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ハズレと言われた『磁石』スキルで、俺は世界を無双する。  作者: 小兼


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34話 詰めるは荷物と覚悟

 数日間、悩み続けた末、俺はついに決心を固めた。

 村長のもとを訪ね、ガレオンへ行く意志を伝えることにする。


「村長、少しお話が」

「うむ、どうした」


 集会所で向き合うと、俺は正直な気持ちを話し始めた。


「一度、ガレオンの街を見てみたいと思っています」


 村長は、しばらく黙って俺を見つめていた。


「……そうか。まあ、いつかはそう言い出すだろうと思っておった」

「村長?」

「お前のような力を持つ者が、いつまでもこの小さな村に留まっているとは、正直思っておらんかったからな」


 村長の言葉に、俺は少し苦笑した。


「別に、村を見限るとかそういうことじゃないんです。ただ、外の様子も見ておきたくて」

「分かっておる。それに、ずっと村に籠っていても、お前の力を持て余すだけだろう」

「はい、もちろんです。落ち着いたら、また戻ってきます」


 俺の言葉に、村長は軽く頷いた。


「よし、それならば、快く送り出そう」


 村長がそう言って、立ち上がった。


「準備はいつ頃までにできそうだ?」

「数日中には出発したいと思っています。ロカルドさんに、道案内をお願いしようかと」

「うむ、それがいいだろう。あやつなら、ガレオンの街のことにも詳しい」


 話はあっさりとまとまった。村長も、大袈裟に引き止めるようなことはせず、それがありがたかった。


「路銀は用意できるか? ガレオンは物価が高いと聞くぞ」

「多少は貯えがあります。あとは、依頼をこなしながら稼ぐつもりです」

「うむ、それがいい。それと――」


 村長は棚の奥から、小さな木箱を取り出した。


「これを持っていくといい」


 箱の中には、古びた一つの徽章が入っていた。


「これは?」

「わしの若い頃の形見だ。大した力はないが、お守り代わりにでもしろ」

「……ありがとうございます、村長」


 特に感傷的な様子もなく、村長はさらりとそう言って、徽章を差し出した。俺は素直に受け取り、懐にしまう。


「それで、装備は足りているか? ブロアには話を通しておいた方がいいのではないか」

「はい、これから工房に寄って相談してきます」

「うむ、そうしてくれ。あと、道中の地図だが……」


 村長が、以前俺が指摘した不正確な地図の件を思い出したのか、少し気まずそうな顔をした。


「あの地図は、当てにしない方がいいだろうな」

「はい、そのつもりです」


 軽口を交わしながら、俺たちは出発に向けた実務的な打ち合わせを進めていった。


...

..

.


 集会所を出ると、既にミルクたち子供たちが待ち構えていた。


「アオイお兄ちゃん、本当に村を出ていっちゃうの?」

「うん、少しの間だけね。でも、必ず戻ってくるから」

「絶対だよ!」

「ああ、約束する」


 その後、俺はブロアの工房に立ち寄り、旅の装備について改めて相談した。


「ガレオンに行くのか。よし、それなら手持ちの道具を一通り点検してやる」

「お願いします」


 ブロアは早速、専用の小剣『磁針』や、命核を仕込んだナイフの状態を確認し始めた。


「刃こぼれもないし、状態は上々だな。あとは、旅用の予備の道具を何点か持たせてやろう」


 そんなやり取りが続く中、俺は改めて、この旅に向けた準備が着実に進んでいることを実感していた。


...

..

.


 その夜、俺は自分の荷物を整理しながら、必要なものを一つ一つ確認していった。

 着替え、保存食、簡易的な救急道具、そして村長からもらった指輪。荷物をまとめ終える頃には、既に夜も更けていた。


 明日、改めてロカルドと出発の日取りを詰める予定だ。旅の支度が整っていく実感と共に、俺は少しずつ、これから始まる新しい生活への期待を膨らませていった。

 ランプの火を消し、俺は床についた。特別な感傷に浸る余裕もないほど、明日からのことで頭がいっぱいだった。


...

..

.


 翌朝、ロカルドの家を訪ね、正式に出発の日取りを決めることにした。


「三日後、というのでどうだ? 準備にはそれくらいかかるだろう」

「はい、それで大丈夫です」

「よし、じゃあその間に、旅の持ち物リストを作っておこう。忘れ物があると面倒だからな」


 ロカルドは紙とペンを取り出し、必要なものを次々と書き出していった。


「食料、水、着替え、応急処置用の道具、あとは野営道具一式だな」

「野営道具って、具体的には?」

「テント代わりの布と、火起こしの道具、それに寝袋がわりの毛布だ」


 村での暮らしでは考える必要のなかった、こうした細々とした準備が、地味に大変であることを、俺は改めて実感する。


「あと、ガレオンに着いてからの当面の宿代も見ておいた方がいい」

「なるほど、色々かかるんですね」

「そりゃそうだ。旅ってのは、こういう地味な準備の積み重ねだからな」


 三日間、俺は村での最後の依頼をこなしつつ、旅の準備を並行して進めていくことになった。

 忙しない日々だったが、その忙しさが、旅立ちへの実感を後押ししてくれるようでもあった。


 準備の合間、俺はギースにも防衛の引き継ぎについて相談した。


「アオイがいない間の見回り、俺が中心にやっとくよ。心配すんな」

「ありがとうございます、頼りにしてます。それに、ロカルドさんのことも……」

「まあ、あの磁場結界の杭のおかげで、以前よりは随分楽になったしな。一人でやっていけないこともない」


 ギースの言葉に、少し安心する。

 俺がこの村を離れても、防衛体制がしっかり機能する見込みが立っていることは、旅立つ上で大きな支えだった。


 出発前日、俺は改めて荷物の最終確認を行った。ロカルドが作ってくれたリストと照らし合わせながら、一つ一つ丁寧にチェックしていく。


「よし、これで全部揃ったな」


 準備を終え、俺は明日からの旅に向けて、期待と共に、静かな眠りについた。

 (アオイ)よ、感傷はどこへ行ったんだ。

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