二章
数日後のこと。シィーフ達がやって来たあと、過労の為にダーウィン侯爵は床に就いてしまった。その為、実子である、アランが政をおこなっていた。だがそんな中でもアランは、剣の稽古と学問は欠かさなかった。
アランとラスタは剣の稽古をしていた。
「なかなかだな。だが、まだオレには及ばないぜ!」
キーン!
ラスタはアランの練習剣を飛ばしてしまった。
「・・・手合わせありがとうございます・・・用を思い出したので失礼します」
そう言い、アランは練習剣を拾って壁にかけると、練習場を立ち去って行った。
『母上の言う通りかもな。アランは何でもない』
そう考え、剣を投げ捨てて小姓に拾わせると、ラスタは自室へ戻って行った。
「アラン、手を抜いてきたんでしょ」
練習場の見える、アランの部屋でウェンディは待っていた。
「あぁ。それよりお前は調子は戻ったのか?いや、勝手に部屋に入っていることを見ると平気だろうな。また、カレンに怒られるぞ」
「『レディらしくしてください。兄君だからといって、殿方の部屋に忍び込むのは…。貴族の方は、ウェンディ様のお年でしたら、婚約していらっしゃるはずですよ?』でしょ?もう聞き流してるから大丈夫っ」
アランは苦笑とも取れる顔で机に座ると、書類へ目を通しだした。
「それって、大丈夫なのか・・・?・・・それより、なんで紹介の席で顔色悪くなったんだ?それまでは普通だったろ?」
ウェンディは、首を傾げていた。
「私も分かんないのだけど・・・《勘》・・・っていうか・・・何ていうか・・・・・・」
「またお得意の勘か。今回はどんな風に感じたんだ?」
ウェンディは、ソファにあったクッションを抱きしめながら険しい顔をしていた。
「・・・・・・嫌な感じ?」
「・・・・・・それは分かりやすい評価で・・・。他には?」
アランは、ウェンディの邪魔な髪を耳にかける仕草に、可愛いと感じていた。
「何か・・・不吉なことを考えてます・・・って感じ?」
「・・・また分かりやすいな。でも、これは確かだな」
「奴らは、悪意を持って、この城にやってきた」
ウェンディの勘には信頼を寄せていたアランは、書類から目を離し、同じ光を放つ空色の目を見つめていた。
「そうね・・・そうしたら、アランは本気の稽古どうするの?ラスタに手の内がばれてしまったら・・・」
「そうだな。ボルトがいたら良かったのだが・・・アイイッヒ平原に夜行くことにするよ」
「乗馬によく行くところね?」
「あぁ。それはそうと、ウェンディは大丈夫か?シィーフはお前にべったりな感じがするが」
シィーフはウェンディを警戒しているのか、毎日毎日部屋に見舞いに来ていた。
「そうよね。でも、あの時から私に触れようとしてないみたい。何を考えてるのかしら」
二人は窓の向こうの沈みかけた夕陽を眺めながら、何事も起こらないことを祈った。
(あの小娘から気配が無くなっている。今がチャンスかしら)
シィーフは、水鏡を前に考えていた。
すると、今まで普通の水だったのが、血のような真っ赤になっていった。
コンコン
「どうぞ」
扉を開けると、ダーウィンの色である灰色の軍服に身を包む、茶髪の体格のいい男性がいた。ダーウィン領一の隊を持つ、バイン卿だ。
「突然お呼びして申し訳ありません。まぁ、そちらにお掛けになって」
シィーフは、自身でお茶の用意をしていた。
待ってる間、バイン卿は考えていた。
(なぜ自分の様なものを自室に入れたのだろう。侯爵には知られたくないことなのか?)
そんな考えを見透かしたようにシィーフは話し出した。
「驚かれたでしょう?卿にお話があったので来ていただいたの」
お茶をテーブルに置き、向かいの椅子に腰掛けながら話しかけ始めた。
「な、何でしょう?」
食い入るような目に緊張した様子で、お茶に口をつけた。
(そう、飲むのよ・・・)
バイン卿は目がトロンとしてきていた。卿の飲んだものは、意識を薄くする作用があるものだった。
シィーフは、バイン卿の耳元で囁いた。
「《トウドゥスドゥール》・・・」
その呪文は、《服従の術》だった。禍々しいばかりのビリジアン色を宿した目は、シィーフしか見ていなかった。
「・・・何でしょうか、シィーフ様?」
水鏡の水を小瓶に入れると、バイン卿に差し出した。
「侯爵の水差しにこの魔法液を入れてきなさい。寿命を極度に減らす物よ。行きなさい」
「はい、シィーフ様・・・」
バイン卿は、世界の絶対的王からこの上ない名誉を貰うかのように受け取った。
本来の卿なら、一度忠誠を誓った侯爵への反逆は絶対にやらない。だが、自分の意思を無くされた今は、どうすることも出来なかった。
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次話もお楽しみに・・・




