22話 行商
うーん……
注目度-連載中16位。16位!?
まさかここまで読まれるとは思ってなかったです、ありがとうございます!
ブロアの工房に通い始めてから五日が経った頃、村の入口の方がにわかに騒がしくなった。
俺が鉄の選別作業を手伝っていると、ブロアが工房の扉に顔を向けて首をひねった。
「行商人が来たみたいだな」
「行商人?」
「ああ、たまに来る男で、ゲルドって名乗ってる。各地を回ってるらしくて、珍しい品を持ってくるから村人には人気なんだが……」
ブロアが少し口ごもる。
「どうかしましたか?」
「いや、なんとなく、な。その男のことが前々から少し引っかかってるんだ。あくまで俺の勘だから、はっきりとは言えないんだが」
「どういうところが?」
「目が笑ってない、とでも言うのか。愛想はいいんだが、何を考えてるか分からない目をしてる。商人だから当然と言えば当然かもしれんが、それにしても……」
なんだろう、少し気になるな。
俺は手を止めて、扉の外に意識を向けた。
「見に行ってみますか?」
「そうだな。俺も一旦手を休めるか」
工房を出ると、村の広場には確かに一人の男がいた。
くたびれた茶色の外套を羽織り、大きな荷物を背に担いでいる。
年齢は四十前後だろうか、整えられた口ひげと柔らかな笑みが、一見すると人当たりの良い商人そのものだ。
村人たちが周りに集まり、男が布袋から品物を取り出すたびに歓声が上がっている。
調味料、針と糸、乾燥した薬草、遠くの街で作られた小物。
村にはなかなか入ってこない、そして需要の高い品々が、次々と並べられていく。
そんな行商人に、子供が話しかける。あれは確か、ミルク、って名前だったか。
「ゲルドさん、今日は何を持ってきてくれたの?」
「毎度どうも、ミルクちゃん。今日は香辛料が入りましたよ。遠い南の国から来た品でしてね、一振りするだけでどんな料理も変わります」
子供のミルクにも笑顔で答えるその男を、俺は少し離れた場所から眺めた。
確かに、ブロアの言う通り、笑顔が完璧すぎる。
それ自体はおかしいことではない。商売人ならば愛想が商売道具というのは当然だ。
だが、その笑顔の奥にある目が、一度だけ俺の方を向いた。
ほんの一瞬。
しかしその目が、全く違う光を持っていることに気づいた。
笑顔のそれではない。値踏みするような、あるいは計算する機械のような、冷たい光だ。
すぐに視線は外れ、またいつもの商売の笑顔に戻る。
「ロカルドさん」
隣に来ていたロカルドに、小声で話しかける。
「ああ、俺も見てた」
「あの人、何か知ってますか?」
「ゲルドか。俺がこの村に来る前から出入りしてたらしい。村長も素性までは把握しとらんと言ってたが……」
素性くらい把握しとけよ、あのニコニコ村長。
「それがどうしたんだ?」
「さっき、一瞬こちらを見た目が、笑顔とは全然違いました」
「気づいたか」
ロカルドが腕を組む。
「お前のことを調べに来ている可能性は、あるな。この村で、最近一番目立った話といえばお前のことだ」
「心外な。そんなに俺って不審者ですか?」
「素性もわからず、村に入ってきてあの魔物を倒したんだ。十分不審者だろうがよ」
ぐうの音も出ない。
余談だが、人生で初めてぐうの音も出ないと言った気がする。
「やっぱり洞窟の件ですか……」
「それだけじゃない。あの危険すぎる森で生き抜くどころか、魔物を倒し歩いてたんだぞ?」
「むむむ」
「なんだその変な声?」
「何も」
俺を少し呆れた目で見て、続ける。
「俺たちはできるだけ目立たないようにしてきたが、それでも限りはある。特に子供や主婦あたりが噂する。行商人ならなおさら、色んな場所の情報を仕入れてくるだろう」
俺は改めてゲルドを見た。彼はもう俺を見ていない。完全に、村人との商売に集中しているように見える。
「今日は様子を見るだけにしましょう。警戒しすぎると、向こうに察知されます」
「そうだな。ただ、次に来た時は少し話しかけてみるか」
ロカルドが小声で言い、俺も頷いた。
...
..
.
その夜、村長を訪ねてゲルドのことを聞くと、村長は「何年も前から来ている、特に問題は起こしていない」と言った。
それが余計に引っかかった。問題を起こさない行商人など、ほとんどいない。大抵の行商人は、一度くらいは失敗する。考えすぎてるだけかもしれないが……
「村長、俺のことを、あの人に話したことはありますか?」
「いや……召喚のことは誰にも言っていない。だが、洞窟で魔物を倒したこと、畑の手伝いをしたことは、村人との会話の中で自然と出たかもしれんな」
「そうですか」
「心配しておるのか?」
「少しだけ」
少しだけ、ではなくかなり心配している。他の場所からの行商人に知られてしまうと、俺を知っているものがいる場所や人数が増える。それが女神の耳に入った時、その人たちを巻き込みたくない。
「念のため、わしからも村人たちに口止めをしておこう。お前の力の詳細については、軽々しく外に話さないように」
「ありがとうございます」
部屋に戻る道すがら、ゲルドのことを考え続けた。
何者なのかは分からない。ただ、あの目の色は、純粋な商人のものではなかった、と思う。
しばらくは、注意しておく必要があるなと、俺は思った。
とりあえず行商人をめちゃめちゃ胡散臭い感じにして、印象がかなり強いんですけども。
実はこれ以降、ほとんど出す予定がない。




