三章
ダーウィン城の城下は、ガサラの中では賑やかな方では無かった。だが、店々はそれぞれの商品などを売ろうと威勢のいい声で賑わっていた。
「おばさぁん!これくださいっ」
木綿の服を着て、フードは被った明るい青空の色の目の少女が薄紫色のナデシコを指して、澄んだ声で呼び掛けた。
「あら、ウィンディちゃん。おつかいかい?」
「ううん。お父様のお見舞いに」
(よし!今日もバレてないっ)
そう、城下町では『ウィンディ』と呼ばれる空色の目の少女は、ウェンディだった。
幼い頃から、城を抜け出して、城下町で遊んだり、買い物をしていた。
「えらいねぇ、ウィンディちゃん。親父さんにこれ持っていきな?」
花屋の隣の果物屋のおじさんは、青色の林檎を差し出した。
「ありがと!お金・・・」
「いいってことよ!おじさんからの贈り物ってことで」
目皺が深く浮かぶほど優しく微笑むと、ウェンディの手を掴み、青色の果実を握らせた。
「でも・・・・・・」
「もらっとけよ、ウィンディ。『ドケチ狸』にただで貰えるなんてことは、そうそう無いぞ?」
向かい側の八百屋の主人は、自分の客におつりを渡しながら、話に加わってきた。
「『ドケチ狸』だって?ウィンディちゃんは可愛いからいいんだよ!」
「『ドケチ狸』の次は、『スケベ狸』か?」
二人の主人が言い争っている隙に、花屋にお金を払った。ウェンディは、不安げな顔で言い争いを見つめていた。
「おばさん・・・おじさん達、止めなくていいの?」
「えぇ、大丈夫よ。事あるごとに起こってるから」
「そぉ?じゃあ・・・私は帰るね」
お互いの頬を引っ張り始めていた二人は、その言葉に勢いよくウェンディの方を振り返った。
「「帰るのか?」」
「うん。あんまり出かけてると、心配するから。おじさん達、怪我しないでね?じゃあ!」
花を抱えながら、林檎を握りしめて走っていく彼女の姿は、風のようだった。
「なあ・・・あの娘ってさ、領主様のお嬢様の『ウェンディ様』だよな?」
八百屋の主人は、呟いていた。
「そうだよな。俺らの身近にまで来てくれて、親身に優しくしてくれる貴族はそうそういない」
城下の人々は、『町娘のウィンディ』は『貴族のウェンディ』であることを知っていた。だが、『お忍び』でやってくる、心優しいウェンディに、また来てほしいと思っていた。
城に帰ったウェンディは、着替えてそれまで着ていた木綿の服をクローゼットの奥にしまうと、花と林檎を持ってスティーブの部屋に向かった。
(お父様、元気になればいいな・・・)
ウェンディは、廊下の角を曲がろうとした。だが、ウェンディよりも大きな男性にぶつかってしまった。
「痛っ」
「気をつけろっ・・・!んっ?・・・ウェンディか」
ぶつかったのは、ラスタだった。
「あ・・・ゴメンナサイッ・・・」
「これからは気をつけろ」
マントを翻して、行ってしまった。ウェンディはくしゃっとなった手元の花を見つめていた。
(ナデシコ・・・つぶれちゃった・・・)
ウェンディは、それだけが悲しかった。
ウェンディが思ったより幼くなったかもしれません・・・。どんな風にすべきかなどありましたら、よろしくお願いします。




