幕が上がるまで①
文化祭まで三日。クラス出し物である喫茶店の準備の裏で【Re:Light】シークレットライブ(仮)の準備も進める俺は今日も昼休みを使って白峰さんとやり取りをしていた。
『学校の許可は取ってくれたんですね。ありがとうございます』
『榊さんがなんか上手いことしてくれたみたいですよ。紬の方はどうですか』
『あいつからはライブのことはなにも聞いてません』
紬は今回の件に俺が一枚噛んでいることを知らない。だから文化祭の話は出ても最終日にライブをするとは俺には言わない。当然【Re:Light】が来るとも聞かされていない。
白峰さんの話では紬とも頻繁にやり取りをしてセットリストや当日の段取りを確認しているそうだ。榊さんも学校への許可取りだけでなく情報が漏れないようにサポートをしてくれているらしい。
『わたしたちがお邪魔することを知っているのは校長先生など一部のみと聞いています。藤城くんが関与していることは知りません』
『了解です。すみません。面倒なこと全部押し付けた形になってしまって』
『芸能事務所を動かすのがどれだけ大変なことか、おわかり頂けたようでなによりです』
白峰さんはこの手の冗談が好きらしくクスッと笑う声が聞こえる。だが冗談とわかっていてもその言葉がグサッと胸に突き刺さり、微かな苦笑いを返すしか出来ない自分がいる。
『文化祭の準備もあるでしょうから、藤城くんはそちらを優先して頂いて構いません。事務的な手続きは榊さんがやってくれてますので』
『なにからなにまでありがとうございます』
『卒業ライブをしたかったのはわたしたちも同じなので』
実はわたしたちも楽しみにしていると言う白峰さんは「また連絡します」と言って電話を切る。ちょうど浩一がこちらに視線を向けてきたのでタイミングは良かった。良かったのだが――
「夜凪さんがいるのに浮気ですかな?」
「紬とはそんな関係じゃねぇよ」
「その割には毎日電話してるよな。隠し事は良くないぞ」
白状しろと言わんばかりに横腹を小突いてくるが本気で聞き出すつもりはないらしい。どうせ文化祭関係だろと笑う浩一だがその勘の良さには恐ろしさも感じる。
「なんだかんだ言って真面目だよなぁ」
「誰のせいで実行委員やってると思ってんだ」
「その節は悪かったって。で、実際のところどうなんだ」
「詳しくは言えんが、二日目の昼は夕月連れて体育館へ行け」
なにがあるとまでは言わない。だが運悪くライブが見れなかったら夕月は悲しむだろうし、なにより俺の命が危ない。なので勘付かれない程度に伝えておこう。さすがに【Re:Light】が出演するとは夕月も思うまい。
シークレットライブという特性上、【Re:Light】の出演はプログラムに載せられない。ステージイベントの進行を担当する生徒会へも直前まで知らせないことになっている。
詳しいことは言わず、ただ夕月を連れて体育館へ行けと言う俺に首を傾げる浩一は「ユーに聞いとく」と頷きはしなかった。こいつが夕月を優先するのはわかっていたのでそれで構わない。けれど最終日は昼から体育館で軽音部や有志によるライブが行われる。音楽好きの夕月が行かないと言うはずがない。
(夕月のやつ、絶対泣くよな)
大好きな【Re:Light】が文化祭に出演、それも卒業してもう見れないと思っていた紬の歌唱を目の前で観れたら間違いなく夕月は泣く。当初の目的からは少し脱線するが想像するだけで楽しみだ。
「おまえ。絶対なに隠してるな」
「なにも」
「嘘つけ。いま顔がにやけてたぞ。ほらさっさと吐け」
「黙秘権を行使しまーす」
再び横腹を小突いてくるのでわざとらしくとぼける。そんな俺に今度は横腹をグリグリしてくる浩一。そんな気心知れた相手だからできるじゃれ合いをしていると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




