幕間 老獪
なんか突然ポイントとブックマークが増えてて、なんだなんだと思ったらレビューが書かれてました。
やったーと思っていたら、ありがたいことにランキングに載りました。ありがとうございます。
18話が短かったので、仕方なく幕間を書くことに。村長視点です。
コツン……コツン……
古い杖が、床を打つ音が、集会所の薄暗い部屋に響く。
わしは、窓の外を見下ろしていた。そこには、今日も村の者たちが行き交う。
畑を耕す爺ども、洗濯物を干す婆ども、走り回る子供たち。
何もない、平凡な村だ。わしはそう思っている。
だが——あの子が来てから、少しだけ、何かが変わった気がする。
アオイ・モチヅキ。
あの子を初めて見た時、わしは何を思ったか。
……そうだ、"あの目"だ。
あの子の目は、若者のそれではなかった。何かを失い、何かを得た、
そんな目だった。わしは長い人生で、何度もあの目を見てきた。
——召喚されし者の目だ。
…
..
.
わしが、召喚について知っているのは、知識としてだけだ。
若い頃、わしは冒険者を志していた。馬鹿な話だが、「世界を救う英雄になりたい」などと思っていた時期もある。
その頃、王都の図書館で、古い文献を読んだ。
「異世界召喚の儀式」——女神ロベリアが、死せる者をこの世界に喚び、勇者として使役する、というもの。
当時のわしは、それを「面白い話」として読み流した。
誰も信じていなかった。わしも、信じていなかった。
だが——
五十年ほど前、わしは「それ」を目撃した。
王都の裏手、小さな神殿で、光の柱が天に昇るのを。
そして、柱の中から、異様な装いの若者が現れるのを。
わしは、隠れて見ていた。恐ろしくて、動けなくて。
その若者は、女神に跪き、何かを誓った。
——そして、三ヶ月後、その若者は「魔王討伐に失敗した」とされ、
消息を絶った。
わしは、それ以降、冒険者を辞め、この村に戻った。
英雄になるなど、馬鹿げた話だ。世界を救うなど、できない。
わしにできるのは、この小さな村を、平穏に保つことだけだ。
だが——
あの子の目を見た時、わしは、あの五十年前的の光景を思い出した。
…
..
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アオイがステータスを見せてくれた時、わしは驚いた。
レベル305。各ステータス15,000以上。
この国の騎士団長でさえ、及ばぬ数値だ。
だが、驚くべきは数値ではない。
あの子のスキル——『磁石』。
わしは、文献を読んだことがある。召喚されし者に与えられるスキルは、通常、剣術や魔法、治癒など、明確な「戦闘能力」を持つものだ。
だが、ごく稀に——規格外のスキルが与えられることがある。
その多くは、持ち主自身にも理解しがたい能力で、
周囲からは「ハズレ」と見なされる。
だが、文献にはこう書かれていた。
『規格外のスキルこそが、最も———に近い力を持つ』
わしは、それが何を意味するのか、わからない上に、肝心なところが滲んで読めなかった。
だが、あの子の『磁石』が、単なる磁石ではないことは、わしにもわかった。
あの子が、森の魔物を倒し、ロカルドたちを助け出した話を聞いた時、わしは、あの「磁石」が、どれほどの力を持つのか、想像するに留まらなかった。
わしは、あの子に「ステータスを誰にも見せるな」と言った。
それは、あの子を守るためだ。
この世界には、召喚されし者を利用し、使い潰す輩がいる。
女神ロベリアも、その一端だ。
だが——
わしは、もう一つ、恐ろしいことを知っている。
召喚されし者は、元の世界に戻ることができない。
文献には、そう書かれていた。
「死者を喚ぶ術。蘇生せし者は、元の世界に帰れば、存在が矛盾し、消滅する」
あの子は、知っているのだろうか。
それとも——まだ、知らないのだろうか。
わしは、それをあの子に言うことができなかった。
あの子の目を見た時、わしは——
あの子が、まだ「帰りたい」と思っていることを、
感じてしまったからだ。
それを、口に出して言葉にすれば、
あの子の目の中の、わずかな光が、消えてしまう気がした。
わしは、臆病者だ。
…
..
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夜、わしは一人、集会所の机に向かっていた。
古い文献を、もう一度、読み返している。五十年前に、王都の図書館で見たものを、記憶を頼りに、手書きで記録したものだ。
『———の力の欠片は、形を持ち、人に宿る』
『磁石は、万物を引き寄せ、万物を拒む』
『それは、——の軸となる力の一端なり』
……わしには、理解できない。
だが——
あの子が、この村を去る日が来るだろうことは、わしには、わかっていた。
あの力を持つ者が、こんな小さな村に留まるわけがない。
いや、留まってはならない。
あの子には、きっと——
わしには想像もできない、大きな運命が待っている。
窓の外から、子供たちの笑い声が聞こえる。
わしは、杖を握りしめ、小さくため息をついた。
「……長生きは、するものではないのう」
あの子のことなど、知らなければよかった。
知らなければ、心配することもなかった。
知らなければ——
——あの子が、いつかこの世界の「何か」になる時、わしは、それを見届けることができないだろうことを、思い知らなくても済んだ。
わしは、老いた。
目は霞み、足は震え、明日を生きることすら、不確かだ。
だが——
わしは、あの子に、一つだけ伝えたい。
この村は、お前の帰る場所だと。
どこへ行こうと、どうなろうと、ここには、お前を待つ者がいると。
わしが、生きているうちに、
それを、ちゃんと言葉にして、伝えたい。
……臆病者の、ささやかな願いだ。
なんかすごい感動話っぽくなっちゃったなぁ……
ちなみに、文字が滲んで読めなくなっているのはとある人が故意にやったことです。(村長ではないです)




