11話 知略
《レベルが上がりました》
《レベルが276になりました》
《『磁力吸引』のスキルレベルが4になりました》
《『磁極付与』のスキルレベルが5になりました》
「ふぅ……」
レベルが上がった。つまり、スライムが死んだ、ということだ。
倒せた。あの化け物を、倒せた。
うまく引っ掛かってくれてよかったな――演技に。
演技。
あの、1歩下がって逃げようとしたのも、演技。
3度目の『磁極付与』を諦めたのも、演技。
案の定、スライムはその演技を見て、俺にはもう戦う意思も逃げる気もないと思い込んだ。油断した。
その油断への、今までとは違う単語。そして、無動作の『磁力吸引』。
今までとは違う状況にスライムは戸惑い、その隙を突いたというわけだ。
ていうか、レベルが57も上がったんだが……このスライム、あの狼や独眼巨人よりも強かったのか。
死なずに倒せてよかった。
ズキッ
「痛っ!」
腕に走った痛みに、顔をしかめる。
そういえば、2発ほどスライムの攻撃を食らってしまってたな。
大丈夫かな、膿んだりしないかな……いや、それよりも出血は……止まった、のか?これ。
傷をよく見てみると、出血は完全に止まっていた。早くないか?
……あ、意外と、レベルとかが関係してたりしてるのか?
この程度のダメージで済んだのも、《防御力:10,950》が働いてたからかもな。
……《防御力:10,950》で、このダメージを与えられるのもおかしいんだが。
応急処置として、傷をよく水で注ぎ、破いた服の一部をきつく巻き付けておいた。
こういうことをするのは初めてなので、結び目が緩くなったりガタガタになったりしたが、何もしないよりはましだ。多分。
そして、立ち去ろうとしたとき。スライムの遺体の辺りで、何かがキラリと光った。何だアレ?
スライムの体はゼリー状からサラサラとした水のような状態になっており、どんどんと土に吸い込まれていく。
そして、完全にスライムの体が吸い込まれたあとに、ソレが残されていた。
近づいてよく見ると、2つの宝石のカケラのようなものだった。
ゴルフボール大の大きさで、色は青みがかった白。そして、かすかに光っている。綺麗だな。
これ、もしかして――スライムの、命核、か?
何かに使えるかもしれないので、とりあえず回収しておくことにしよう。
そして、スライムの命核を拾い上げる。
スライムの命核はヒンヤリとしていて、手の温もりをどんどん奪っていき――手に、霜のようなものが付き始めた。
冷たすぎだろ、これ!
慌ててポケットに入れる。が、ポケットに触れている太ももの熱まで奪っていかれた。
この命核、"周囲の熱を奪う"みたいな特性でもあるのか?
試しに、川に放り込んでみる。
たちまち水が凍り始め、30秒もすれば命核を中心に、直系7センチメートルほどの氷の玉が出来た。
多分、俺の考えで間違ってないだろう。
こんなものポケットに入れておくことなんでできるわけがないので、余っていた服を使って吊るしておくことにした。
命核についている氷をどうしようと思ったが、しばらくしたら勝手に亀裂が入って割れ落ちた。多分、急激な冷却による体積の変化に耐えれなくなったのだろう。
この命核の"周囲の熱を奪う"効果は、直系7センチメートルほどにのみ及んでいるらしく、こうやって吊るせば問題ない。
そして、ここまま歩いて人里を目指すか――と、その時。
「ぉ……ぁぃ……!」
かすかに、人の声がした――人の、声?
まさかと思い、声を上げる。
「おーい!誰かいるのか!?」
そう言って、耳を澄ます。
「お……か声が……なかったか……」
「……たような……かいる……か?」
いる。確実に、2人以上。さて、どうやったら俺の場所に気づいてもらえる?
……そうだな、音を立てれば、俺の居場所がわかるか。
そして、俺は腕を広げ――
パァンッ!
――手を、叩いた。
パンッ!パンッ!パンッ!
「お……から、なん……こえない……」
「……ちのほうか……てみよ……」
声が、近づいてくる。
そして――
ガサガサッ!
目の前の草をかき分け、二人の人間が出てきた。
――騎士。
真っ先に、そんなイメージが浮かんた。
体格のよい体につけられた、鎧。そして、その手が持っている大剣。
その尋常ではない格好に、一歩下がる。
「……子供?」
右の方の男が、沈黙を破った。
「おい、何でこんな森に1人でいるんだ?危ないぞ?」
「ええと……」
ここは、何て答えるのが正解だ?
異世界から召喚されて、追放された……いや、多分信用されないな。
あのクソ野郎の話しぶりだと、召喚はそう頻繁に行ってるものではないだろう。それに、国民に『異世界から勇者を召喚する』とか言ってないだろうし。そうでなければ、俺の追放をあんな簡単に決めるわけがない。
じゃあ、ここは無難な――
「歩いているうちに道に迷ってしまいまして……できたら、人里がある場所を教えていただけますか?」
ここは、最も無難な"迷子"にする。
「迷子ぉ?どんな風に迷ったら、こんな森に着くんだ?」
「えーと、あんまりよく覚えてないです……」
「……ま、いいか。この森を1人で抜けるのも危険だし、俺についてこい。俺の住んでる村に連れてってやる」
「ありがとうございます!」
そして歩きだした男の後を、俺は走って追いかけた――。




