もう一度、あの日へ②
その人から連絡があったのは榊さんと会った翌日の昼休み。飲み物を買いに購買横の自販機へ向かっていた時だった。
『藤城遥人さんの携帯ですか?』
声の主は榊さんではない。そもそも連絡先は交換していたのでいまさら本人確認をするようなことは無い。澄んだ落ち着きのある声に聞き覚えはあるがその持ち主に心当たりがない。
『えっと、誰ですか』
『あ、ごめんなさい。わたしは白峰灯里と言います』
『……はい?』
まさかの自己紹介に思考が停止した。
白峰灯里という名前には覚えがある。いや【Re:Light】を知っているなら知らないやつはいないはずだ。リードギター担当で紬が卒業したいまはメインボーカルもしている白峰灯里本人なのだから。
『驚きました?』
『は、はい。でもどうして俺の番号を?』
『榊さんから教えて貰いました』
俺の個人情報は叩き売りでもされているのか。母さんに榊さんといい、簡単に教えすぎだろ。いやまぁ、今回は仕方ないか。俺が無理言って頼んだ話なのだ。むしろこうしてメンバーと直接やり取りできるのはありがたい。
『話は伺ってます。あ、いま昼休みですよね。時間大丈夫ですか』
『大丈夫ですけど白峰さんは?』
『はい。ウチの学校も昼休みなので。それにしても面白いこと考えますね』
普通の事務所ならこんな話受けませんと呆れたような言葉とは裏腹に、電話越しの声は少し明るかった。つまり彼女自身も今回の話が嫌ではないと言うことだ。
『わたしたちももう一度、紬と一緒に演奏したかったんです。ありがとうございます』
『礼を言うのは俺の方です。無理言ってすみません』
『そうですね。出演料無しって言うのは笑ってしまいますが』
『それは……すみません』
『フフ。冗談ですよ』
紬のためならお安い御用だと言う白峰さんの声は浮かれていた。その様子から他のメンバーも同じなんだろうと想像できた。
『せっかくの休み時間を奪うのも悪いですし、メッセージアプリのⅠD送るのであとはそちらで』
『わかりました』
『一応プライベートの方なので悪用しないで下さいね』
わざとらしく釘を刺してくるのは白峰さんなりのからかいなのだろう。警戒していると言うより楽しんでいる風の口調に思わず苦笑した。
それじゃまた後でと電話を切り、何気なく振り返ると不敵な笑みを見せる悪友が一人。どうやら会話を聞かれていたらしく、浩一は「なにか企んでるな」と聞いてくる。
「悪いが黙秘権を行使する」
「夜凪さん絡みってことか」
「なんでそうなる。ただまぁ、あいつには絶対知られたくない。少なくとも俺の口からは言えない」
いずれ榊さんや白峰さんから今回のサプライズの話は紬も聞かされることになるはずだ。
だが、それはあくまで【Re:Light】のメンバーの発案という体でだ。俺はこの件に一切関与していない。そういうことになってる。なのでいくら親友でも事情を話す訳にいかないのだ。
「二人には黙っておいてやるぞ」
「しれっと夕月を混ぜるな。とにかくいまはなにも言えん」
「なるほどねぇ」
じっとこちらを見つめる浩一だがなにか察するものを感じたのだろう。言えるようになったら教えろとだけ言い、俺の横を通り過ぎるとそのまま教室へと戻って行った。




