二十四章
エレナの侍女が、一着のドレスを抱えて来ると、ウェンディに手渡させ、またあとで、とエレナは、部屋を後にした。
そのあと、呆然とするウェンディを連れて、ジョージアは自室に帰った。
「おい。着付けるぞ」
侍女が普段やるようなことを慣れた手付きで、自分のコルセットなどをクローゼットから出している様子を見ながら、ウェンディは、自分の着る借り物のドレスを見ていた。
エレナが選んだドレスは、ウェンディの瞳に合わせた空色で、あまり派手でなく、袖や深い襟ぐりにレースがあしらわれ、濃淡を変えた薄布を重ねたスカートは、彼女の金色の髪のように動く度に違う雰囲気を与えるものだった。
ジョージアに着付けてもらいながら、いつも着るような首もとが隠れるドレスでは無かったため、首にかけている《ローズクォーツ》にふと気づかれた。
「・・・これは着けるのか?」
「え?あぁ、そうね・・・着けていくわ・・・」
何か不思議な力を持っていることは感じていたので、肌身離さず持ち続けていたのだ。
温かくなったり、冷たくなったりする変わった宝石は通常では有り得ないことは分かっていた。
だが、《闇魔術》のようなものではないと感じていたので、手放さなかった、いや手放せなかった。
理由はウェンディにも分からなかったが。
ボーッとしていたウェンディの着付けも終わり、何か思い立ったようにジョージアはウェンディを部屋から追い出した。
「ちょっ・・・ジョージアの着付け終わってないじゃない。私、手伝うよ」
「必要ない。それに、お前は着付けは出来ないだろ?」
「あ・・・」
着付けられることには馴れていても、着付けることは出来ないことにやっと気づいたのだ。
結局、締め出されてしまった。
パーティーは、儀礼的なものが終わり、ダンスの音楽が流れ始めた。
ウェンディは、所在なく壁際に立って賑やかな様子を眺めていると、グリンがグラスを持ってキョロキョロしているのが見えた。
近づいて行くと、グリンはやっと気が付いて、何やら見るからにオロオロした様子だった。
「な、なあ・・・ジョージアは来てるか?」
「少し遅れてくるかもしれないけど、来るとは思うよ」
「そ、そうか」
落ち着きなく、グリンは、周りを見渡していると、ピタリと止まった。
不思議に思ったウェンディが視線の方向を見ると、真っ赤な髪が映えるような黒いドレスを来たレディが入ってきたのだ。
「あ。お、お前もパーティー楽しめよっ!!」
そう言うと、突進するような勢いで赤髪のレディに向かっていった。
独り取り残されたウェンディは、近くを通りかかった給仕にグラスをもらうと、飲むわけでもなく、くるくる回していた。
(楽しむって言ったって・・・仕方ないから、アランでも探そうかな?)
結局、持っていたグラスを給仕に渡すと、アランを探そうとした。
だが、全く違う人と目が合った。
その人は、ウェンディの前に歩み寄って、すっと白い手袋に包まれた手を差し出した。
「レディ。一曲、踊っていただけますか?」
ダンスを誘ってきた男は、年のころでいえばもっと上なのだろうが、少年とも呼べるような容貌で、他の男性よりも身丈が低く、小柄なことから無邪気な印象も与えられた。金色の髪はウェンディのように輝き、翠玉色の光を瞳に宿していた。
「よ、喜んで」
断る理由も無かったので、手を握る。引かれるままに広間の中央に連れられると、体が固くなっていることを感じながら、踊った。
「自己紹介していませんでしたね?ボクは、タヒュテイン家のロジャーと言います。レディは・・・」
「ウェンディです」
「素敵な名前ですね」
爽やかに微笑んだ顔やさらっといった言葉には、ドキッとさせるようだった。
ウェンディは、真っ赤になった顔で目をそらすと、ロジャーは尋ねてきた。
「騎士・アランの妹君でいらっしゃるという話を聞きましたが?」
「えぇ。そうですが」
(アランのことばかり聞かれる・・・アランが有名なのか、もしくは・・・疑われている?)
その考えが顔に出たのか、ロジャーは微笑んで安心させようとした。
「特に深い意味はありませんよ」
曲も代わり、より密着する曲にならざるえない状況になっていた。
何か話題は、と探していると、ロジャーの方からまた話しかけてきた。
「ウェンディさんはおいくつですか?」
「来月で十六です」
「あ、僕の方が上ですね。十九です」
えっ、と驚いた。
その反応に、苦笑を浮かべた。
「よく驚かれますよ」
「すみません・・・。と、年上なら敬語はお止めください」
ロジャーは、その反応に、優しげに目を細めると、甘い声で微笑みかけた。
「君もそうしてくれたら嬉しい」
余計に真っ赤になったウェンディを面白がっているようにも見える。
無理やり平常心を保とうと、ロジャーから目を離すと、アレニウスと目が合った。何やらこっちにおいでと言いたげな感じだった。
ちょうど曲が終わると、ウェンディは、失礼しますと軽くドレスの裾を持ち上げながら言い、名残惜しそうなロジャーから離れた。
ウェンディは、アレニウスの目線に気づいても、踊り始めた時から浴びせられていた女性の嫉妬のようなものや男性の興味の視線には気づいてはいなかった。




