表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/180

161 ダンジョンINダンジョン

別の作品が完結したところで、再開します。

お待たせしていれば、嬉しいです。

それと、初レビューありがとうございました。大変光栄です。

これからも、どうぞよろしくお願いします。

 俺は、祠のように見える積み上がった石を前に、周囲を伺った。

 この世界で、見通しがいいのは初めての経験かもしれない。

 いつも木々に覆われ、あるいは巨木に圧倒されてきた。

 現在、何もない荒野で、目の前に積み上がった石がある。


 俺は魔法の石板を取り出し、生命魔法をタップする。

 耳を澄ます。シルフに言われていたが、魔法を使用すると、長い耳を持つシルフや、ウサギそのもののアリスに負けない聴力を得られるようだ。


 風の音、蠅のような小さな虫の羽音までが聞き取れるが、俺を食べようとするような生物が近くにいるとは思えない。

 俺が知る世界とは、すでに生態系が大きく変わっているのだろう。

 ドラゴンと、ドラゴンと敵対する存在が支配する世界だ。


 ドラゴンと敵対するというのが、ドラゴンロードの言葉を真に受ければ、自我を持った植物らしい。

 身の危険がないことを確認すると、俺はダンジョンを攻略する度に日課になっていた、石板の魔法画面を確認することにした。


 ダンジョンを攻略した後、ダンジョンでの使用回数によってレベルがあがり、ダンジョン内での経験に応じて新たな魔法を習得する。

 たぶん、そういう仕様だ。誰も説明してくれないので、自分で分析するしかない。

 確認すると、生命魔法がレベル6、精神魔法がレベル4になっていた。


 連打していた死霊魔法がレベル3、同化魔法がレベル3に上がり、あまり使用しなかった爆発魔法はレベル3から変わらず、一度しか使用しなかったゴリラ魔法がレベル2になっていた。

 新しい魔法は習得していない。

 それでも、かなりの成果だと思えた。

 俺は、魔物画面からアリスとシルフを呼び出した。


「わぁ……美味しそうな世界ですね」


 ウサギのアリスは、呼び出すとすぐに食べられる草を求める。

 魔法の石板に入っている間は時間が停止しているはずなので、常に腹を空かせているということだろう。


「ソウジ、ここは……戻ってきたのか?」


 シルフが尋ねながら、荒野に生えている草をむしってアリスに差し出した。

 アリスは、シルフに差し出された草を、もむもむと喰む。

 この世界では、植物はドラゴンと敵対しているということだったが、全ての植物が敵対するわけではないのだろう。


 荒野に、草は生えている。

 シルフに抜かれた草が、抗議の声を上げるということもない。

 シルフが草をむしるのは、アリスのためではない。草のしたに隠れている虫を探すためだ。

 むしった草をアリスに食べさせているのは、ついでのはずだ。


「ああ。五つ目のダンジョンを破壊した。ここは、次のダンジョンの入り口だ」


 俺が祠のような積み上がった石を叩く。

 シルフが耳をぱたぱたと動かした。ウサギのアリスほどではないが、シルフもよく耳が動く。


「……次のダンジョンに行くために、地下洞窟に入るのか。もっと、楽に入れるダンジョンはないのか?」


 俺も生命魔法で聴覚を強化して探ったが、シルフはもっと別のものを聞き取っているようだ。

 聴覚で探ることに対する経験値の差かもしれない。


「ああ。前回のダンジョンで、3万年以上が経過してしまったらしい。オーブがある異世界のうち、かなりの異世界が滅んだ後で、入ってもオーブを見つけることは無理だそうだ。残ったダンジョンには、時間を遡る方法が必ずある。時間を遡って、過去を修正することができなければ、知能のある生物が、何万年も世界を維持することはできないそうだ」

「……じゃあ、ソウジは3万歳なんですか?」


 アリスが、頬を草でいっぱいにしながら尋ねた。

 荒野である。生えている草の量は多くはない。

 だが、ゴリラと戦った異世界のように、世界が文明で汚染されたわけではない。

 草はそれなりに生え、アリスにとっては美味しい草であるようだ。


「ほとんどの時間、俺は凍ったままだった。人間は、数十年しか生きられない。凍っていると、そうでもないが」

「凍るってのは……あたしたちがソウジの魂の結晶に入るようなものか?」


 シルフは、指先にオケラを見つけて嬉しそうに尋ねた。

 見つけたオケラは、食べるのだ。


「ああ。俺は、魔法の石板に入ったことはないが、感覚としては同じようなものだろうな」

「ずっと凍っていたって……あの世界、そんなに寒かったか?」


 アリスもシルフも、さっきまで俺がいた世界を知っている。

 だが2人には、俺が凍っているところは見せていない。俺は答えた。


「新しい仲間の能力だ」

「新しい仲間? すごいな。また増やしたのか」

「新しい仲間って、雪だるまですか?」


 感心するシルフとは別に、アリスが奇妙なことを口にした。


「雪だるまが動くのか?」

「動きますよ」


 俺が尋ねると、口をもっしゃもっしゃと動かしながらアリスが応える。

 アリスはシルフの方を見ていた。シルフが頷く。


「冷たくて丸い魔物だ」

「そ、そうか……そういう奴もいるんだな。だが、それじゃない」


 俺は魔法の石板の画面をめくり、魔物画面を表示させた。

 確かに、1人増えている。

 前の世界で仲間になった、金色の小ドラゴンは、ウーとベティアは会っているが、シルフとアリスは会っていないはずだ。

 俺は、新しく増えた仲間のアイコンをタップした。

 その場に、金色の小ドラゴンが出現する。


「わっ、眩しいです」

「えっ? ド、ドラゴン? ソウジ、こんな魔物を入れて、魂が爆発しないのか?」


 単純に驚いたアリスに比べて、シルフは細い目を大きく見開いた。

 大きく目を開けたと判断できるほど、俺はシルフとは付き合いが長い。それほど、シルフは普段目が細いのだ。


「ここは……どこだ?」


 小ドラゴンが、体のサイズにしては長い首を巡らせた。


「俺がいた世界だ。オーブを壊して、別の世界に移動した」

「……ほう。突然だな。突然環境が変わるのだな」

「ああ。俺の魔法の石板に入っている間、時間が止まっているらしい。だからこうして、時々仲間になった魔物を、外に出すんだ」


 小ドラゴンは首を回らし、シルフとアリスを見つけた。


「……では、あれも餌ではなく仲間ということか?」

「ひっ!」

「アリス、落ち着け。食われないみたいだ」


 飛び上がるウサギのアリスを、シルフが抱きしめる。


「は、はい。でも……恐ろしい。私より小さいのに……」


 シルフに抱きしめられながら、アリスはがたがたと震えていた。

 元々ドラゴンに憧れていたウーとは違い、アリスもシルフも、ドラゴンを恐れていた。

 怖がるのは仕方がない。

 だが、小ドラゴンはすぐに2人を仲間だと認識した。俺にも意外だった。


「凄いな。よく仲間だったわかったな」

「魂が、ソウジと繋がっているからな」


 小ドラゴンは当たり前のことのように言った。


「『魂が繋がっている』?」

「さっきの世界では、死霊を捕まえていただろう。霊を見られるなら、見えるだろう」

「……本当だ」


 俺は、魔法画面を表示させて死霊魔法をタップした。

 その結果、目を凝らすと、俺の左手に持つ魔法の石板から、アリスやシルフ、小ドラゴンにまで、うっすらと繋がる糸のようなものが伸びているのに気がついた。

 右手を伸ばしても、触れることができない。

 何もないように素通りし、撹拌されるわけでもない。俺の所作に、呆れたようにドラゴンが言った。


「魂に触れられるなら、世界は死人で溢れかえるだろう」

「ああ……そうだな。アリス、シルフ、これがさっき言った新しい仲間だ。ドラゴンの……名前は?」

「あの世界で唯一無二の存在だったおいらに、名があるはずないと、前の世界で言ったはずだ」


 小ドラゴンは、気に入っているのか、俺の頭の上で体を丸めた。

 アリスが言った通り、丸まるとウサギより小さくなる。

 ただし、重い。おそらく、鉄製の兜ぐらいの重さはあるだろう。

 鋼鉄よりはるかに頑丈なはずなので、不思議はないが、俺の首の鍛錬になるだろう。


「そうだったな。前の世界でも、名前を聞いていた」

「だが……この世界にはドラゴンが大勢いて、区別するために必要なら、ソウジがつければいい」


「……ああ。そういえば、俺をここに運んでくれたドラゴン卿は、キリシアンという名前だ。ドラゴンロードは……俺が会った3万年前は1人しかいないから名前の必要がないと言っていた。俺の頭に乗るほど小さなドラゴンは、他にいない。だけど……ドラゴン自身は複数いる。他の世界にもいるだろう。紛らわしい時もあるだろうから、名前は欲しいな……ガルシスはどうだい?」


 俺は、かつて元々の世界にいた時にはまったことのあるゲームのドラゴンキングの名を提案した。

 俺の頭に乗っている金色の小ドラゴンは、前の世界でオーブが意思を持ち、変化したものだった。

 オーブは、この世界の竜王の魂が、ドラゴンの秘術によって異世界に飛び散ったものらしい。


 なら、小ドラゴンと竜王から生まれた、その小さな一部ということになる。

 オーブの部分を取り出して破壊したので、もはや竜王とは関係ない可能性が高いが、名前ぐらいは俺の知るドラゴンキングと一緒でもいいだろう。

 俺の頭の上で、小ドラゴンが首を上げた。


「そんな大層な名をつけられても、力の大部分はオーブと一緒に切り離された。あまり期待はするな」

「あ、ああ……」


 俺がつけた名前の意味を、原生生物が知恵を持つ世界のオーブが知るはずがない。


 まるで、俺の思考を読んだかのような小ドラゴン、ガルシスの言葉に、俺は息を呑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ