10話 異形
最初の独眼巨人との戦闘は、正直読み飛ばしてもOKです。
独眼巨人の役割は、もう前話の時点で果たしましたから。
大量の独眼巨人を前にしても、焦りはなかった。むしろ、少しイラついた。
「……ったく、寝かせてくれよな」
俺は立ち上がり、『磁極付与』を発動する。あたりには、手頃な石も十分に落ちていた。
さっきよりも数は多いが、相手の動きは遅いし、単純。個別に狙っていけば余裕でいける。
群れの先頭が踏み込んでくる。巨体が地面を踏みしめ、振動が伝わってくる。枝が折れる音。大地のうねり。
「『磁極付与』、『磁極付与』」
一つ目の額を、石が貫通する。
《レベルが上がりました》
《レベルが136になりました》
よし、まずは一体――いや、二体か?
そんなことを考える俺を見て、隙ありと思った独眼巨人が俺へと走ってくる。
「『磁極付与』、『磁極付与』」
「グぐォォおアァ!」
独眼巨人の足に尖った岩を刺し、動きを止める。
そこへ――
「『磁極付与』」
岩が頭に突き刺さり、独眼巨人が地に沈む。
三体目、四体目――
磁力を切り替えながら、俺は眠気で少しぼんやりする意識のまま、機械的にそれらを処理していく。
ひゅん、と音が鳴れば即命中。石が風を切り、肉に食い込む。
サイクロプスたちは呻く間もなく沈んでいく。
あくびをひとつ。体はだるい。だけど、技術が追いついている。感覚で倒せる。
――弱い。
ステータスでは、負けている。格上なのに、弱い。
独眼巨人程度、俺には雑魚にしか見えない。
今の俺にとって、独眼巨人は――
《レベルが上がりました》
《レベルが183になりました》
――ただの、獲物でしかなかった。
最後の個体が大岩を踏みしめ、こちらに一歩踏み出す。
俺は無言で石に磁極を付与し、冷静に角度を見極める。
「……よし、ラスト――『磁極、付与』」
ブンッ――ゴチュッ
《レベルが上がりました》
《レベルが214になりました》
最後の一体の頭に、大岩をぶつけて沈黙させたところで、俺はようやく息をついた。
これで、全部倒した。だが……。
「眠い……」
今ので、精神力が尽きてしまった。
これ以上、起きていることができない。これ以上起きていても、途中で倒れて食われる。
「……マジで、寝る……」
木にもたれて座り、目を閉じる。
そしてすぐに、俺の意識は深く沈んでいった――。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
目を覚ました。
木々の隙間から漏れる光がまぶしく、思わず目を閉じる。
ここは――?なんで、こんな森に――。
思い出した。俺は、あっちの世界で死に、女神によってこっちに召喚された。
そして、女神に追放され森を歩いている。
今更だが、現実味がない。だが、これが現実。
さて――今目が覚めたのは、睡眠をしっかり取れたから、ではない。
今、明らかに自分とは違う揺れがあった。
そう、魔物の――。
すぐに起き上がり、ソレを視認する。そこにいたのは――
「……スライム?」
楕円――鏡餅のような形にまとまった、弾力のある体。
色は、青く透き通っていて、体の大きさは直系1メートル、と言ったところか?
絵や漫画とかで見たまんまのスライムが、そこにいた。
……スライムが美味しそうに見えるのは俺だけか?
そして、そのスライムの透き通った体の中に、白く光る玉のようなものが1つ。何だアレ?多分だが、命核のようなものか?
アレを壊したら、たぶん死ぬんだろう。そんな物を誰にでも見えるようにしとくとか……。
とりあえず、倒すか。もうちょっと寝たいし。
そして、俺はスライムを――スライムが雑魚と勘違いしたまま、スライムに手を向け――
「磁きょ――」
ヒュッ――ドス
「――――――ッツ!!」
スキルを発動しようとした途端に、スライムの体の一部が伸び、スライムに向けていた俺の手のひらに刺さった。
慌てて手を振るい、スライムの触手を手から抜く。
抜いた跡から、血が溢れだす。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
「クソッ……」
何だよこの世界のスライム、雑魚じゃなくて強いのか。このスライムが異常なだけっていうこともありえるか。
「――――――あ」
見えてしまった。
スライムの、俺から見て右後ろ辺り。
太くうねる、一本の角。
あの角――何度も見た、独眼巨人の、角だ。
このスライム――独眼巨人を、殺したのか?
もしかして――独眼巨人が何体もこっちに来てたのって、このスライムから逃げてたからか?
まずい……。このスライム、強い。
あの独眼巨人を、スキルなしで倒せるほどに。
俺でも、多分負ける。
ここは撤退か……。そして、後ろに一歩下がって――
――ヒュ――――ドガッ!
スライムから伸びた触手が、俺の背後の地面を抉った。
逃がす気は、ないと。
スライムの体が、小刻みに震える。
――笑っているのか?
俺という、雑魚に。
俺という、獲物に。
迷い込んできた、憐れな人間に。
その時、スライムの触手が鋭く尖った。
そして、独眼巨人の角を貫き、砕く。
――遊んでいるのか。
怖いだろう、そう思わせたいのか。
俺を、どのようにして遊ぶか。それを、見せてるのか。
「――――クソッ」
殺されるなんて、まっぴらだ。
もう一度、試してみるか。
「磁極――」
ブンッ――ヂッ
「……痛ぇ」
スキル名を言い終わる前に、スライムの触手が伸びて俺の腕を斬ろうとした。
ギリギリで腕を引いたため斬り落とされはしなかったが、深い傷ができた。
無理だ。スキルの、発動もできない。
スライムに手のひらを向けるが――脱力し、腕をだらんと垂らした。
それを見て、スライムが震える。
そして、触手を俺へと、ゆっくり伸ばしてくる。
俺は、逃げない。逃げられない。
そして、スライムの触手が俺の体に触れようとし――
「『磁力吸引』」
――触れる前に、磁力吸引を発動した。
その対象は、スライムの後ろにある、ナイフ。
独眼巨人と戦ったあと、回収し忘れた、ナイフ。
俺に集中していたスライムは、対処が遅れた。
初めて聞く単語に、所見の技に反応が遅れた。
そして、そのスライムの体を――
ヒュンッ―――ズバッ!
――ナイフが両断し、命核を破壊した。




