秘密は長く続かない②
駅ビルの中にあるファストフード店。その一角のテーブル席で浩一と向かい合う俺はジト目で彼の隣に座る少女を見つめた。
「なんでおまえまでいるんだよ」
「だってコーが『遥人から面白いこと聞ける』って言うんだもん」
「って言うか、二人まとめて話した方が遥人も楽だろ?」
あくまで省力化のためだと主張する浩一は早く白状しろと急かす。
「この際、隠し事は一切なしな。嘘偽りいなくすべて正直に話すことを誓え」
「はいはい。誓いますよ。それで、なにから話せば良いんだ」
「とりあえず夜凪さんとどんな関係なのか聞かせろ」
「ただの幼馴染だ」
「へぇ、幼馴染……えぇ⁉ 嘘でしょ⁉」
「ユーうるさいぞ」
想定通りの反応を示す夕月とは真逆。なるほどと呟く浩一は落ち着いた様子でいつから知ってたんだと尋ねてきた。
「幼馴染って言うくらいだ。付き合い長いんだろ」
「小五――あいつが上京するまでは一緒だった」
「なるほどなぁ。ま、そんな感じなんだろうとは思ってたけど」
世間って狭いなと苦笑する浩一はポテトをつまみ、別に言いふらしたりする趣味はないと言う。俺自身、彼がそんな奴とは思っていないから打ち明けた訳だが、夕月はどうも納得できてないのか頬を膨らませこちらを睨んでいる。
「……遥人は昔から紬のこと知ってたわけだ」
「怒ってんのか」
「怒ってない。でもズルいなって。そりゃアタシがとやかく言えることじゃないのはわかってるよ。けどズルいなって」
「おまえ、ホント夜凪のこと好きなんだな」
「紬――ムギはね“歌う”じゃなくて”届けよう“とするんだ。歌詞を大事にしてるって言うか。それにムギ自身に引き込まれる感じがするの」
「引き込まれる?」
「ムギってボーカルだけどライブだと一番地味で目立たないんだ。でも気付いたら目で追いかけるようになっていたの」
本人が聞いたらどんな反応を見せるのだろうか。自分だけが知ってると言わんばかりに紬の魅力を語る夕月の目は眩しいほどに輝いている。
「箱推しが多い《Lighters》の中でムギ推しって本当に少ないんだよね。だけどアタシはムギの歌が好き。いつの間にか自分の世界へ引き込んでしまうムギが好き」
「そっか。夜凪が聞いたら泣いて喜ぶな」
「けど、遥人はアタシ以上に紬のこと知ってるんだよね?」
「ん?」
「幼馴染って言うくらいなんだから知ってるでしょ。紬のひ・み・つ」
「は?」
「遥人だけ知ってるなんてズルいぞー」
ニコッと満面の笑みを向ける夕月ほど怖いものは無い。そう確信した俺は他人のフリを装おうと決めこむ親友へ助けを求めるがバッサリ切り捨てられた。
「自分で蒔いた種だろ。最後まで面倒見ろ」
「素直に吐いた方が楽だよ~」
「あのなぁ……」
「ほらぁ~早く言いなよ」
「あいつは炭酸が飲めない。これで良いか」
浩一にもバレてることだ。他人の秘密を漏らすような真似は好きじゃないがこれなら紬も見逃してくれるだろう。
「昔から炭酸系は苦手だな。口の仲がチクチクする感じが嫌らしい」
「あ、それわかるかも。アタシも炭酸苦手なんだよね」
「誰も食べないよう激辛ポテチ食べるのに?」
「それとは刺激が違うよ」
「左様で」
ハバネロソースを追加トッピングしたチリドッグを頬張る夕月に呆れつつ、俺と紬が幼馴染であることは公言するなと釘を刺す。すると夕月は頬に付いたソースを指で拭い取りながら予想外の反応を見せた。
「秘密にする必要なくない? 隠してるとバレた時にいろいろ突かれると思うけどな」
「それはほら、あいつの公式プロフィールにはそんなこと一言も載ってないしだな……」
「へぇ、オフィシャルサイト見てるんだ? うーん。これはまだなにか隠してるにおいがするねぇ」
どうやら今日の俺は口を開かない方が身のためらしい。ジト目で見つめてくる夕月の圧が強い。早く話せと言わんばかりに不敵な笑みを見せる。こうなったら仕方ない。俺史上最大の秘密を打ち明けるしかない。
「絶対、紬には言うなよ」
「なになに。紬のことが好きだって?」
「茶々入れるなら言わねぇぞ」
「ごめんごめん。で、なに?」
「実はな――」
これは本当に紬に知られたくない秘密だ。紬の秘密を教えると言う当初の趣旨から逸れ――いや、他人の秘密を漏らすこと自体がナンセンスだがこれで相殺出来るだろう。
紬が上京してから今日まで俺がひたすら隠していた秘密は見方によっては秘密でもなんでもない。夕月もそれを「隠すようなことじゃない」と笑い、浩一も彼女に同感するように頷いた。
「まぁ、おまえの立場的に隠しておきたいってのは理解できるな」
「だね。でも遥人がねぇ?」
「別に良いだろ。とにかくあいつには黙ってろよ」
「わかってる」
「夕月もだぞ」
「さすがに他人の秘密を言いふらしたりしないよ」
念を押す俺に大丈夫だと笑う夕月はなぜか嬉しそうだ。同じものを共有できる同志が出来たことを喜んでいるのだろう。
気持ちはわからなくない。だが気恥ずかしさの方が俺は強い。それでも少しだけ気が楽になったのは間違いなかった。




