七章
翌朝。アランとアレニウスは旅支度を終えて、ウェンディの部屋の前にいた。
「・・・・・・遅いですね、ウェンディ・・・・・・」
「・・・・・・支度に手間取っておるのかの?」
「・・・・・・ちょっと呼んでみますか?」
アランは、女将さんから朝食分としてもらっていたのパンのお弁当を左手に持ったまま、部屋の薄い戸を叩いた。
コンコン・・・・・・
「ウェンディ?終わったかい?」
「・・・・・・」
部屋の中からは、ガサゴソと物音はするのだが、ウェンディの返事は聞こえなかった。その反応にアランはブツブツと考え込み始めた。
「・・・・・・何で返事がないんだ?・・・・・・物音はあるから、いるのは確かだ・・・・・・も、もしもだが、ウェンディの口が塞がった状態で、物音はするとなると・・・・・・ま、まさか!?」
焦った顔でアランは、戸を壊わすのではないかと思うほど叩いた。
ゴンゴンゴンゴンゴン・・・・・・!
「ウェンディ!出てきなさいっ!そこにいるのは分かっているっ!お兄ちゃんが中に入って助け・・・・・・んぐっ!」
ものすごい勢いで焦り始めたアランは、突然開いた扉に打ちのめされた。
「うるさいよ、アラン。近所迷惑、近所迷惑。ただ口にリボンをくわえながら、髪結ぶ途中だっただけだし・・・・・・」
扉から出てきたウェンディは、女将さんからもらった服を着ていた。
蜂蜜色の艶のある髪は、高い位置で一つに黒いリボンで結び、服は、ドレス型で短めの厚手のスカートの下にズボンを履き、長い皮のブーツを履いていた。
「・・・・・・ウェンディ?」
真っ赤な顔をして、鼻を押さえていたアランは、しゃがみこんだままウェンディを見上げていた。
「あ・・・・・・ちょっと待っててっ・・・・・・」
ウェンディは、気がついたように再び部屋に入ると、寝具に広がったもらい物の服を袋に文字通り詰め込み、袋を手に持って出てきた。
「用意は良いかな?」
アレニウスは、孫を見るような目つきでアランとウェンディを見ていた。
「あ、お待たせしてすみません。行きましょう」
ぺこりと頭を下げると、ウェンディは進みだした。――が、ふと思い出したようにアランを振り向いた。
「私が髪結んでいた時、何か勘違いしてよね?だいぶ焦ってたけど・・・・・・?」
ウェンディは、裏のない無邪気な質問をしていた。
逆に、全く別の意味で考えたアランは、顔を赤から青に素早く変え、パンを置いたまま慌てて立ち上がって追いかけた。
「い、いや!何でもないっ!!」
不思議そうに首を傾げたウェンディの底知れぬ『天然』の加減に銀髪の青年は、嫌な汗をかいていた。
アランが、朝食のパンを置いてきたのに気づくのは、宿を離れてしばらくしてからだった。




