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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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164 ダンジョン突入6つ目

 ダンジョンに入るために地下洞窟を探索するという不思議な体験をしながら、俺たちはどんどん地下深くに潜って行った。

 その結果として、俺はこの世界に、ウーやシルフのような作られた魔物はいなくなっていると感じた。


 シルフが魔物かどうかは意見が分かれるだろうが、地球から連れてきた人間以外の知恵のある存在はドラゴンたちが作った生命であり、全て魔物だという定義に従えば、シルフだけでなくアリスも魔物である。


 途中で洞窟に住み着いている魔物に出会った。

 だが、それは魔物というより、巨大化したミミズやモグラ、ヘビやコウモリといった存在であり、洞窟を棲家とするのに違和感はない。

 ただ、俺が知っているものより、大きさも凶暴さも桁違いだというだけだ。


 人間の生き血を好物とするベティアは、血液すらない虫系の魔物たちを、不平を言いながら蹴散らした。

 ガルシスは、単体では最強の存在であるはずだが、前回の異世界でオーブから派生した存在であることがわかっている。


 オーブを分離し、破壊してしまったことで、能力は極端に弱体化しているようだ。

 ブレスは吐いても弱々しく細く伸びるだけで、相手に噛みついても口が小さいので致命傷は与えられない。

 怪我をする恐れがないため、最後にはベティアに武器として使われていた。


 アリスとシルフは警戒役で、ウーは何でも屋である。

 実質、ベティア一人でなんとかなったと思うが、俺もこれまでに習得した魔法を使って戦った。

 最初のダンジョンで手に入れた拳銃は、最近は使わなくなっている。

 拳銃で撃たれたことが致命傷になるような相手が、少なくなっているのだ。


「ここじゃな」


 洞窟を探索し出して3日も経過しただろうか。

 突然ベティアが言った。


「ああ。そうだな」


 ガルシスが応じる。

 俺にはわからなかった。

 確かに、洞窟の行き止まりになっている。

 目的地がもっと下にあるのだと言われても、どうしていいかわからない。


「そうなのか?」


 俺は、定位置のように俺のすぐ前にいたウーに尋ねながら、魔法の石板のマップ画面を表示させた。


「……さあ。なにもありませんけど」


 ウーは、自分の目に杖の水晶を押し当てていた。

 隠れたものを探す魔法なのだろう。


「ダンジョンの入り口は、魔法士しか見つけられないんだ」


 これも定位置として、俺の足にしがみついていたシルフが言った。ちなみにアリスは、定位置の俺の頭の上で眠りこけている。

 俺の頭の上を定位置としていることで、ガルシスとアリスでやや口論があったが、ガルシスが乗ると首が疲れるのだと俺が言ったことで、俺の頭の上はアルスの専用となった。


「なら、ベティアとガルシスはどうしてわかるんだ……なるほど、本当だ……」


 魔法の石板に、ダンジョンの位置が表示されている。俺の目の前だ。

 画面をタップすると、ダンジョンに吸い込まれてしまう仕様なのは経験済みだ。


「妾は、異世界の管理者だったのじゃ」

「俺は……別の世界の異物だったからだろう」


 ガルシスは、拗ねたように答える。


「もともとこの世界の者だったんじゃないのか? そうか……ダンジョンの入り口は、竜王の魂が異世界に転移したことで開いたんだ。そもそも、ダンジョンの入り口を開いたオーブそのものだったガルシスが、知ることができるのも当然か」

「あ、ああ。そうだな」


 ガルシスが、少し誇らしげに見えた。


「よし……ダンジョンに入る前に、休憩しよう」

「……なぜ?」


 ガルシスが首を傾げる。


「妾も腹が減った」


 ベティアが俺の足を突いた。


「ダンジョンに入ると、突然呼び出されるからですよ。すぐに戦えるように、体を休めてから入るんです」

「ウーが戦ったことなんかあるのか?」


 ウーが言うと、シルフは笑いながら、地面を穿り出した。


「……ここ、草がないです」


 アリスが俺の頭の上で顔を上げる。

 地下ではさすがに日が届かず、植物は育たない。


「十分に休んだら、入ってくれ」


 俺は、魔法の石板を示した。

 空腹のアリスと、芋虫もいなかったらしいシルフが消える。

 ウーは固形食糧をぶひぶひと齧ってから消えた。

 ガルシスは疲れるということもないらしかったが、しばらくして画面に触れた。

 最後にベティアが残った。


「二人きりじゃのう」

「……わかったよ」


 俺が座り、首を晒す。ベティアが噛み付いた。

 俺の血を啜って、満足してからベティアは言った。


「ソウジは、妾が飲んだ分の血が回復してからダンジョンに向かうと良い。すぐに妾の力が必要になるやもしれん。その時に、妾にタダ働きをさせるつもりなどないのじゃろう?」


 ベティアが笑いながら、魔法の石板に触れる。

 俺は暗い洞窟の中に残り、ベティアに言われた通りに休憩してから、魔法の石板をタップした。


 ※


 6つ目のダンジョンに入った。

 これまでで、1番目的に遠のいている。

 だが、俺に迷いはなかった。

 何もない、ドラゴンと植物だけの世界で死ぬまで過ごすか、ダンジョンに賭けるか、一つに二つである。


 迷う余地すらなかった。

 ドラゴンロードは言った。

 世界はただ存在するのではなく、世界を構成する鍵となる存在がいて、その種族が滅びることで、世界は滅び、閉鎖されるのだ。


 俺がホームにしている世界では、ドラゴンがその支配者であり、ドラゴンが種族として滅びない限り、世界は滅びない。

 数多い世界の多くは人間が支配者であり、人間が種族として滅びると同時に、その世界は滅び、閉鎖される。


 閉鎖された異世界がどうなるのかは、俺にはわからない。

 ただ、竜王の魂であるオーブが入り込んだ異世界は、本来の支配者が滅びた後も閉鎖できずに残り続けている。

 俺が地球にいた頃から、30000年が経過している。


 それだけの期間、過去を修正せずに同一の種族が文明を維持し続けることは、かなり困難らしい。

 ドラゴン卿キリシアンは、まだ滅びていない世界に俺を連れてきた。

 30000年前なら、あるいは20000年前でも、時間を遡り、任意のタイミングで時間旅行ができる技術はないかもしれない。


 今なら別だ。

 必ず、時間を遡る方法はある。

 俺は、それを信じることができた。

 だからこそ、6つ目のダンションに迷いなく飛び込めた。


「珍しいな。異世界からの客か」


 突然、俺は声をかけられた。

 異世界に移動した直後に、誰かに会うのは初めてだった。

 景色が突然変わり、暗い洞窟の中から光に満ちた場所に移動したため、目をしばたかせた。

 俺が目をこすると、それほど光に満ち溢れた場所というわけではなかった。


 俺に声をかけたのは、壁に映し出された映像の女性だった。

 壁の中で、映像が動いている。

 魔法か科学か、いずれにしてもかなりの文明の発達が期待できる。


「ここは……どこだ?」

「質問が漠然としすぎだな。お前が聞きたいのは、異世界としての情報か? 何をする場所かということか? あるいは、この世界の中での座標か?」


 壁に映し出されているのは、ほっそりとしたスーツを着た美女だ。長い茶色い髪を垂らし、透き通るような白い肌に、縦に線の入った青い瞳孔が印象的だ。

 口調とギャップがあるが、アバターを誰かが操っているのであれば、理解できる。


「他にも、異世界からきた奴がいるのか? ここは、異世界から来た人間のための部屋なのか?」


 まるで貴族の応接室のような、簡素ではあるが綺麗に整えられた部屋で、壁に額に入った絵と、花瓶や鎧の飾りが置かれている。


「聞いているのはこっちだが……混乱しているようだから、いいだろう。別の世界から来た奴が何人もいるかといえば、いないことはない。数百年に一人といったところだ。そんな奴のために、専用の部屋を用意することがあるはずもない。この部屋は、チュートリアルと呼ばれている。人生をやりなおたい奴が来て、新しい人生を選択するための場所だ」


「……すまん。ますますわからない。死ぬこともなく、人生を選択するのか? 司法取引とかで、経歴を変えるということか?」


 俺は、必死に理解しようとした。自分の理解できる言語に変換しようとした。


「ああ……お前は、そういった世界から来たのか。なら、意図してこの世界に来たのではないのだな。その程度の世界の認識で、異世界を渡る技術を持つはずがない」

「……悪かったな」


「いや。むしろ褒めているのだ。その程度の世界から来た割に、異世界に来たこと自体は理解しているのだからな」

「あ、ああ……」


 異世界に行くこと自体は、仮想としてさまざまな空想小説で読んで知っていた、とは言い難かった。

 壁に映ったアバターの先に、どんな存在がいるのはわからないのだ。


「異世界からの客は、むしろ歓迎だ。最近、どの社会からも退屈だという苦情が出ているのでな。異物を入れることでどんな反応が生じるか、観察させてもらうとしよう。特別に、案内人をつけてもいい」

「……『社会』というのはなんだ? 世界とは違うのか?」


「ああ。この部屋に来た奴は、次に生きる社会を選択する。社会は、全て同じ世界にある。悪いが、他の世界に行くことは禁じている。技術的に行けないわけではないが、強引に入り込んだ異世界が、有効的だとは限らない」

「……だろうな」

「社会とは……見た方が早いだろう」


 部屋にかかっていた壁の絵が、一斉に動き出した。


 そこには、時代も設定も違う、さまざまな異世界の映像が出現していた。

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