19話 鍛治
村長との話を終えた後、向かった先は鍛冶屋だった。
あの洞窟で助けたブロアが、目を覚ましたと聞いたからだ。
「ブロアさん、調子はどうですか?」
工房の戸を開けると、包帯を巻いた状態のブロアが、椅子に座って何やら金槌を磨いていた。窓から差し込む午後の陽光が、磨き上げられた金槌の表面で鈍く反射している。
「お、アオイか。おかげさまで、もうだいぶ良くなった」
「無理しないでくださいね?っていうかもう動けるんですか」
「動かないと体が鈍るもんでな」
「つまりは治ってないんですよね」
「ハハ、心配性だな。それより……お前さんが俺を助けてくれたんだってな。ロカルドから聞いたぜ」
ブロアはニカッと笑って、立ち上がろうとして「いてて」と顔をしかめた。右足を庇うように体重を左に傾け、額に汗を浮かべる。
「無理しないでくださいって言ったばかりじゃないですか」
「悪い悪い。にしても、お前、本当にすごいんだな。あの洞窟の魔物っつったら、村でも『手を出すな』って言われてたやつだぞ」
「……運が良かったんですよ、ほんと」
またこの台詞だ。最近、何回言ったかわからない。ロカルドに、村長に、そして今はブロアに。
「謙遜すんなって。とりあえず、命の恩人にお礼をしねぇとな」
ブロアはそう言って、工房の隅に置いてあった棚をゴソゴソと漁り始めた。
「お礼、ですか?別にそんな、気にしなくていいですよ」
「いや、鍛冶屋としての矜持の問題だ。それに、お前ナイフ折られたんだろ?武器なしでどうやっていくんだ?」
「え、その辺の石使えば武器になりますしやっていけますし、ナイフはまた森で見つければいいですし」
「……まぁそんなことは置いといて、気になることがあるんだ」
ブロアはこちらを振り返り、にやりと笑う。
「お前さんが使ってたっていう、その変な戦い方。石とかナイフを飛ばすやつ。あれ、もうちょい詳しく聞かせてもらってもいいか?」
……来た。
あんまりスキルのことを詳しく話すのはよくない、というのは分かっているが、ブロアは命の恩人として接してくれている相手だ。無下にもしづらい。
「えーと……まあ、簡単に言うと、磁石みたいな力なんです。金属を引き寄せたり、飛ばしたりできる」
「磁石!?あの、鉄をくっつけるあれか?」
「そうです、それの強化版みたいな」
完全な嘘ではない。スキルの核心――どれだけの威力が出るかとか、そういう細かい部分はぼかしておく。
ていうか、磁石については未知数なところもあるからな。俺自身、このスキルの限界がどこにあるのか、まだよく分かっていない。
「へえ……それは面白い。実は俺も、ちょっと前から気になってたことがあってな」
ブロアは目を輝かせながら、棚から鉄鉱石の塊をいくつか取り出してきた。どれも拳大ほどの、黒ずんだ石だ。表面には赤褐色の斑点が散らばり、鉱脈の痕跡が微かに見える。
「こいつをよ、お前さんのその力で加工してみせちゃくれねぇか?」
「加工、ですか?」
「ああ。鍛冶ってのは普通、火で熱して叩いて形作るんだが……お前さんの力なら、もっと違うやり方ができるんじゃねぇかと思ってよ」
なるほど、確かに『磁極付与』なら、金属の形を変形させたり、引き寄せたりできるかもしれない。
今まではほとんど戦闘にしか使ってこなかったが、こういう使い方も考えられるのか。スキルの適用範囲が、思っていたよりずっと広いのかもしれない。
「やってみます」
まずは、目の前にある鉄鉱石の小さな塊にS極を付与してみる。
次に、近くに置かれていた別の鉄片にN極を付与する。
「『磁極付与』」
ピシッ、と音がして、鉄片同士がゆっくりと引き寄せ合う。まるで生き物が互いを求めるように、空中で微かに震えながら距離を詰めていく。
「お、おお!すげぇな!」
ブロアが目を輝かせて身を乗り出してきた。
「これなら、わざわざ火で熱さなくても金属同士をくっつけられるってことか!」
「そう、ですね。あと、力加減を変えれば、形を歪めたりもできると思います」
試しに、もう少し強く磁力をかけてみる。すると、鉄鉱石の塊がメキメキと音を立てて歪み、少しずつ細長い形に変わっていった。
「……これは、想像以上だな」
ブロアが呟くように言う。彼の目は、職人としての好奇心と、何かを掴んだ者の確信に満ちていた。
「アオイ、ちょっと付き合ってくれ。お前さんの力、俺の仕事にすげぇ役立ちそうだ」
「いいですよ。お世話になってますし、これくらいなら」
というわけで、俺はブロアの工房に時々顔を出すようになった。
鉄を引き寄せ、形を整え、時には不純物を取り除く――『磁極付与』を金属加工に使う、新しい使い道を見つけたのだ。
戦闘以外でスキルを役立てられるのは、なんだか新鮮で、悪くない気分だった。
そんな日々が続いて3日目。
「なあアオイ、お前さんの力、専用の武器作るのに使えそうだ」
「専用武器、ですか?」
「ああ。お前さんの力に合わせた武器なら、もっと戦いやすくなるはずだ。任せとけ」
ブロアは満面の笑みでそう言った。
その提案に、俺は笑顔で返した。
……もちろん、厨二病心が疼いたのは顔に出さずにだが。
この話で言いたかったのは、村に馴染んでいってますよーってことです。
あと数話の間、ほのぼの回が続きます。




