12話 人里
「何でこんな森に、1人でいるんだ?」
村に連れていってもらってる中、1人が話しかけてきた。
「えーと、あんまり覚えてなくてですね……」
「ふぅん……」
やべ、少し疑われてるな。言い訳を考える俺に、男が予想外のことを言った。
「お前、俺達に見つかって、運が良かったな」
「え?」
運が良かった?どういうことだ?この森って、そんなに危険なのか?
「運が良かった?何でですか?」
「いや、ちょっとな……この森には、今何かが起きている」
「何か?」
え?何だ?
俺なら、多分何が起きても対処できるだろうが……この森には、この先何回か来ることがあるかもしれないしな。
念のため、聞いておいた方がいいだろう。
男は辺りを一回見渡し、俺を見て言う。
「多分、この森には何かしらの化け物が湧いた。そいつが、この森の動物を狩りまくってんだ」
「化け物?化け物って、スライムのことですか」
「いや、違う。そんなものよりも、遥かに化け物だ」
あのスライムよりも化け物?あのスライムですら、ギリギリだったのに?
あのスライムより強いとなると、それは正真正銘の化け物だ。
この男の話し振りから、嘘とは思えない。多分、本当に何かがいるのか。
心配だし、聞いておくか。
「何でそうだと思うのですか?その魔物を確認したんですか?」
「いや、確認はしてない――だが、あちこちで魔物が死んでるんだ」
「死んでる?」
「ああ、しかも、かなり強力な魔物ばかり。普通の人間じゃ、瞬殺されるようなやつらだ。そいつらが、あちこちで殺されてるんだ」
ええ?ちょっと怖いな、何それ。
「そいつらを殺した化け物は恐らく、鎌鼬のような見た目だと思う」
「鎌鼬?」
鎌鼬って、あれか?手が鋭い刃になっていて、それで人を切り去ってくやつ。
「ああ。それ以外に、あんなに鋭い刃を持つ魔物なんて、他にいないしな」
「鋭い刃?」
「ああ、死んでた魔物は、ほぼ全てに鋭い刃物で斬られたような傷があった。しかも、かなり強く斬られたのか傷が抉られてる魔物も……」
ん?鋭い刃物で、かなり強く斬られてる?
『磁極付与』での、高速ナイフ飛ばし……。
えーと、すごい心当たりがあるんだが……。ちょっと、確認してみよう。
「その死んでた魔物って、どんなやつですか?」
「確か、一番最初に見たのが白色の狼で、その次はたしか猪で……」
はい確定。それ、俺ですね。ていうか、あのあと少し待てば、すぐに人と会えたのか……。
まあ、たくさん魔物を倒したことで、レベルが250くらいまで上がったしな。いいか。
「……ま、とりあえず気を付けろよ」
「あ、はい。わかりました」
気を付けるも何も……俺が、その化け物なんだよな。まあでも、やはり他の人が見ても、俺のスキルは異常らしい。
知られたら、避けられる可能性もあるし……持ってるスキルについては、黙っておくことにしよう。
ていうか、少し前から思ってたけど、俺のスキルの効果、強くないか?
決して、ハズレといわれるものではないような気がする。
いや……別に、ハズレなのは間違いではないかもしれないな。
ハズレ。外れ。元あるべきの、理から外れた、異常。
既存のスキルとは外れた、規格外な強さ。
そういう意味では、俺の『磁石』は"ハズレ"、なのかもしれないな。
などと考えながら、俺達は森を進んでいった。
...
..
.
数分歩き、その間二人と色々と話し合ったことでだんだんと打ち解けてきた。
先頭を歩く男の名はロカルド、その後ろに続くのがギース。
どちらも、二人が住む村を守る、自警団のような存在らしい。
森を抜けてからは、道は多少整備されており、歩きやすくなった。だが、周囲の景色は変わらず鬱蒼とした木々に囲まれている。
しばらく歩いていると、前方にちらほらと煙が立ちのぼるのが見えてきた。
「見えてきたな。あれが、レニス村だ」
ロカルドがそう言って指差す先、木造の柵に囲まれた小さな村があった。
素朴な木の家々が並び、柵の内側には畑や家畜小屋も見える。
「……こんなところに、人が住んでるんだな」
「まあ、何もない場所だけどな。安全ってわけでもないし、最近は魔物の動きも怪しい。お前が歩いてきた方角、あれは普通は通らない道だ」
「……そうなんですね」
村の入口に着くと、簡素な門の前で見張りの男がこちらに目を細めた。
「おいロカルド、そいつは?」
「森で迷ってた子供だ。とりあえず村に連れてきた。何者かはわからんが、ひとまず保護する」
見張りの男は眉をひそめた。
「こんな時期に、よその子供?疑わしいな……」
「気持ちはわかるが、だからって見捨てるわけにもいかんだろ。何かしらあったんだろうさ」
ロカルドのその一言で、見張りの男も仕方なさそうに門を開けた。
「わかったよ。ただ、村長には報告してくれよ」
「ああ、もちろん」
村に入ると、何人もの村人たちの視線が集まってきた。子供もいれば、大人もいる。
みんな、俺を見る目がどこか警戒しているようだった。
「おいロカルド、また妙なもん拾ってきたのか?」
「今度は子供かよ。最近、魔物も物騒だってのに……」
そんな声が聞こえてきて、思わず身を縮めたくなる。
俺の背後を歩くギースが、ぽつりと呟く。
「村人ってのはな、疑り深いんだ。特に、何もない田舎ほどな」
そうなのか……。少し、不安だな。ま、いざとなったら逃げ出せばいいか。
しばらく歩くと、村の中心にある少し大きめの建物の前に到着した。
木製の看板には「集会所」と彫られている。
「ここが、村の中心だ。村長も大抵ここにいる」
ロカルドがドアを叩くと、中から年配の男が現れた。
白髪交じりの髭、皺だらけの顔。だが、目は鋭く、こちらを射抜くように見つめてくる。
コイツが、村長か?
「この子は?」
「森で迷っていたようです。危険な区域を1人で……放っておくわけにもいかず、連れてきました」
村長はしばらく俺を見つめ、やがて頷いた。
「名は?」
……あ、俺?
えーと、望月葵……いや、違うか。
ここは、多分名を先にしたほうがいいか?
「望月葵です」
「……見慣れぬ名だな。出身は?」
「えっと……あまり、よく覚えていなくて……」
答えると、村長はほんの少しだけ目を細めた。
その視線が、胸の奥にチクチクと刺さるようだった。
「……そうか。まあ、事情はあるのだろう。だが、この村に入れるには、一定の信頼を得ねばならん」
「はい……」
「今夜は集会所に寝かせよう。だが、村の者と無闇に関わらぬように。少し様子を見させてもらう」
「ありがとうございます」
そうして、俺は集会所の一室に案内された。
床に藁が敷かれていて、角に置かれた古い布団が唯一の寝具だ。
質素だが、野宿よりはマシだ。
布団の上にゴロリと寝転ぶ。
眠れそうにないと思っていたが、すぐに眠気が訪れてきた。今日だけで、狼、猪、ダチョウ、独眼巨人、スライムと戦ったのだ。疲れていないわけがない。
俺はまどろみながら、ゆっくり目を閉じ、眠りについた――。
人との交流書くの、やっぱり苦手です。




