27話 画策
朝の報告を終えた後、俺たちは改めて森へと足を踏み入れた。
目的は、昨夜の襲撃者の正体を突き止めること。単独での深追いは避けるべきだが、痕跡が新しいうちに追跡しておかないと、手がかりが薄れてしまう。
「ロカルドさん、ギースさん、無理はしないでくださいね」
「それはこっちの台詞だ。お前が一番前に出ようとするだろうが」
図星を突かれ、思わず苦笑いする。
森の入り口から、昨夜感知した南東の方角へと進んでいく。
俺は薄く『磁場生成』を展開したまま歩き、周囲の金属反応――主に魔物の体内に含まれる鉄分。この世界の魔物は、鉄分が多いのだ――を探り続けた。
「反応、少しずつ強くなってます」
「近づいてるってことか」
「はい。それに……妙です」
「妙、とは?」
「反応の強さが、均一なんです。普通の魔物なら、個体差でもう少しばらつきが出るはずなんですが」
ロカルドが眉をひそめる。
「訓練された群れ、ってことか?」
「かもしれません」
しばらく進むと、木々の間に不自然な形の足跡が続いているのが見えた。
昨夜、家畜小屋の周りで見たものと同じ、規則的な歩幅。
「この足跡、やっぱり複数匹だな」
「数は……六、いや七匹くらいでしょうか」
磁場生成の感知を頼りに、俺は反応の数を数える。
これまで戦ってきた魔物とは、明らかに異なる緊張感があった。単純な力比べではなく、相手の「知恵」と対峙するという、初めての感覚だ。
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「――待て、あそこだ」
ギースが低い声で指差した先、木々の隙間から、複数の影が見えた。
狼に似た体躯だが、これまで見た白い狼とは違う、灰褐色の毛並み。目つきも鋭く、明らかに知性を感じさせる光を宿している。
数は七匹。俺たちの存在に、まだ気づいていない様子だ。
「様子を見よう。下手に刺激するのは危険だ」
ロカルドの言葉に頷き、俺たちは茂みの陰から観察を続けた。
魔狼たちは、何かを話し合っているかのように、互いに鳴き声を交わしている。単なる威嚇や警戒の声ではない、もっと複雑な「意思疎通」をしているように見えた。
しばらく観察していると、一匹の魔狼――他よりも一回り大きく、額に傷跡のある個体――が、他の個体に何かを指示するような仕草を見せた。
その合図で、群れが二手に分かれて動き出す。
「あれが、リーダー格か」
「間違いなさそうです」
群れは、まるで軍隊のように統制の取れた動きで、森の奥へと消えていった。
「……厄介だな、こいつら」
ロカルドが低く呟く。
「単純に物量で押し切れる相手じゃない。頭を使ってくる」
「はい。今までみたいに、力任せの戦法は通用しないかもしれません」
俺たちはしばらくその場に留まり、魔狼たちの動きを記憶に刻んだ後、村へと引き返すことにした。
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村に戻り、村長とブロアにも状況を共有する。
「知恵の回る魔狼の群れ、か」
村長が難しい顔で腕を組んだ。
「昔から、稀にそういう個体がいるとは聞いていたが……まさか、この村の近くに現れるとはな」
「対策を考えないといけませんね」
ブロアが工房の資料を漁りながら言う。
「単純な罠じゃ見破られるだろうな。あいつらが本当に知恵が回るなら」
「はい。だからこそ、逆にその知恵を利用する方法を考えたいんです」
俺の言葉に、ロカルドが片眉を上げた。
「利用する、というと?」
「奴らが賢いなら、罠だと分かっていても踏まざるを得ないような、そんな状況を作れないかと」
まだ具体的な作戦は固まっていない。だが、今回の相手は、これまでとは違う「頭脳戦」を強いてくる。
単純な力押しではなく、知恵と知恵のぶつかり合い。
その難しさに、俺は不思議と、これまでにない種類の高揚感を覚えていた。
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村に戻る道すがら、俺はふと、あの猪と猿を混ぜたような魔物や、ダチョウの群れなど、これまで倒してきた魔物たちのことを思い出していた。
あの頃は、ただがむしゃらに『磁極付与』を連発するだけで、大抵の相手は倒せた。だが、今回はそうはいかない。
「相手が考えて動くとなると、こっちも考えて動かないとな……」
独り言のように呟くと、隣を歩いていたロカルドが反応した。
「どうした、急に難しい顔して」
「いえ、これまでとは違う戦い方が必要だなと思って」
「ああ、それは俺も同感だ。今までは、お前の力があれば大抵の相手はどうにかなった。だが、知恵比べとなると話は別だ」
ロカルドの言葉に、俺は頷く。
「俺一人の力じゃ、限界があります。皆さんの経験や知恵も、借りたいです」
「当たり前だ。俺たちだって、伊達に長年この村を守ってきたわけじゃない」
その言葉に、少し心強さを感じた。
これまでは、どちらかというと俺が一人で解決してしまうことが多かった。だが、今回のような相手には、それぞれの得意分野を活かした連携が必要になる。
「よし、村に戻ったら、もう一度みんなで作戦を練り直そう」
「はい」
初めての「頭脳戦」を前に、俺の中に緊張と、それ以上の高揚感が入り混じっていた。
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村に戻る途中、ギースがふと口を開いた。
「なあ、アオイ。お前、こういう頭を使う戦い方、意外と得意そうだな」
「そうですかね。むしろ、力任せの方が性に合ってる気がしますけど」
「いや、さっきの観察の仕方とか、足跡の分析とか、あれは普通できることじゃないぞ」
言われてみれば、確かに前の世界にいた頃も、こういう論理的に物事を考えるのは嫌いではなかった。ゲームの攻略法を考えたり、テストの出題傾向を予想したりするのが、地味に得意だった気がする。
「まあ、考えること自体は嫌いじゃないです」
「だろうな。お前、意外と冷静に物事見てるもんな」
ギースの言葉に、少し照れくさくなる。
村に戻ると、既にロカルドが村長のもとへ状況を報告しに行っていた。俺たちも合流し、改めて今後の方針について話し合うことになった。
「相手の数は七、統率されている。単純な力押しは避けるべきだ」
ロカルドの言葉に、全員が頷く。
これから始まる知恵比べに向けて、俺たちは夜遅くまで議論を重ねていった。




