表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレと言われた『磁石』スキルで、俺は世界を無双する。  作者: 小兼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/30

23話 警戒

 ゲルドと名乗ったあの行商人は、その日のうちに村を去っていった。

 俺は工房の窓からその後ろ姿を見送りながら、どうにも落ち着かない気分でいた。ブロアも同じだったのか、金槌を持つ手を止めて、しばらく無言で外を見つめていた。


「……行っちまったな」

「はい……」

「アオイ、お前、あの後どうだった。何か話しかけられたか?」


 ブロアの問いに、俺は昨日の記憶を辿る。

 あの後、俺はもう一度だけ広場に出て、様子を見に行ったのだ。ちょうどゲルドが荷物をまとめているところで、目が合った。


「はい。少しだけ」


 あの時のことを、思い出す。


...

..

.


 広場の隅、荷物を担ぎ直していたゲルドに、俺は声をかけた。

 別に、何か聞き出そうとしたわけじゃない。

 ただ、村人たちが親しげに接している相手が、村の外の情報を、そして俺のことをどこまで知っているのか、単純に気になっただけだ。


「あの、ゲルドさん」

「おや、これはこれは。あなたが噂の……アオイさん、でしたか」


 振り返ったゲルドの顔には、あの人当たりの良い笑みが浮かんでいた。

 だが、その目の奥には、やはりあの冷たい光がある。俺を映しているようで、俺の何かを値踏みしているような、そんな目だ。


「噂、ですか?」

「ええ、もちろん。この辺りの村を回っていれば、嫌でも耳に入りますよ。森の奥の魔物を単身で討伐し、洞窟に囚われた二人を救い出した、という若者の話をね」


 やっぱり、広まっているのか。

 村長が口止めをしてくれているとはいえ、こうして行商人にまで話が届いているということは、思っていた以上に噂の広がりが速いということだ。


「大袈裟に伝わっているだけですよ。運が良かっただけです」

「謙遜が過ぎますな。噂というのは、大抵は誇張よりも、むしろ控えめに伝わるものです。私も長年、色々な土地を回っておりますが、あなたのような若者には、そうそうお目にかかれません」


 その言い方が、妙に引っかかった。まるで、俺のような存在を何度も見てきたかのような口ぶりだ。


「ゲルドさんは、どちらから来られたんですか?」

「あちこちですよ。街道沿いの村を、順繰りに回っているだけの、しがない行商人です」


 しがない、という言葉とは裏腹に、その立ち振る舞いには一切の隙がなかった。荷物の扱い方も、言葉選びも、どれもが計算され尽くしているように見える。


「そういえば」


 ゲルドが荷物の紐を結びながら、何気ない調子で続けた。


「最近、あちこちの村で、少し変わった噂を耳にするのですよ。おかしな力を持った若者の話を、ね」

「おかしな力、ですか?」

「ええ。剣も魔法も使わず、それでいて名うての魔物を軽々と屠ってしまう、そんな話です。あなたのように」


 心臓が、跳ねた。

 まさか、俺のことを直接指しているのか?それとも、他にも似たような人間がいるということなのか。


「……俺は、ただの魔物討伐の依頼をこなしているだけですよ」

「そうでしょうとも。ただ、世の中には、そういった規格外の力を持つ者を、放っておかない人間も少なくない。私が言いたいのは、ただそれだけのことです」


 含みのある言い方だった。忠告なのか、探りなのか。それとも、単なる世間話のつもりなのか。


「それは、脅しですか?」


 思わず、そう聞いてしまった。ゲルドは驚いたように目を丸くし、それから声を上げて笑った。


「まさか、そんなつもりは毛頭ありませんよ。私はただの商人です。ただ、あなたのような珍しい方に出会えたのは、旅の中でも良い収穫だと思っただけのこと……ああ、そうそう」


 ゲルドが荷物を担ぎ直し、俺に背を向けた。


「隣町のガレオンには、よく顔を出す商人仲間が多くいます。もし機会があれば、いずれそちらでもお会いできるかもしれませんね」


 それだけ言って、ゲルドは軽い足取りで村の門を出ていった。

 その背中を見送りながら、俺はしばらく動けなかった。


...

..

.


「――というわけです」


 俺は工房でブロアに、その一部始終を話した。

 ブロアは腕を組み、難しい顔をしている。


「隣町の商人仲間、か」

「気になりますか?」

「気になるも何も、あいつの言い方は、あからさまに何かを探ってた口ぶりだろ。それに、ガレオンで会うかもしれない、ってのも、まるで俺たちを誘ってるみたいだ」


 言われてみれば、確かにそうだ。ただの世間話にしては、あまりに的を射すぎている。


「それに、あの目だ。お前も気づいただろう?」

「はい。笑ってるのに、笑ってない目でした」


 ブロアが小さく頷く。


「あの手の連中は、大抵裏に何かを抱えてる。商人ってのは、口が上手いのが商売道具だ。だが、上手すぎる口は、時に本音を隠す道具にもなる」


 鍛冶屋としての付き合いの中で、色んな人間を見てきたブロアの言葉には、変な説得力があった。


「ロカルドさんにも、話しておいた方がいいですかね」

「ああ、そうしてくれ。あいつなら、また別の見方をするかもしれん」


...

..

.


 その夜、俺はロカルドの家を訪ね、ゲルドとのやり取りを詳しく伝えた。

 ロカルドは黙って話を聞き終えると、深く息を吐いた。


「……お前の噂、思ったより広がってるみたいだな」

「はい。正直、参ってます」

「これまでは、村の中だけの話だと思ってたが、行商人の口から他の土地に伝わっているとなると、話は別だ」


 ロカルドが眉間に皺を寄せる。


「アオイ、しばらくは目立つ行動を控えた方がいいかもしれん」

「でも、村の防衛の依頼は……」

「それは続けてくれ。ただ、必要以上に力を見せつけるのは避けろ、ということだ。今のままじゃ、いずれもっと厄介な連中の耳にも入る」


 もっと厄介な連中、という言葉に、自然と女神の顔が思い浮かんだ。

 もしロベリアの耳にまで届いたら――そう考えるだけで、背筋が冷たくなる。


「……気をつけます」

「ああ、そうしてくれ。それと」


 ロカルドが、少しだけ声のトーンを落とした。


「もしまたあの行商人が来たら、俺にも知らせてくれ。今度は、俺からも話を聞いてみる」

「わかりました」


 その日から、俺はほんの少しだけ、周囲への警戒を強めることにした。

 あの目をした男が、次にいつ現れるのか。

 そして、その時、俺に何を持ちかけてくるのか。

 答えの出ない問いを抱えたまま、俺は村での日々を続けていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ