいてきた。


「これ、頼まれてた旅の道具一式だ。ガレオンに着いたら、必要になるはずだ」

「ありがとうございます、ブロアさん」

「それと、これ」


 ブロアが差し出したのは、以前作ってもらった専用の小剣と、命核を仕込んだナイフだった。


「手入れは怠るなよ。それに――」


 ブロアが少し照れくさそうに続ける。


「困ったことがあったら、いつでも手紙をよこせ。俺なりに、できることをしてやる」

「はい、必ず」


 村長も最後に、改めて声をかけてくれた。


「アオイよ、道中の無事を祈っておる。何かあれば、いつでもこの村を頼れ」

「はい、ありがとうございます」


...

..

.


 見送りの最後、ギースが少し寂しそうな顔で言った。


「防衛の仕事、俺が引き継いでおく。お前がいない間も、この村は俺が守る」

「ギースさん、頼りにしてます」

「任せろ。それより、お前こそ気をつけろよ。ガレオンは、この村とは違う。油断するなよ」

「はい」


 ロカルドが最後に、旅支度を整えた姿で隣に並んだ。


「よし、行くか」

「はい」


 村人たちの見送りを受けながら、俺とロカルドは村の門を出た。

 振り返ると、レニス村の柵と、そこに集まる人々の姿が、夕日に照らされて温かく見えた。

 一度だけ振り向いた後、俺は前を向いて歩き出した。


 村の門が見えなくなるまで、俺は何度も振り返った。

 そのたびに、まだ手を振り続けている村人たちの姿が見えた。この村で過ごした日々が、決して短くはない時間だったことを、改めて実感する。


「寂しいか?」


 隣を歩くロカルドが、静かに聞いてきた。


「はい、正直言うと」

「それでいい。大切な場所ができたってことだからな」


 ロカルドの言葉に頷きながら、俺は改めて前を向いた。

 初めての、村の外への長い旅が、こうして始まったのだった。


...

..

.


 街道に出てしばらく歩くと、村の気配はすっかり遠ざかっていた。

 周囲には、これまで見たことのない広い草原が広がっている。風が草を揺らし、遠くには低い山々が霞んで見えた。


「この辺りは、比較的安全な地域だ。魔物の出現率も低い」


 ロカルドが周囲を見渡しながら説明してくれる。


「村の周りの森とは、随分雰囲気が違いますね」

「ああ、あの森は特別なんだ。だからこそ、あんな強力な魔物が湧いていたわけだしな」


 なるほど、と俺は納得した。と同時に、憤った。

 あの女神、そんなところに俺を放り出したのか……!

 

あの森での戦いから始まった俺の異世界生活も、こうして少しずつ舞台を広げていっている。

 草原を抜ける風を感じながら、俺は改めて、この旅への期待を胸に歩みを進めた。


...

..

.


 昼過ぎ、街道脇に小さな泉を見つけ、そこで休憩を取ることにした。

 澄んだ水を手で掬い、喉を潤す。前の世界の水道水とは違う、自然そのものの味がした。


「ここまで来れば、明日には中継の集落に着くはずだ」


 ロカルドが地図を確認しながら言う。


「思ったより順調ですね」

「ああ、お前がいるおかげで、魔物の対処に時間を取られずに済んでるからな」


 その言葉に、少し誇らしい気持ちになる。

 比較的魔物が少ないとはいえ、たまに魔物は出る。だが、それは俺が片っ端から蹴散らしたのだ。

 休憩を終え、再び歩き始めると、夕暮れ時の空が茜色に染まり始めていた。この世界の夕焼けは、前の世界のものよりも、どこか鮮やかに感じられる。

 そんな景色を眺めながら、俺たちは黙々と歩みを進めていった。


 夜、野営の準備をしながら、ロカルドが持ってきていた干し肉を分けてくれた。


「村の保存食だ。お前も味には慣れてるだろう」

「はい、懐かしい味です」


 焚き火を囲みながら食事を取っていると、ふと空を見上げたロカルドが呟いた。


「星が綺麗だな」

「ですね」


 村で見た星空と同じはずなのに、旅の途中で見るそれは、どこか違って見えた。同じ景色でも、状況や心境によって、こんなにも印象が変わるものなのかと、少し不思議な気持ちになる。


「明日には中継の集落に着く。そこで一泊して、翌日にはガレオンだ」

「いよいよですね」

「ああ。気を引き締めていけよ」


 その言葉に頷きながら、俺は改めて、これから始まる新しい生活への期待を胸に抱いた。


 その後、俺は日付が変わるまでずっと虫の羽音に眠りを邪魔された。

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