17話 帰還
ここからは、今年から書き始めたやつです。
1年前に書いた1〜16話までとは若干雰囲気が変わるかも。
洞窟を出た時には、もう日が完全に落ちていた。
月明かりだけが頼りの森の中、俺はロカルドとブロアを担いで、村への道を急いでいた。
正直、二人同時に運ぶのはきつい。いくらステータスが上がってるとはいえ、人間を二人抱えて走るのはバランスが悪すぎる。
仕方ないので、ロカルドを右肩に担ぎ、『磁極付与』で作った担架もどき――金属を編んで作った簡易ストレッチャーに乗せ、『磁力吸引』で引きずりながら進む。
我ながら、ひどい絵面だろうな、これ。
「……ぁ、れ……ここ、は……」
不意に、肩の上のロカルドが小さく呻いた。
「気がつきましたか?」
「お、前……アオイ、か……?何で、お前が……」
「説明はあとです。とりあえず、村に戻りますから、大人しくしててください」
ロカルドは何か言いたそうな顔をしていたが、体力が限界なのかそのまま再び意識を失った。というか、そうしてくれないと困る。ロカルドは自覚がないようだが、実はかなりの重症なのだ。
そのまま黙々と歩を進め、ようやく村の柵が見えてきたころには、空が白み始めていた。
「お、おい!誰か来たぞ!」
見張りの声が響き、村の入口がにわかに騒がしくなる。
「あれは……ロカルドとブロア?」
「アオイ!?お前、何でそんな……!」
駆け寄ってきた村人たちが、俺の担いでいる二人を見て息を呑む。
すぐに集会所まで運ばれ、村の薬師らしき老婆が三人を診てくれることになった。
「うん……命に別状はなさそうじゃの。多少の打撲と裂傷はあるが、ちゃんと寝かせとけば治るじゃろう」
その言葉に、村中からホッとしたような空気が流れる。
「アオイ、お前が見つけたのか?」
「はい……森の奥の洞窟で、二人とも捕まってました」
「洞窟……それに、その傷の魔物は……」
「もう、倒しました」
その一言に、周りの村人たちがざわめいた。
「お、おい、もう倒した、って……お前一人で、か?」
「はい」
「あの森の奥に出る魔物だぞ?ロカルドでさえ手も足も出なかったってのに……」
どうやら、思っていた以上に非常識なことをやっていたらしい
まずい、ちょっと話しすぎたか。
あんまり目立つのはよくない、と思っていたはずなのに、疲れと安心で口が軽くなっていたらしい。
とはいえ、もう言ってしまったものは仕方がない。誤魔化すように頭をかく。
「ま、まあ、運がよかったんですよ。たまたま弱点を突けたというか……」
「運でどうにかなるレベルの魔物じゃないだろ、あれは……」
誰かのそんな呟きが聞こえたが、聞こえないふりをしておくことにした。
…
..
.
その後、村は朝から大騒ぎになった。
ロカルドとブロアの無事を喜ぶ声、そして俺への称賛の声。
今まで「森で拾ってきた、何者かわからん子供」という扱いだったのが、一晩でガラッと変わった。
「ありがとうな、アオイ!あんたのおかげでロカルドが帰ってきた!」
「俺の妹も、お前のおかげで畑が荒らされずに済んでるって言ってたぜ!」
次々と感謝の言葉をかけられ、正直、慣れない。
前の世界でも、こんなに大勢から感謝されたことなんて一度もなかった。十河と二人でつるんでいたくらいで、目立つタイプでもなかったし。
いや、十河ばっか目立ってて俺は陰だったな……。
そんな中、村長だけは少し違う表情をしていた。
遠くから俺を見つめる、その目には、感謝とは違う何か――探るような色が宿っていた。
あの、普段頼りないことばっかやってる村長だが、しっかりと村長としての目はあるらしい。流石にこれだけやらかせば、何かがおかしいと気づくだろうな。
その視線に気づかないふりをして、俺は集会所の隅で、小さく座り込んだ。
ロカルドとブロアが助かって良かった。それは、心の底からそう思う。
でも、同時に少しだけ怖くもあった。
あの岩のような魔物に負けそうになったのもある。
だが、それ以上に、
「ちょっと、目立ちすぎたかな」
目立てば目立つほど、いつか「異世界から来た人間だ」とバレる可能性も上がる。
そうなれば、また女神に何かされるかもしれない。あの女神なら、村ごと俺を潰すとか十分にやりかねない。
とはいえ、今ここで隠れて何もしないわけにもいかない。
この村に、世話になっている以上は。
「……ま、なるようになるか」
誰にともなく呟き、俺は重い瞼を閉じた。
眠れそうにないと思っていたが、しっかり疲れていたらしい。気づいたら、俺は眠っていた。
…
..
.
数時間後、目を覚ますと、すでに日は高く昇っていた。
集会所の中を見渡すと、ロカルドが上半身を起こして座っていた。
「お、起きたか」
「……ロカルドさん、体は大丈夫ですか?」
「ああ、お前のおかげでな。……それより、聞きたいことがある」
その探るような視線に、重い声色に、嫌な予感がした。
「——お前、いったい何者なんだ?」
ロカルドの目が、まっすぐ俺を見つめていた。
誤魔化しが効かなさそうな、そんな視線だった。
そもそもあれだけ暴れて誰も怪しまないのがおかしいような……レニス村の人たちって危機感薄い……?




