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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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162 世界の管理人

 結局、安全が確認できている間にウーとベティアも魔法の石板から出して、体調を回復させることにした。

 この世界は、支配者であるドラゴンと対抗する植物たち以外はほとんど生命が死滅しているようだ。

 そのために、地面に転がっても誰にも襲われず、シルフたちがくつろいでいる様子を眺めて過ごした。


 俺が元々いた時代では、ドラゴンたちに魔法士として召喚された人間たちが、ドラゴンを倒すための勇者として活動していた。

 その勇者たちは、結局ドラゴンたちに勝てずに全滅したのだろう。

 俺が本来いた世界から千年後でさえ、勇者たちの痕跡さえ残っていなかった。


 そこからさらに一万九千年後であれば、勇者に会うこともないだろう。

 俺はアリスもシルフもウーも、新しく加わったガルシスも、のんびりくつろいでいる様子をしばらく見ていた。

 ただ1人、不満を持っていた。


「ソウジ、喉が乾いた」


 アリスたちと交わらず、俺の横で寝そべっていたベティアだった。

 体調という概念が存在しない吸血鬼の王を呼び出す必要はないのではないかと、俺も想像していた。

 だが、仲間はずれは良くないと思ったのだ。


「飲んでも平気そうか?」


 俺は、自分の血の量については、俺自身よりベティアの方が詳しいことを知っている。

 俺という存在が干からびれば、ベティアは血を飲めなくなるからだ。


「うむ。だいぶ回復しておる」

「一口だぞ。これから、力を借りることもあるだろうから」

「うむ。心得ておる」


 ベティアはにちゃりと笑うと、牙を剥き出した。


「キャー、いやらしい」


 俺の首筋に噛みついたベティアを、ウーか囃し立てる。


「……どうしてこれが、いやらしいと思うのか、俺はわからないが……」

「ただの食事じゃ」


 一口だけと言った俺の言葉に従ったのか、ベティアは顔をあげて口元を拭った。

 流れ落ちる赤い筋は、俺の血だ。


「そろそろ行こうか」


 俺が言うと、シルフは手にしていた地中の虫を口に入れ、アリスは草でいっぱいに膨らんだ頬を上下させた。

 小ドラゴンのガルシスは俺の前に着地し、ウーは蹄で魔法の杖を磨く。

 ベティアが立ち上がる。


「次のダンジョンの入り口はどこじゃ?」

「この祠の中だと思うが……」

「祠というより、ただの岩ですよ」


 ウーが、杖で積み上がった岩を叩く。

 俺は、魔法の石板の地図画面を呼び出した。

 確かに、ダンジョンの入り口がある。

 俺は、地図画面に表示された、ダンジョンの入り口画面をタップした。


 足元に穴が空き、俺たちは一斉に落ちた。

 それほど長く落ちたのではない。

 怪我はしなかったと思う。下も柔らかかった。


「ソウジ、無事か?」


 ただし、真っ暗だ。ベティアの声が下から聞こえ、怪我をしなかったのはベティアのおかげだとわかった。

 その直後に、俺の上にウーとシルフ、アリスが落ちてきた。

 最後に翼を広げてガルシスが舞い降りる。


「ああ……さっきまで無事だった」


 俺の腹にウーとシルフが着地した衝撃で、しばらく呼吸ができなかった。

 アリスの重さは、苦にならない。

 ベティアが俺の下から抜け出す。


「……ほう」

「なるほど、ダンジョンだ」


 暗さを苦にしないベティアとガルシスが感心する。


「ウー、灯りを」

「はい」


 ウーが俺の上から降りながら、杖の先端に灯りをともす。真っ暗だった闇が払われ、天然にできたと思われる洞窟の中にいることがわかった。

 魔法の石板のマップ画面を確認する。


「……いや。まだ、ダンジョンに入っていない。ダンジョンに入れば、オーブの位置が表示されるはずだ。ダンジョンへの入り口が、この洞窟の先にあるんだ」

「ダンジョンに入るためのダンジョンか……面倒だな」


 シルフが俺の足にしがみついた。シルフは勇敢だが、勇敢なだけではどうにもならない相手と、あまりにも多く遭遇してきた。


「ああ。俺をここまで連れてきてきくれたドラゴン卿は、入り口までしか案内できないと言っていた。穴には、サイズ的に入れなかった。ダンジョンの入り口が、長い間の争いで地下に沈んだんだろう。行こう」


 俺は、ダンジョンに入るためのダンジョンを進むことにした。


 ※


 俺、ベティア、ガルシス、ウー、シルフ、アリスというなんとも奇妙な6人パーティーで、ダンジョンの攻略に挑むことになった。

 明かりはウーが杖で灯している。

 中を進むと、モグラの巣を思わせる天然の洞窟になっていることがわかった。


「……これ……異世界への入り口に繋がっているんだよな?」


 俺は、魔法の石板のマップ画面で確認した。

 ドラゴンたちが支配するこの世界では、マップ画面はダンジョンという名の異世界への入り口を表示する。

 いつもは、ドラゴンがすぐ近くまで運んでくれる。


 近くにあることを確認し、タップすることで異世界に移動した。

 だが、俺が見る限り、かなり遠い。

 ダンジョンが広いのだろう。異世界ではなく、この世界の洞窟の意味だ。

誰ともなしに尋ねたと言うよりも独り言だったが、前を進んでいたベティアが答えた。


「そうじゃろろうな。この世界にとって、行き来できる異世界の入り口というのは、大切なものなんじゃろう?」

「ああ。その異世界の先には、必ずこの世界の竜王の魂の破片……オーブの形をしているが、それがあるはずだ。ドラゴンロードは、オーブがあるために滅びるべき異世界が閉鎖できずにいると言っていた」


「……ほう。ならば妾のいた世界も……人間という餌がほとんど滅んだ段階で、閉鎖されていたのかもしれんな」


 ベティアが言った。ベティアは、世界の支配者である地位にいたらしく、俺よりも世界のことについては詳しいようだ。


「世界が閉鎖って……どういうことだ?」


 首を捻った俺の頭上で、ガルシスが羽ばたいた。


「世界とは、生まれ、滅びるものだ。滅びれば閉鎖される。多くの場合、人間の絶滅をもって閉鎖されるが……そうでない世界もある。この世界もその一つだな。世界の支配者が人間ではないというのは、かなり珍しい。ドラゴンが支配者なのだ。ドラゴンが全滅した段階で、この世界も閉鎖される」


 金色の小ドラゴン、ガルシスは頭の上を飛んでいるのではなく、帽子のように頭にしがみつき、丸くなって翼だけ動かしている。


「ガルシスがいた世界も、人間はいなかったじゃないか。どうして、そんなことを知っているんだ?」


「どの世界にも、世界の管理人という奴がいるものさ。おいらは、あの世界じゃ異質だったし、そこの吸血鬼だって……本来の種族じゃないだろう? あいつの世界には、人間がいたんだから。世界の管理人になると、世界についての知識が流れ込んでくるんだ。だから……おいらは退屈していた。知りすぎるというのも、つまらないものだ」


「世界の管理人が、管理している世界から出ていいのかい?」


 俺は、ベティアとガルシスに尋ねた。

 ベティアは唇を尖らせた。


「妾の異世界は、オーブが破壊されておる。管理人がいようがいまいが、閉鎖されるときは閉鎖される。閉鎖された後、管理人はただ世界と一緒に滅びるだけじゃ。妾がいなくなったといっても、結果は変わらん」


「そうだな。おいらのいた異世界も同じだ。オーブがなければ……そもそも生じると同時に滅びていたかもしれないような世界だ」


 確かにガルシスのいた世界は、今まで俺が訪れた中でも、かなり異質だった。


「……ベティア、ゴリラの勇者がいた異世界はどうなんだ? 管理人は誰だ?」

「あの魔王じゃろうな。人間は滅んでいたが、オーブがある以上、閉鎖されなかった。閉鎖できずにいる間に、猿たちが異世界の支配者となっていたようじゃよ。猿たちが滅びない限り、あの世界は滅びんじゃろう」


「……魔王は、世界を閉鎖させようとしているのか?」

「じゃろうな」


 ベティアは、魔王のような存在ではあるが、魔王ではなかった。

 魔王の考え方は、推測するしかないのだろう。


 話しながら歩いている間に、曲がりくねった下る洞穴の先で、動いたものがいるのに、アリスが気づいた。

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