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ハズレと言われた『磁石』スキルで、俺は世界を無双する。  作者: 小兼


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31話 商人は二度くる

 魔狼の群れを退けてから半月ほど経った頃、村に再びゲルドの姿が現れた。

 以前と変わらぬ人当たりの良い笑顔で、村人たちに品物を売り歩いている。

 だが、俺の中には、以前とは違う警戒心が芽生えていた。


「おや、アオイさん。お元気そうで何よりです」


 広場で顔を合わせると、ゲルドは相変わらずの調子で声をかけてきた。


「ゲルドさんも、お変わりないようで」

「ええ、おかげさまで……それにしても、この村はまた一段と活気づきましたね」


 その言葉に、俺は内心身構えた。魔狼の群れを退治した件も、既に耳に入っているのだろう。


「知恵の回る魔狼の群れを、村人だけで撃退したとか。大した武勇伝ですな」

「大袈裟に伝わっているだけですよ」

「またまた、ご謙遜を」


 軽く笑い飛ばすように言われ、これ以上追及されないよう話を切り替える。


「ゲルドさんは、今回はどちらから?」

「隣町のガレオンから来ましたよ。ああ、そういえば――」


 ゲルドが、思い出したように話を続ける。


「ガレオンでは今、腕利きの冒険者を探している、という話をよく耳にします。何でも、ギルドが新しい人材を求めているとか」

「腕利きの冒険者、ですか」

「ええ……もしよろしければ、あなたのような方には、うってつけの話かもしれませんね」


 その言い方に、また含みを感じた。

 単なる世間話にしては、あまりに的を射すぎている。


「俺は、この村での暮らしに満足していますから」

「そうですか。まあ、それも一つの生き方でしょう」


 ゲルドは特に食い下がることもなく、話題を変えた。


「それにしても、あなたのような方が、こんな小さな村に留まっているのは、少し勿体ない気もしますな」

「勿体ない、ですか?」

「ええ。世の中には、あなたのような力を必要としている場所が、いくらでもあります。ガレオンのような大きな街なら、その力を存分に発揮する機会も多いでしょう」


 その言葉には、単なる商人の世間話以上の何かが感じられた。

 まるで、俺を村の外へ誘い出そうとしているような、そんな意図を感じる。


「考えておきます」


 当たり障りのない返事をすると、ゲルドは満足そうに頷いた。


「ええ、ぜひ……それでは、また機会があれば」


 そう言って、ゲルドは荷物をまとめ、次の村へと向かって去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺はブロアの言葉を思い出していた。「上手すぎる口は、時に本音を隠す道具にもなる」――まさにその通りだと思う。


...

..

.


 夜、ロカルドの家を訪ね、今日の一件を報告した。


「ガレオンの冒険者ギルドが人材を求めてる、か」

「はい。それに、俺を暗にガレオンに誘っているような口ぶりでした」

「気になるな。あの男、単なる行商人にしては、随分と顔が広い」


 ロカルドが腕を組み、考え込む。


「アオイ、お前はどう思う? ガレオンに行ってみる気は」

「正直、迷ってます。この村での暮らしは気に入っていますが……」


 言葉を濁すと、ロカルドが小さく笑った。


「無理に決める必要はない。ただ、外の世界に興味があるなら、それも一つの選択肢だ。俺も昔、ガレオンの冒険者ギルドに所属していたことがある」

「え、そうなんですか?」

「ああ、随分昔の話だがな」


 初めて聞く話に、思わず興味を引かれる。

 この村での穏やかな日々の中で、少しずつ、外の世界への興味も芽生え始めていた。

 それが、ゲルドの誘導によるものなのか、それとも自分自身の純粋な好奇心なのか、俺自身にもまだよく分からなかった。


...

..

.


 その夜、床についてからも、なかなか寝付けなかった。

 村での暮らしは、確かに大切なものだ。だが、心のどこかで、もっと広い世界を見てみたいという気持ちが、日に日に強くなっているのも事実だった。


 窓の外に浮かぶ月を見上げながら、俺はしばらく考え続けた。

 ガレオンに行けば、この村では得られない情報や機会があるかもしれない。魔王討伐や、いずれ女神と対峙するための力を、もっと効率的に鍛えられるかもしれない。


 だが同時に、この村の人たちとの繋がりを、簡単に手放したくないという想いも強かった。

 どちらが正しいという話ではない。ただ、自分がどうしたいのか、じっくりと考える時間が必要だと感じていた。

 夜が更ける中、火の番を交代してもらい、俺はようやく眠りについた。


...

..

.


 夢の中では、なぜか前の世界の教室が出てきた。

 十河が隣の席で、いつものように軽口を叩いている。

 目が覚めた時、その光景がやけに鮮明に思い出され、しばらく胸の奥がざわついていた。

 この村での生活が充実している今でも、ふとした瞬間に前の世界のことを思い出す。その頻度は減ってきているとはいえ、完全に消えることはない。

 それでいいのだと、俺は自分に言い聞かせた。忘れることが前に進むことではない。大切な記憶を抱えたまま、今この場所で生きていく。それもまた、一つの生き方なのだと。


 家の扉を開けると、ミルクたちが既に家の前で待っていた。


「アオイお兄ちゃん、おはよう!」

「おはよう、随分早いな」

「今日は特別な日だから!」


 その言葉に首を傾げると、ミルクが少し照れくさそうに、小さな花束を差し出した。野に咲く花を摘んで作ったものらしい。


「これ、お守り代わりに持ってって!」

「……ありがとう」


 不器用に結ばれた花束を受け取りながら、俺は胸が熱くなるのを感じた。

 こうした些細な優しさの積み重ねが、この村を離れがたいものにしているのだと、改めて実感する日となった。

 花束を大切に鞄へしまい込み、俺は改めて出発への覚悟を固めた。

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