表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレと言われた『磁石』スキルで、俺は世界を無双する。  作者: 小兼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/41

32話 見知らぬ夜空

 ゲルドとの一件があってから、俺の中では日に日に葛藤が大きくなっていった。

 この村での暮らしは、本当に居心地がいい。ロカルドやギース、ブロア、そして村長。皆、俺を分け隔てなく受け入れてくれている。

 だが同時に、外の世界への興味も、確実に膨らみ始めていた。


「アオイ、また難しい顔してるな」


 工房での作業中、ブロアが気づいて声をかけてきた。


「……すみません、ちょっと考え事を」

「ガレオンの件か?」


 ブロアの言葉に、俺は苦笑いする。


「バレてましたか」

「そりゃな、お前、あの行商人が来てからずっと様子がおかしい」


 鉄を打つ手を止め、ブロアが真剣な表情で続けた。


「正直、俺はお前にこの村にいてほしい。だが、それはあくまで俺の願望だ。お前自身の人生を、俺が縛る権利はない」

「ブロアさん……」

「お前がこの村を出て行くことになったら、寂しいさ。だが、それがお前の望みなら、俺は応援する。それが、恩人にできる、せめてものことだと思ってる」


 ブロアの言葉に、胸が熱くなる。

 この人は、いつも俺のことを考えてくれる。それが分かっているからこそ、余計に決断が難しかった。


「でも、俺には気になることがあります」


 俺は正直な気持ちを口にした。


「この村での暮らしは、本当に大切なものです。でも――俺が違う世界から来たこと、そして、いつか元の世界に帰りたいと思っていること。それを考えると、いつまでもこの村に留まっているわけにもいかないのかもしれません」

「……そうか」


 ブロアはしばらく黙り込んでいたが、やがて口を開いた。


「アオイ、お前が元の世界に帰りたいと思う気持ちは、俺には理解できないところもある。だが、その気持ちを叶えるために、お前が今できることをやるべきだとは思う」

「ありがとうございます」

「それに――」


 ブロアが少し悪戯っぽく笑った。


「ガレオンに行ったからって、この村と縁が切れるわけじゃないだろう。俺たちは、いつまでもお前の味方だ」


 その言葉に、少し肩の力が抜けた気がした。

 外の世界への興味と、この村への愛着。その両方を大切にしながら、自分の道を選べばいい。そう思えるようになったのは、間違いなくブロアのこの言葉のおかげだった。


...

..

.


 その後、ブロアと二人で午後の作業を続けながら、ふと専用武器についての話になった。


「そういえば、お前のその小剣、まだ名前をつけてなかったな」

「そうですね……なかなか思いつかなくて」

「ガレオンに行くなら、そろそろ名前をつけてやったらどうだ。愛着も湧くし、士気も上がるってもんだ」


 ブロアの提案に、俺はしばらく考えを巡らせた。

 磁力を操るための剣。この世界で初めて手に入れた、自分だけの武器。


「……『磁針』、とかどうですかね」

「磁針? コンパスの針か?ネーミングセンス……」

「黙ってください。俺の力の象徴みたいなものなのだから磁針です」


 ブロアはしばらく考えた後、満足そうに頷いた。


「悪くないな。よし、これからその剣は『磁針』と呼ぶことにしよう」


 名前が決まったことで、その小剣への愛着が一段と増した気がした。


...

..

.


 その夜、俺は一人、村の外れの丘に登った。

 夜空に浮かぶ星々を見上げながら、これからのことを考える。

 前の世界で見た星空と、この世界の星空は、少し違う配置をしている。それでも、こうして星を見上げていると、不思議と心が落ち着いた。


「……どうすればいいんだろうな」


 誰にともなく呟く。

 答えはまだ出ない。だが、少なくとも、この村を大切に思う気持ちと、外の世界を知りたいという気持ち、その両方が自分の中にあることは、はっきりと自覚できていた。


 しばらく星空を眺めた後、俺は静かに丘を下り、村へと戻っていった。


...

..

.


 家に戻る途中、村の見張り小屋の前を通りかかると、ギースが火の番をしていた。


「おう、アオイ。こんな時間にどうした」

「ちょっと、考え事をしてて眠れなくて」

「ゲルドの件か?」


 ギースの鋭い指摘に、思わず苦笑する。


「バレてましたか」

「そりゃ、お前の様子見りゃ分かるさ。あの行商人が来てから、ずっと考え込んでるだろ」


 火にくべた薪がパチパチと音を立てる。ギースは焚き火の炎を見つめながら、静かに続けた。


「なあアオイ、俺はお前がこの村を出て行くことに、反対はしないぞ」

「ギースさんも、ですか」

「お前の力は、こんな小さな村に収まりきるもんじゃない。それは、お前自身が一番よく分かってるはずだ」


 その言葉に、俺は何も返せなかった。

 図星を突かれた気分だった。この村での暮らしを大切に思う気持ちは本物だが、同時に、自分の力がこの村の中だけで完結するものではないことも、薄々気づいていた。


「ただ、行くにしても、しっかり準備してから行けよ。ガレオンは、この村より遥かに危険な場所も多い」

「はい、気をつけます」


 焚き火の炎を見つめながら、俺はしばらくギースと言葉を交わした。

 結論はまだ出ないが、少なくとも、村の皆が俺の選択を尊重してくれていることが、何よりの支えだった。


 ふと、この世界の空を見上げる。前の世界よりも、月の動きが心なしか早い気がする。

 そういえば、この世界に来てからというもの、一日の長さの感覚がどこか前の世界とずれているように感じることが度々あった。

 この世界は、前の世界よりも公転が早いのかもしれない。

 だとすれば、季節の巡りも、俺が肌で感じている以上に速く過ぎ去っているのだろう。

 そんなことを考えながら、俺は火の番を交代し、ギースを休ませることにした。夜の静けさの中、揺れる炎を見つめながら、これからのことをぼんやりと考え続けた。


...

..

.


 翌朝、目を覚ますと、不思議と気持ちが軽くなっていた。

 結論を急ぐ必要はない。まずは、外の世界について、もっと詳しく知ることから始めればいい。


 そう考えると、まず頼るべき相手は決まっていた。ガレオンの冒険者ギルドに所属していたという、ロカルドだ。

 朝食を済ませ、俺はロカルドの家へと足を向けた。もっと詳しい話を聞いてから、改めて考えを固めよう。そう決意しながら、朝の澄んだ空気の中を歩いていった。

 ちなみに、公転が早いのは本当です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ