十三章
みんなが寝静まった頃。ジョージアは、アレニウスのもとから自身のテントに帰ってきた。
寝ているウェンディを気遣い、静かに小さな書き物机に座り、ランプに火を灯した。
ジョージアが、魔術団に入団してから綴り続けている日記をつけながら、夜を過ごしていた。
静かな夜だった。
だが、ジョージアのランプの他に、誰にも気づかれずに彼女らのテントで光を放つ物があった。
それは、ウェンディの寝間着の下の胸元から光っていた。
星の瞬きのように静かにゆっくりと―――
「・・・でね。ことりさんとおはなししてたら、にじが出てきて、きれいだったのぉ♪」
「へ、へぇ・・・」
普通科目には、来なくていいと言われていたので、世界史やら算数やらが終わった頃を見計らって、教室代わりになっていたテントに入ろうとすると、ちょうど休憩時間にぶつかってしまい、年下の女の子達に捕まっていた。
「お、お姉さん、ちょっとフリッツさんに挨拶しないと・・・」
「あのね、ウェンディおねえちゃんが来てることをミーナちゃんとアンちゃんに教えに行ったから、待っててね♪」
「・・・・・・」
空色の目を灰色に曇らせて、強ばった笑顔のウェンディは、囲まれている状態から、逃げることができずにいた。
「えーとっ・・・」
「おい。新入り何してる」
(きゅ、救世主っ!)
ウェンディの背後から、声があり、助かったと思った。しかし、誰なのか気になって振り向くと、ウェンディはなんとも言えぬ表情になった。声の主は、無表情の――否、不機嫌に近いような顔をしたフリッツだった。
「あ、フリッツさ・・・・・・はへぇっ!」
フリッツは、すっと女の子の輪の中心にいたウェンディに近寄ると、襟首を掴み、引きづるように何処かへ連れていった。
連れていかれたのは、石造りの小屋だった。
「初めは、ここで<魔術>を教える。お前の場合、基礎からだからな」
そういうと、机の上に蝋燭を二本立てて、椅子に座らされた。
「これは一体・・・?」
「<魔術>の基本、<着火の術>。蝋燭に火を灯すところからだ。では、手本を見せる」
フリッツが、蝋燭に手をかざして呪文を唱えた。
「フレイム」
小さな炎を出し、徐々に銀色の炎に大きくした。
「うわぁっ・・・!」
ウェンディは間近で<魔術>を見られて喜んだ。
「・・・そんなに喜ぶことなのか・・・?・・・まぁいい。次は、お前の番だ。まぁ、出来ないだろうが・・・・・・」
ウェンディは、フリッツの呟きを耳にも入れず、フリッツがやっていたように蝋燭に手をかざした。
(集中ぅ、集中ぅ・・・)
「・・・フレイムっ!」
張り切って大きな声で叫ぶと、青い炎が普通の倍以上の大きさにまで、勢いよく燃え上がった。
(凄い・・・出来た!)
しかし、あまりにも大きすぎてウェンディ自身の手にまで炎が当たってしまった。
「あちっ!」
集中が切れると、すぐ消えた。
「馬鹿っ!冷やしてきなさい!」
「はいぃっ!」
ウェンディは、石造りの小屋から勢いよく出ていった。
フリッツは、ウェンディよりも、無表情に保っていた顔の下で、驚いていた。
「最初から炎を出せたのは、自分が教えた中で初めてかもしれない。加減が分かればすぐに出来るようになるだろうが・・・何者だ・・・あいつは・・・」
フリッツの考え事が一つ増えた。
ウェンディは、水で冷やしながら、ため息をついていた。
(あーぁ・・・やっぱりうまくいかない・・・出来ないんじゃないかな・・・)
「どうした?んっ?火傷したのか?」
グリンが植物の入った鉢を持って、近づいてきた。
「ちょっと待ってろよ」
持ってきた鉢を置き、戻って行った。
しばらくすると、別の鉢と包帯を持ってきた。
「手ぇ出せ」
「え・・・?」
固まっているウェンディの手を無理やり取ると、持ってきた植物を使い始めた。
「この植物は火傷にとても効くんだ」
そう言い、真っ赤になった手に塗り、包帯で縛った。
「ありがとうございます・・・」
「敬語じゃなくていいぞ。くすぐったいからな」
白い歯を見せてグリンは笑いかけた。
そして、ウェンディの隣に座った。
「俺な。小さい頃、村で<魔術>を使ってたら、不気味がられて。友達が、全然いなかったんだ。その中から救ってくれたのが、アレニウスのじいさんだったんだよ」
「へぇ・・・」
ウェンディが、団員の過去を聞いたことは、初めてだったため、そんな過去を持っていたことに驚いていた。
「だからこうやって《魔術》覚えたり、人のためになるようなことしてるんだ」
真面目くさった顔で話したあと、少し顔を赤くして、はにかんだ笑顔になった。
「何を俺、話してるんだろ。」
自分の頭をくしゃくしゃっと頭を掻き、持ってきた鉢を持って立ち上がった。
「じゃあ頑張れよ」
グリンは、ウェンディの頭をポンポンと叩くと、もといた方向へ帰っていった。
ウェンディも、グリンと話して元気が出たのか、もう一度小屋に行き、くたくたになるまで、《魔術》の練習をした。
その日は、倒れるように寝てしまったのは、言うまでもなかった。
ウェンディは、霧がかかった草原にいた。
(ここ・・・どこ・・・・・・?)
ウェンディが、周囲を見渡すと、どこか見覚えがあったが、そこがどこなのかは、分からない。
だが、うっすらと霧の中に、誰かの姿があった。
(だれ・・・!)
ウェンディが、叫ぶと、何か聞こえる気がするが、聞き取ることが出来なかった。
人の影が消えかけ始めた。
(待って!誰なのっ?)
追いかけようと走っても、追いつくことができない。
やっと声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。
ウェンディ!ウェンディ!
誰かに肩を揺らされていた。
「・・・ディ、大丈夫か?」
目の前、言葉を変えれば、寝ているウェンディの上の方に、ランプを掲げたジョージアがいた。
「・・・ジョージアさん・・・?」
「あぁ。だいぶうなされてたぞ・・・起きれるか?」
「・・・うなされて・・・」
ジョージアは、ウェンディをベッドに座らせ、ランプを机に置き、自分の部屋に何かを取りに行ったようだ。
(あの《夢》・・・何だったんだろう・・・)
昔からウェンディは《勘》が、良かったこともあり、何かと《夢》に表れていたことが多かった。
(・・・前にもこんなこと・・・あったのかなぁ・・・?)
あの《夢》で見た草原に、記憶があったことが引っ掛かっていた。
そう考えていると、ジョージアは、仕切りのカーテンから、カップを両手持って戻ってきた。
「だいぶ落ち着いたか。今日は、いきなり《魔術》を使って疲れてたのかもな。これ、飲めるか?」
「あ、うん・・・」
空色のカップを渡されると、ほのかに花の香りがした。
「いい香り・・・」
「ラビー国の特産の仏桑花の紅茶だ」
「へぇ・・・」
カップを両手に包み、少し、ふぅっ、と冷まして飲んだ。
「・・・優しい味・・・」
ジョージアは、ウェンディの呟きが耳に入ったのか、机に浅く座って自分の赤いカップを見つめて飲んでいた顔を上げて、鳶色の目に優しい感情を浮かべた。
「私の親はな。恐い夢とかを見た時とか、悲しいことがあった時に飲むと良いと言ってたんだ」
いつも気の強い表情しか見せないジョージアの優しい表情に、ウェンディは、驚きと共に乳母のカレンに寄せていたような安心感を感じていた。
作者:・・・はい。やっと更新デス・・・
フリッツ:遅いぞ、作者。新入り以上に手際が悪い。
作者:うっ・・・。(この毒舌家が・・・)
フリッツ:なんか言ったか?
作者:いえっ、何もぉぉぉ!(汗)
フリッツ:それよりも、あの新入りは何者だ?不思議すぎて夜も眠れん。
作者:は、はぁ・・・そうですか。(それって、もしや・・・)
フリッツ:ううーん。さっぱり分からん。とりあえず次回もお楽しみに。




