165 異世界の案内人
チュートリアルと呼ばれる部屋には幾つもの絵がかけられ、その絵が動いている。
ある絵の中では、俺が近代的と思う高層ビルが立ち並び、人々が暮らしている。
別の絵では、より金属的な、細長く高い塔がいつくもある。実際の縮尺はわからないが、直方体のビルよりも高そうだ。
さらに別の絵では、最大で二階建てまでの低い建物が並び、整然とした印象を受ける。
さらに別の絵では、暗い中で裸に近い姿で生活をしている人々がいた。
まだまだ絵はあったが、俺は全てを見る前に、中央にいた女性の絵に尋ねた。
「全て、この世界の中に、同時代に存在しているんだな?」
「そうだ。これが、社会だ」
これが地球であれば、文明の発展の仕方で、これぐらいの差はつくだろうと思えた。
だが、その時代から30000年が経過し、なお滅びずにいる世界だと知れば、それが自然に生まれた違いというより、意図的に作られたのではないかという印象を受ける。
「なるほど……チュートリアルか。ここからどの社会にいくか、選べるのか?」
「ああ。理解が早いな。ただし、一度選んだ社会からは、死なない限り抜けられない。自分のチュートリアルで、その社会を選んだことも忘れる」
「……なるほど」
俺は、魔法の石板を取り出した。
マップ画面を表示させる。
オーブの位置を確認するのだ。
無数にある社会のどこに行きたいか、というより、俺には選択の余地がない。 入った社会でオーブが存在しなければ、俺は死ぬまで出られないことになる。
俺は、マップ画面で表示されたオーブの位置を確認して、指差した。
「この方向にある社会にいく必要がある」
「ああ……それなら、どの異世界に行っても問題ない。それぞれの社会が、別の場所に存在しているわけではない。ここに表示されている全ての社会が、同じ場所で展開されている」
「……どういうことだ?」
俺には、全く理解できなかった。
「この世界で、何かを探すんだろう? さっきのは、そういう意味だな? 異世界から、狙ってこの世界に来たということか?」
「あ、ああ……」
俺は、オーブのことを言うべきどうか迷った。だが、女の姿をした絵は、それ以上を聞かなかった。
「どの社会を選んでも、それは見つけられるということだ。心配する必要はない」
「……そうか……」
「さあ、選ぶといい。細かいことは……そうか、異世界からきたばかりでは、ダウンロードはできないな。それでも、知識は社会に移動する時に得られるはずだ」
なんとなく頼りない物言いだったが、チュートリアルに来るのは、この世界の人間たちばかりだ。
異世界から勝手にきておいて、説明不足だと怒るわけにもいかないだろう。
「なら……あれでもいいか?」
俺は、一枚の絵を指差した。
その絵は、円柱形の建物が地上からそそり立ち、虹のような道路を人間たちが移動し、車が飛び交っている。
俺が思い描く、未来の社会に最も近いように思えた。
「承認する。では、約束通り、異世界からの客人に監視と案内をつける。ドラ」
「ニャン」
壁の絵が呼びかけると、俺の足元に綺麗な猫が出現した。
「では、良い人生を」
女の絵が、手元の書類に印を押すような手つきをした。
俺の意思が抜ける。
俺は膝をついた。
気がつくと、周囲の景色が一変していた。
※
俺は、絵に描いたような未来都市にいた。
もっとも、俺が現在いる時代では、地球上では未来すぎて人間が滅びているらしい。
俺がいたのは高い塔の展望台のような場所で、周囲はやや低い位置に円錐形のヒョロ高い建物が並び、半透明のチューブの中を列車らしいものが走り、虹が道路となって車が走っている。
「……チュートリアルから移動すると、必ずこの場所に来るのか?」
「それはないニャー」
俺の足元で、何かが鳴いた。
視線を落とすと、猫がいた。黒と白の縞模様の綺麗な猫だ。
だが、地球と同じ姿の猫がいるとも思えない。そもそも、猫は話さない。
チュートリアルにいた女性がつけてくれた案内だ。おそらく、生物ではない。
「どうしてだ?」
「チュートリアルから来た人間が全て同じ場所に出現したら、その場所を狙って網を張る奴が必ず現れるニャー。だから、誰もいない場所がランダムに選ばれるニャ」
「……なるほど」
俺は納得しながら、この世界の人間も、欲深く残虐なのだと肝に銘じた。




